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[掌編]君が僕を呼ぶ甘美な瞬間

2013.03.20 Wed [Edit]

The cat looked back as it entered the Underworld
The cat looked back as it entered the Underworld / Newtown grafitti



「ねえ、ねえってば!」

後ろから掛けられる声を、聞こえないふりで足を進める。
あと少し、もう少しだけ、と、心で唱えながら、学校へと足を進める。

「もー、まってよー!」

身長差からか、なかなか追いつかない彼女は、少しだけ息を切らせながら、僕に声をかける。

だけど、僕は、足を止めない。

「もーっ、ユウヤ、まってよ!」

ゆるり、と、僕の顔は緩む。
足を止めて、振り返る。

「やっと呼んだな」

息を切らせ、悔しそうな彼女に、僕は笑う。

僕は、この一瞬が、何よりも好きだった。



名前を呼ばれる回数、というのは、普通に生活していると、想う以上に少ない。

呼ばれるとしても、苗字であることが多く、友人同士てあっても下の名前を呼ばれることなど、なかなか無いものだ。

家族の間でも、以外に名前を呼ばれない。特に、兄という立場にあれば「お兄ちゃん」と両親に呼ばれることはあっても、名前を呼ばれる回数は、本当に少ないものだ。

となると、一日のうちに、一度も、下の名前を呼ばれない時だって存在する。

別に、下の名前を呼んでほしい、と、思っているわけじゃない。
特に名前が好きわけでもないし、そもそも名前を呼ばれていない事実だって、ここ最近になるまで気づいていなかった。
名前を呼ばれようが、ねえ、とか、なあ、と、呼びかけられようが、自分に向かってかけられる声であれば、認識さえできれば、問題はない。

ない、けれど。

高校に上がり、「彼女」と呼ばれる存在が出来て、名前を呼ばれるようになって、想う。
意外と、日常の中で名前を呼ばれる機会というのは、少ないものなのだ。
そして。
思った以上に、彼女から名前を呼ばれる、というのは、くすぐったくも心地がいいものだ、と。


「もう、気づいてたのに振り返らないとか、ひどくない?」

拗ねた様子で、彼女が隣を歩く。

「悪いな」

その調子が軽く感じられたのか、前に回った彼女が、こちらを睨みつけてくる。

「思ってないくせにっ。口元緩んでるし!」

睨む、といったところで、本気なわけじゃない。だから、怖くもないし、むしろ、その様子すらかわいいじゃないか、と想うのは、やはり恋に浮かれてる証拠なんだろうか。

高校に入学し、同じクラスになり、なんとなく話すようになって、そのうちに付き合うようになった。

自分に、こんな当たり前の、自然な感覚で恋人ができるとは、と、驚く反面、最初に比べて段々と強くなる彼女への思いへ、戸惑いすら覚える。

彼女は美人じゃない。ものすごくかわいい、というわけでもない。
ごくごく普通の、ごくごく当たり前の、そこそこかわいい、そこそこおしゃれも好きな、女の子だと思う。

それでも、最初は悪くない、と感じる程度だった彼女の容姿、むしろその表情や、仕草が、時間が立つごとに可愛く感じられるようになってきたのは、惚れたよく目、というやつなのだろうか。

いままで経験したことのない感情に戸惑い、ぶっきらぼうになりながらも、それでも、彼氏彼女としてお付き合いをして既に一年になる。

そろそろ落ち着いてくるはずの頃、じゃないのかと経験はないながらに思うのだけれど、時々不意打ちのように、彼女の何気ない仕草や表情に、どきり、とさせられる。

そう。それに。

彼女が、僕を名前を呼ぶ。

ただ、それだけのことが、僕にとっては何よりも愛しくてこの上なく幸せな気持ちをもたらしてくれる。

苗字ではなく、名前を呼ぶ、ただそれだけの事なのに、彼女の声で呼ばれるたびに、僕の心は、静かに打ち震えるのだ。

ささやかすぎる幸せに、時折、なんて安いんだろう、と、自分でもおかしくなる。

それでも、その声に名を呼ばれると、顔も緩み幸せをかみしめてしまう。

だから、毎朝、彼女に後ろから声を掛けられても、名前を呼ばれるまでは気づかないふりをしてしまう。

ささやかな、子どもじみた行動だと、自分でも思う。

だがそれでも、朝、そうして彼女に名を呼ばれるだけで、僕は、一日を頑張れるような気がするのだから、困ったものだ。

そう。ただ、名前を呼ばれる、というだけの、ことで、それだけでしかないというのに、その瞬間が愛しくて、僕は、毎朝のように、彼女が拗ねるのがわかっていて、同じ行動を繰り返してしまうのだ。

「ああ。だって、お前に名前を呼ばれるの、好きだから」

告げれば、瞬間真っ赤になる彼女に、毎日のように繰り返している言葉なのに、と、おかしく思いながらも、嬉しくなる。

「お、お前じゃないし!」

いつもと同じように返される言葉と、少し期待するような目の輝きに、僕は、そっと目を細める。

「ああ、サクラに名前を呼ばれるのが、好きなんだ」

瞬間、花が開くように笑うから。

お互いに、どこか茶番だと、内心ではわかっていながら、同じように毎朝、繰り返してしまう。

僕が君を呼ぶ。
幸せそうに君が笑う。


君が僕を呼ぶ。
僕は、体の中に強く甘美な、抗えないなにかを感じながら、幸せに浸る。

名前を呼ばれることに、特別な意味など、感じていなかった。
名前なんて、ただの記号のように、ごく普通に感じていた。

けれど。

君が僕を呼ぶ、その甘美な瞬間に、僕は。

君が愛しいと、毎朝、なんども、繰り返し確認するのだった。


お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/
選択式お題より 「君が僕を呼ぶ甘美な瞬間」

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