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[掌編]妹の部屋から声がする

2013.03.12 Tue [Edit]

Cat Door
Cat Door / p373



妹の様子がおかしい。

「もう、やめてよ! いい加減にして!」

とか。

「そんな……! 無理よ、無理に決まってる!」

とか。

隣の部屋から、夜中に聞こえてくるようになった。

一軒家とはいえ、そこまで普請のいい家じゃないんだ、壁はそこまで厚くない。

それでも、電話でもしてるのか、そんな声ばかり聞くと、兄としては不安になってしまう。

そう。電話でもしているのなら、いいんだ。

もし、それがひとりごとだったら。

兄としては、不安とともに、枕に顔を埋めて悶絶したくなるのは、しかたがないことだとおもう。




高校二年の俺と、中学二年の妹は、歳の差もあってか、普段話すことは殆ど無い。

妹が小学校低学年の頃までは、未だ会話も会ったような気がするんだが、その後、女らしくなっていくに従って、兄である俺はアウトオブ眼中、というやつになっていった。

それもまぁ、仕方がない。年頃の女の子というのはそういうものだ、と、俺と同じくあまり相手して貰えないらしい父が、がっくりと肩を落としていた。

お互いに行き来はない兄妹だが、それでも、起きてるな、寝てるな、位の気配はわかる。

隣同士に用意された子供部屋は、昔から位置が変わらない。

さて、問題は妹の、夜に聞こえる声だったか。

会話の内容も、なんだかあまり穏やかではない。

もしかすると、誰か男ができて困っているのか、とか、ぐるぐると心配になってしまう。

いくら交流がないとはいえ、妹だ。心配くらいするのである。

かといって、何かあるのか、と、聞くのは、普段の交流が乏しくて辛い、という、困った状態の今日このごろだ。


そして、転機は訪れた。

「もう、いやっ、やめてぇぇっ」

普段よりも、大きな声。さすがに階下の両親のところには聞こえないだろうが、それにしても夜にしては大きすぎる。

何かあったのか、と、布団から飛び上がり、そのまま部屋を飛び出す。

普段は殆ど開くことなど皆無な妹の部屋の扉を、問答無用で開け放つ。

「マイカ、大丈夫か!」

ばたん、と、音とともに、飛び込んだ部屋の中。

妹は、布団の上で、だきまくらを抱きしめてじたばたと暴れていたが、俺の存在に築いたのか、ぴたり、と動きがとまる。

電話では、ないようだ、と、手の配置を見て確認し、窓が閉まったままであるのを、視線を移動して確かめる。

それから、妹に視線を戻すと、妹は、硬直したまま、じわ、じわ、と、顔を真赤に染め上げた。

「……マ、マイカ?」

睨むように、そのままこちらを見る妹に、恐る恐る声をかける。

「お、おにいちゃんのっ、すけべー!!」

ばふん、と、威勢のいい掛け声とともに、抱きまくらだった物体が飛んでくる。

ぼふ、と、それを顔面で受けながら、理不尽だ、と思うと同時に、しみじみと感じ入る。

……マイカよ、お前も俺の妹だったか。

自分の黒歴史、夜中にひとり誰かと意味深に会話しているふりをする、を、同じように行なっていたらしい妹に、どこかほのぼのしてしまう。


しかし。

「へんったい!」

そのままバタンと扉を締められた。

繰り返そう。

理不尽である。



その後、妹からしばらく、露骨に避けられた俺は、そっとだきまくらにリボンを付けて、お菓子の貢物を添え、魔法陣風の座布団の上にそれらをのせて、妹の部屋の前に備えた。

それはひっそりと、妹の部屋の中に消え、数日後、お返しなのか、色違いの魔法陣座布団が、俺の部屋の前に置かれていた。


どうやら妹は、程よく中二病の入ったツンデレらしい、と、理解した俺だった。


今夜も、妹の部屋から声がする。

……微妙に、俺を呪ってるようなきがするのは、気のせいだ、ということにしたいものである。

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