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[掌編]鼓動は思うより正直で

2013.03.21 Thu [Edit]

The Peeping Cat, Milk.
The Peeping Cat, Milk. / J i J y



苦手な相手、っていうのは、意外といるものだと思う。
初対面から、なんだか苦手で、うまく話せなかったり、妙に気に障る、そんな相手に、稀に出会う。
もちろん、第一印象でそう感じるだけだから、最初はそう思っていても、次第に変わっていくこともある。
たとえば、取っつきにくい感じで、ズバズバきつそうな性格の人が、いうことはきついけれど逆にものすごく親身になってくれるようなタイプだったりする。
そんなことがあるから、第一印象だけでは、全ては決まらない、って、わかっているつもり、なんだけど。

それでも、苦手な人、っていうのは、確かに、存在するのです。



私は、割りと人のことを嫌いだと思うことがない。
もちろん、とんでもないことを目の前でされまくってそれが自分に実害があれば別だろうけれど、意外とそこまで酷い人っていうのは、世の中巡りあう事は少ない。殺人犯とかで、私に実害があればさすがに嫌い、だとか、恨む、とかそういうふうに思うんだけろうけれど、自分に関係無い所で起こる様々なことにたいして、ある意味無関心ともいえるレベルで、どうでもいいと思ってる。
小中と、学校で出会う人間で、苦手だな、と、感じる人は多少いたけれど、話してみたり交流すればそうでもなかったり、例えば苦手だったとしても自分とはあまり関わりがなかったりで、だから、特に弊害もなかったし、それ以上に嫌いだとか近づきたくないとか、そんなふうに感じることはなかった。
割りと、感情面では平穏に過ごしていたのだ。割り切りすぎ、ともいえるかもしれないけれど、普段は穏やかに人当たりよく笑ってて、そんなふうには見えない。
穏やかに、ゆるやかに、私は、平穏無事に、学生生活を、送ってきたのだ。

高校生になる、この時まで。

だから、これは、ある意味私にとって、初体験だ。
こんな初体験、欲しくはなかった、けど。

苦手だな、と、感じたのは、入学式で同じクラスになった時だった。
ぶっきらぼうで無表情、自己紹介もあまり言葉を話さなくて、周囲の男子ともあまり会話してない。
特に不細工とか、イケメンとか、そんなこともないごく普通の男子なのに、ずっと周囲と壁を作ってるようで、違和感を感じた。
なんかとっつきにくそう、と、感じたのが、最初の印象。苦手なタイプかも、と、思ったけれど、第一印象で決めるのはよろしくない、と、自分でもわかってたし、それに、男子と女子じゃ、絡むことも少ないから問題無いだろう、と、さっくり切り替えたのが最初だった。

そう、絡まなければ、問題なかったのだ。ただのクラスメイト、それだけで済むはずだった。

委員会決めで、彼と同じ図書委員に割り振られるまでは。

立候補じゃなく、くじびきで決められたそれに、いやだな、とは思ったものの、それでも今年一年委員会のパートナーなのだし、と、私は彼に友好的に挨拶をした。

よろしくね、と、笑う私に、彼は一度だけ、ちらり、と、視線を寄越して、ああ、と、短く返事を返す。

それだけ。
いや別に、それ以上の何かを求めてるわけじゃないけれど、と、予想通りの取っつきにくさに苦笑いをしたのが、一学期のこと。

それでも、しょっちゅう一緒になるわけじゃないし、週1の当番だけ乗り切ればなんとかなるか、と、そう自分に言い聞かせていたのだった。

当番は、予想通りに、気まずい雰囲気だった。いや、私がひとり気まずかったのかもしれない。彼は、割とどうでも良さそうに、何かの本を読みながら、適当にかかりの仕事をこなしていた。
うん、わかってるんだ、取っつきにくそう、とか、苦手意識を持っているから余計に、私の方から声をかける時に躊躇するんだ、っていうのも。私が身構えすぎな部分もある、ってわかってるんだけれども、毎度毎度、どこか人を寄せ付けない空気を醸しだして、ああ、とか、そうか、とか、短く返事をされるこちらの身にもなってほしい。
話しかけるのがつらくなるし、挨拶するのにも心が折れる。

必要以外の会話で声を掛けたりをしなくなったのは一学期の終わり、それでも、挨拶だけは続けていた、夏休み。
夏休みになんで図書当番があるのよ、と、内心イライラしながら作業していた私に、彼が突然話掛けてきたのは、何故だったのだろう。

疲れてるのか? と。
彼が突然声をかけてきて。え、と、疑問で振り返った私に。無理して挨拶しなくていいぞ、なんて。どうでも良さそうに。そんな風に声をかけてきて。
カッと、頭の芯が、熱くなる。湧き上がったのは、怒りだったのか、羞恥心だったのか。

わかった、と、答えた私の声は、震えてなかっただろうか。わからないけれど、それだけ告げるのが精一杯だった。

家に帰ってから、羞恥で枕に顔を埋めた。そうだ、私は恥ずかしかったんだ。良い人ぶって、少し上から、割り切ったとか言いながら、誰にでも好感を得ようとしていた。彼はきっと、それに気づいていたんだ。苦手だけど、挨拶しなきゃ、とか、そんなふうに私が思っていたことを。

恥ずかしくて恥ずかしくて、身悶えて。でもだからってなかったことにはならないし。

また当番であうんだな、と、思うと、彼に対する苦手意識がより一層強くなった。行きたくないな、と、思った。

それでも、次の当番の時。渋々と出かけた私は、彼をみた瞬間、心臓がはねた。どきどきと、緊張からか、鼓動が強くなる。

挨拶は無理しなくていい、と、彼はいった。でも、全くしないのは、何となく私の主義的にいやだ。

苦肉の策で、頭を下げた。会釈、ってやつだ。彼は一瞬驚いたような顔をしたようだけど、私はすぐに目を逸らした。顔をみるのが、怖かった。


苦手だ、苦手だ、と、思っていても、クラスメイトで同じ当番で、全く縁を切る、ということもできなくて。

二学期、必要最低限の委員会の連絡事項の伝達と、当番での会釈や、最低限の会話だけになった。
でも、そのたびに、心臓が変な音を立てる。苦手すぎて緊張してるのかな、と、思ってたけど、それにしては違和感があって。

でも、認めたくなくて、私は、彼のことが苦手なんだと、内心でただ繰り返し続けた。

冬休み中は当番がなく、全く彼に会わない日が続いた。
なんとなく、違和感。苦手なんだから会いたくないはずでしょ、と、自分に断言し続ける日々。


冬休みを超えて、三学期。

初登校した教室で、彼の顔をみた瞬間、もうごまかせない、と、思った。

彼をみた瞬間に、いつもとは違う動きをみせる心臓の音は、もう、私の心よりも正直だった。

ああどうしよう、と、思い、教室の入口で立ち尽くす。

それに気づいてか彼が、ふ、と、こちらに視線を向けた。

ああ、おは、よう?

疑問形で、少しぎこちなく告げられたそれに、驚く。


ああ。もう。

苦手だ、と、思ってたはずだった。
苦手で、嫌いだ、と、感じていたはずだった。

なのに。
鼓動はこんなにも正直に、私の感情のまま、反応する。


なんてこと、と、思いながらも、私は、少しだけ嬉しくなる。

ゆるり、と、表情が笑顔になるのを感じながら、私は、そっと言葉を返すのだった。


おはよう。これからも、よろしくね。



「恋したくなるお題」http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/index.html
■ 甘々・ほのぼの系 (1~20)より 「06.鼓動は思うより正直で」

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