[掌編]こんな現実、いらないっ!
2013.03.08 Fri [Edit]
The exhausting business of being royal / Elaine with Grey Cats
小さい頃、夢見てた。
私はこの家のホントの子じゃなくって、実はよその家から貰われたんだわ、って。
だから、お父さんとお母さんは、私に厳しくってやさしくないんだ、って。
うん、そりゃ、子どもがお菓子を隠れ食いしたら、普通、親は叱るよね。
することしない、が、超連続で続いたら、そりゃ、親は叱るよね。
今ならわかる。叱られても仕方ないレベルだったんだ私、って。
でも、あの頃は、本気でそんな妄想してた。
ゲームやおもちゃを買って貰えないのも、私が本当の子じゃないからなんだ、と。
きっと、いつかお金持ちの本当の両親が、やってきて、私を引き取ってくれるんだ、って。
子どもの他愛のない、妄想、だった。
成長すれば、色々わかる。
お金持ちだって、そんなにいいもんじゃない。
いや、お金があるのはいいけれど、お金持ちだからって遊んで暮らせるわけじゃないんだな、と。
成長すれば、それなりに色々分かるわけで。
それにふさわしいだけの身支度やら、所作やら、やっぱ必要になるよね、とか。
メイドさんのいる生活とか、いつも人がそばにいる生活なわけで、そんなの耐えらんないよね、とか。
お金があればその分、厄介事も振りかかるよね、とか。
なんとなーく、そんなことはわかってくるわけで。
それに、子どもの頃の自分を振り返って、その妄想してた自分を振り返って、おおおおお、と、布団に頭を埋めて恥ずかしさに悶えてしまうくらいには、親が叱って当たり前だったなんて、分かるようになってくると、その妄想がどれほど子供じみたものだったか、って、よく分かる。
めちゃめちゃいい両親、と、いえるかどうかは別としても。
ちゃんと、私を育てて大学まで出してくれたわけだし。
子どもの頃から、結構あちこち、遊びにも連れて行ってもらったし。
楽しかったのは、間違いないわけで。
さて、社会にでたら、恩返ししなきゃなぁ、なんて、思ってたのですよ。
これでも。
なのに。
ああ、なのに。
おかしいな、とは、思ったのよ。
自分の実力より、上の会社の採用試験を、記念だー、みたいな気分で受けた私も、うん、問題あると思う。
向こうの会社にすれば、迷惑よねぇ。でも、まぁ、受けたわけだ。書類選考で落ちるんじゃないの? レベルの、を。
それが、何かの拍子でまあ、一次選考に進めたし、と、それなりに真面目に受けたけど、そんなに頭いいわけでもなんでもないから、難しい問題相手に、あー、これ落ちたわー、と、思ってたのよ。
思ってたのよ?
なのに、なぜか、その後。
一気に面接に呼ばれて。その面接会場で、面接官のひとりが、私を驚いたような変な顔で見てるなぁと、そう思ったのね。
なんか変な顔かなぁ、とか。でもほら、その会社にそぐわない大学の出だし、そんなのが面接に進んだから、そんな顔なのだろうなー、なんて自己完結したのが、まずかったのか。
トントン拍子に進んで、内定式、となった所で、違和感を感じつつもほっとしたのが、つい先ごろ。
やけに壇上にいるお偉いさんと視線が合うような気がしたけど、持ち前の事なかれ主義で、笑ってごまかしたのは秘密です。
で。
今日。
我が家の、古い築30年ごえの、とーちゃんのとーちゃん、つまり私の祖父が立てたオンボロな我が家の前に、どどーんと、なんだかお高そうな車が止まってました。
そして。そしてね。
一応、応接間っぽい仏間で、テーブルを挟んで、父と母と、見知らぬ品のいい夫婦と、私。と、なんか弁護士らしき人。
え、何事? と、思ったらば。
「ああ、会いたかった。お前の父だよ」
なんて、ナイスミドルな男性に、言われて。
そのとなりでさめざめとなく女性に、愕然として、え、え? と、混乱のままに、説明をもとむ! と周囲に視線を走らせたらば。
うんうん、と、感慨ぶかそうに涙目で頷く弁護士さんと。
驚いた表情ながらも、どこか落ち着いている両親の姿があって。
驚いてしまったわけでございますよ。はい。
私の本当の父は、割りと大きな会社の社長さん? っていうの? 会長さんなの? 取締役? わからん、そんなのらしい。
で。
本当の母は、もともと父の愛人で、いまは後妻として正妻におさまっているらしい。
えーと、その正妻さんには息子がひとりいて、これはかなり優秀らしく、跡取りとして活躍中、後妻さんとの中も悪くない、と。
で、この後妻さんこと私の母らしき人、愛人時代に私を懐妊、それを知った正妻さんから激しい攻撃を受け、逃れ逃れている途中で私と引き離されたそうな。
すんでのところで本当の父の手助けで、本当の母は無事だったけど、私の行方は要として知れず、正妻さんはその件で離婚となり、本当の母が後妻に収まった、と。
で、その後も私を探してたけど見つからず、もう亡くなっているのかもしれないと思いながらも、諦めきれずに20年とちょっと。
採用試験に届けられた履歴書の写真をみて(何やら父は、全部履歴書に目を通すのだそうな。すごいなおい)、気になってしまった、と。
で、一次試験の時、こっそりと試験官として潜り込んだ兄は、その容姿があまりにほんとの両親に似てるので、調査を依頼するように父に進言。
その後、調査が入り、さらに面接では父らしき人も参加して、確認。
晴れて先日、調査結果もでて、私が彼らの子どもである、と、証明されたのだそうだ。
「これからは、苦労させないよ。さあ、一緒に帰ろう」
などと、にこやかにいう本当の父、らしきひと。
ちょ、それって私が今まで苦労してきたみたいだし! ほら、隣で育ての母の額にピシっと青筋が! ちょ、母がきれるとこわいのに、と、思いつつ、私は思わず愛想笑い。
「ああ、笑った顔は赤ちゃんの頃にそっくりなのね……!」
ちょ、そんな感慨いだかないでください! なんかそれ、嬉しくないですから!
っていうか、今さら、私がママよ! みたいにいわれても、成人すぎて数年の身にしてみれば「だからどうした!」って感じですから!
むしろ、この20年ちょっと育ててくれた、母と父のほうが大事ですから!
引きつった顔の育ての親と、感極まって話を聞いて来れなさそうな産みの親とに挟まれて、私はただ、呆然とするしか出来なかった。
ああ、私、普通にでよかったのに。こんな、小さい頃の妄想を、この年で実現なんて、いらなかったのに!
なんとも言えぬ空気の中、私はそっと、現実逃避をするように、窓の外を眺めるのだった。
――こんなびっくり、いらない!
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