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[掌編]それでも私は歌い続ける。

2013.03.10 Sun [Edit]

Luis Beltrán
Luis Beltrán / ceslava.com



歌が好きだった。
特に童謡や唱歌なんかが、子供の頃からずっと大好きで、気がつくといつも口ずさんでいた。
無意識に歌っていたそれらは、年を経るにつれて、周りから変な人を見るような視線や、もしくははやりの歌でもない童謡を口ずさむなんて、という視線に、あまりよろしいことではないと気づいて、少しずつ意識して減らしていった。

けれど、それでも、童謡が好きだった。唱歌が好きだった。
はやりの曲も、歌えないわけじゃないけれど、私は、幼い頃に母から教わったそれらの曲が、なによりも大好きだったのだ。


だから、いまでも、そっと口ずさむ。
仕事の合間に、前まで住んでいたところとは違う、それよりもなお深い青と様々なものの飛び交う空を眺めて、ひとりしずかに、歌い続けるのだった。



昔話をしよう。
とはいえ、それは、ほんの数年前の話だ。

私は、いうなればどこにでもいる女子高生で、ごく普通のごく平凡な、ひとりの女だった。
ごくごく普通に育ち、ごくごく普通に受験戦争をくぐり抜け、ごくごく普通に、高校生になった。
童謡が好きでつい歌ってる、という変わったポイントは、中学時代に遠巻きにされたことで、うまく隠すことを覚えた。
高校では、ごく普通の、友人が数人いる、真面目だけど硬過ぎない、そのへんにいるような生徒として、楽しく生活をしていた。

そう、家族に囲まれ、友人に囲まれ、楽しく過ごしていたのだ。


それが一変したのが、数年前。

いつものように友人たちと、雑談を交わしながらの帰り道、じゃあね、と手を振ってわかれたあとに、それは起こった。

何か特別なことがあったわけじゃない。

別れて数歩進み、いつもの様に道を曲がった。
頭の中は、今日の晩御飯のことや宿題のことで、周囲に意識を配ってなかったのも確かだけれど、普通、歩き慣れた道をそこまで観察しながら歩く人って、そう滅多にいないと想う。

気づいた時には、森の中にいた。

そう、ごく当たり前の、住宅地の、路地を曲がっただけのはずなのに。
山の中ではない、森の中。
この日本において、平地に木が生い茂る森など、みる機会はそうそうない。
なのに。

周り一面、木々に囲まれた場所で、私は呆然と立ち尽くすしか、出来なかった。


それがどれだけ愚かな行動か、ということは、今であればよく分かる。
この世界には魔獣も獣もいる。人を襲うそれらが存在する場所で、自失した私は、危うく食べられかけた。
ついでに、ざっくりと、大きな傷も負った。

それでも食われずにすんだのは、冒険者なる職業の人が通りかかったことと、その人が異世界においては善良な人だったからだろう。

その人は、魔獣を倒すと、血を流し倒れる私に簡単な治療を済ませ、近くの村まで連れて行ってくれた。

そして、信頼の置ける人間に私を預けてくれたのだ。

まず、最初の段階で、森の中に魔獣に食われるような弱い人間は普通入らないため、入ったのは自業自得と見捨てられていても仕方がなかった。
さらに、治療などせず、そのまま放置されていてもおかしくなかった。
最後に、この世界には奴隷制度があるのだ。売られていてもおかしくなかった。

最初に出会う人、という意味では、この人はとても善良なのだな、と、いまではわかる。

その当時は、周りの状況やその世界のこともなにもわからなくて、そこいらにあふれていた異世界トリップものの小説のように、拾った私を優遇してくれるわけでもないその彼に、腹を立てたし、世話をしてはくれるもののどこか冷たい村人に、どうして、と、憤慨もしていたものだ。

今はわかる。
村は、そこまで裕福じゃない。働き手でもない人間を、ひとり、養うだけでも、食料を消費する。

確かにその男は、やさしくはなかったが、最低限のフォローはしてくれていた。

体が治り、村を歩くようになり、仕事を手伝うようになって、少しずつ、私は現状を理解していった。

そして、村では仕事が無い上に、これ以上は迷惑を掛けられないと、近くの街へと男に連れられて働きに出るようになった。

それが、今の職場である、酒場兼食堂というような店だ。

男は、私をいわゆる花街にだってうることは出来ただろうが、騙すこともなく、信頼が置けるからと、この店を紹介してくれた。

そして、月に数回、食事がてら私の顔を見に来る。

迷惑をかけていないか確認するためだろうけれど、見知った顔を見ることが出来るのは、なによりも嬉しい。

この仕事は、決して楽ではないし、店主もその奥さんも、仕事に関してはとても厳しい。
それでも、働いた分だけはきちんとお給料をくれる上に、食事も付いているのだから、これほど好条件の仕事は、早々無いように想うのだ。

私は、朝から晩まで、しっかりと働いて、宿の二階の隅に与えられた部屋で、ぐっすりと眠る日々を過ごした。

やっと、数年経ったいま、仕事の後に何かをする時間が取れるようになり、私は窓をあけ部屋から空を眺めながら、細く小さく歌う。

あの世界の歌を。故郷の歌を。

選曲を間違うと、危険だ。涙が止まらなくなるから。

それでも、歌わずにはいられないのは、やはり、望郷の念が消えることがないからだろうか。

ポッカリと浮かぶのは、双子月とその子ども月。

3つの月を眺めながら、静かに歌う故郷の歌。涙が溢れるのに気づいてはいたけれど、私は細く細く、夜の闇に溶けこむように歌い続けた。


日は昇り、日は沈む。
私がなにを思おうと、日々は否応なく、過ぎていく。

また明日、笑顔で仕事を頑張るために、私は、静かに歌を紡ぐのだった。


窓の下、暗闇の中で。

「――泣くな」

小さく、そう告げる声は、誰にも届くことなく、消えていった。

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