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[掌編]事実と現実の乖離

2013.03.13 Wed [Edit]

Lynx Lite
Lynx Lite / DeCyner




僕のことですか?

僕のことなんか知っても、何か得るものがあるとは思えないのですが。

まあ、いいでしょう。

時間もあることですし、少し話しましょうか。

大したことはないですよ。

ごくごく普通の、ごくごくありきたりな、男の話です。



僕の生まれは、片田舎ともいえる村でした。
農業が主産業で、都会まで距離がある。
若者は、基本的に村を出ることを考えるような、そんな場所です。
農家の後継ぎにも困るような、そんな村です。

僕も例にもれず、高校を卒業後、村をでました。

とはいえ、何か特別に秀でたところがあるわけでもない、コネがあるわけでもない人間なので、程良い都会の工場に登録で働くことになりました。

仕事はきつかったですが、すむところなんかも世話されますからね、体力さえあれば、十分働けました。

そこで10年、きっちり働きました。

遊ぶこともなかったので、貯金も貯まり、仕事に慣れて途中から、図書館に通ったりだとか、通販で取り寄せた本を読んだりだとか、知識を詰め込むことに熱中しました。
今の時代、ネットもつながってるので、パソコンで情報をあつめたりゲームをしたり、まあ、有意義に過ごした10年だったと思います。

んでまぁ、その間に、料理に目覚めまして。

ちょっとまじめに、料理で食い扶持稼げたらと思ったもんで、個人経営の居酒屋に仕事先を見つけて転職しました。

そこでまあ、下働きみたいなことをしながら、調理師免許をとって、蓄えた貯金を元手に、店でも持とうと思ってました。


そして、それなりにいけると手応えを感じた所で、記憶が途切れます。

まあまあ、色々と疑問はあるようですが、それはおいといて。


次に気がついた時、僕がいたのは見知らぬ場所でした。
誘拐でもされたのか、と、思いましたよ。
30近い男を誘拐するなど、ありえないだろう、とも思ったのですが、なんだか違和感がある。

よくよく確かめると、手が小さい。

その後、10歳ほどに若返った自分の姿をみて、絶叫したのはいい思い出です。

ああ、両親から聞きましたか。

その後3年ほど、不安定でしたからね。

病弱で役に立たない侯爵子息、という呼び名がついたのは、この頃の影響でしょう。

まあ、その後は、ぼちぼちと、現実に適応しまして。こちらの世界にはないですが、転生という概念を知っていたこともあって、おそらく自分は、全く異なる世界に転生したんだろうなぁと、推察しました。

急におかしくなった息子を見限ってもおかしくなかったとおもうのですが、両親に恵まれて、見捨てられることなく育てられた僕は、その恩を返したい、と、ありがたいことにあまり中央に近くなかった我が領に、ひっそりと今まで引きこもってました。

まあ、跡取りは、兄がいましたし、じゃあひっそりと、領内の世話でもしようかな、と、あまり詳しくあれこれしってるわけではないですが、最小限の衛生概念と、農地の知識を、少しずつ村の識者と話すことで現状とすりあわせて実行したのが、13のころ以降でしょうか。

お陰様で、劇的とまではいかないまでも、じわじわと領地の収穫も増え、また多少なりとも衛生管理をされたことで疫病が流行ることも減り、人口も増えて領が栄えていったのは、ご存知のとおりです。

その当時、表に出ていたのは父と兄ですから、僕の存在は知られていなくて当然ですよ。

それに、僕は曖昧な知識を表に出しただけで、特に何をしたわけでもありません。

実際の所、父と兄が優秀であったから、実行できるものになったのでしょうし、そうでなければ、子どもの戯言でしかなかったことでしょう。

その後、ひっそりと領地の娘を嫁に迎え、ひっそりと領地で暮らして、それなりにお手伝いをしてきた。

そう、たったこれだけのことですよ。

転生とか、異世界とか。誰が信じるというんです。まさか、貴方は信じたわけではありませんよね。

領の繁栄にしたところで、何か魔法のように変化したわけでなし、じわじわと領民たちの努力が実っただけのことですよ。

転生など、ありえるわけがありません。ねえ、そうでしょう。

死んだ人間は、神の身元に聖霊として赴く。そう司祭さまもおっしゃってるではありませんか。

僕の噂はご存知でしょう?

そう、侯爵家の病弱な息子。そして、気ぐるいの、息子。

そんな人間の戯言を、まじめに聞くほうが間違ってますよ。

おや。

大丈夫ですか? 顔が真っ青ですが。

そうそう、そういえば、以前、貴国の高司祭様が、召喚魔法を使われたとか。
なんでも、救世主様をお迎えする、でしたっけ。

その後、なんの情報もありませんが、成功したんですか?

失敗? そうなのですか。それも秘密で、なかったコトにされた、と。

そんなことを私に告げていいんですか?

信用してくださる。おやおや、こんな変人を信用するなどと。

変わったひとですね、貴方は。


ああ、そういえば。

その召喚魔法が使われた時期と、私の意識が覚醒した時期は、ほぼ同じ頃ですね。

いえ、だからといって何かあるわけではありませんが。

ええ、何もありませんよ。

だって、僕はただの、体の弱い、少し頭のおかしい、侯爵家の息子でしか、ないのですから。


おや、もうおかえりですか?

そうですか、何もお構いもしませんで。

よろしければ、またおいでください。

話す相手もおらず、暇なものなのですよ。

ええ、それでは。

貴方に精霊神のご加護があらんことを。


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