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[掌編]召しませ焼き飯!

2013.03.03 Sun [Edit]

Easter cat
Easter cat / alubavin



焼き飯は、最高の料理だ、と、加奈子は思う。
だって、野菜もお肉も入ってるし、たまごも入ってる。
栄養バランスも(たぶん)いいような気がするし、何より、パラっとしたごはんと具の混ざり合ったあの風味は、えもいわれぬハーモニーで、私の心をくすぐる。
三食焼き飯だって、私は、いいんだ、本当は。

目の前に出された、黄色いたまご混じりのまぁるくまとめられて盛りつけられた焼き飯を眺めて、加奈子はにっこりと笑った。

「幸せそうだね」

「うん。幸せです」

弾むような声に、空気が少し、緩むような気が、した。



加奈子は、愛想がないとよくいわれる。それはもう、幼稚園の頃から、ずっと。
1つ上の姉は愛想良しで、2つ上の兄も、愛想は悪くない。
なのになぜか、末っ子の加奈子だけ、愛想のない、いつも無表情な、むっつりとした子どもだった。

だからといって、加奈子が家で虐待されていた、とか、疎外されていた、とか、そんなことはこれっぽっちもない。
兄も、姉も、両親も、更には祖父母に至るまで、なぜかその加奈子の動かない表情から、様々な感情を読み取れるらしく、いつも可愛がってくれた。

かわいいかわいい、と、ある意味猫っかわいがりだったかもしれない。

小学校に上がる頃には、そこそこ整った顔が無表情、ということで、暗いだの怖いだのいわれていじめもどきにはあったけれど、だからといって何か陰湿ないじめになることは、なかった。

中学では、その外面に惹かれる男が出始めたからか、少々女連中からのいじめはあったけれど、水かけられようが何しようが無表情な加奈子に、周囲は段々怖がって何もしなくなった。

でも、それが兄弟にバレて、大変なことになりかけたけれども、それもいい思い出だ。
泣き縋る兄と、バットを握り締める姉、なんて、加奈子にしてみればどうしろと、と、ため息を付く以外にはない。
微妙に逆転してる兄と姉が、それでも加奈子は大好きで、だから、あまり笑わない加奈子だけれど、兄も姉も、微かな表情な変化を笑顔だと認識して喜んでくれるから、困るような嬉しいような、複雑な気持ちになる。

そんな加奈子だけれど、唯一、表情が動く時がある。

それが、焼き飯である。

そこそこ裕福な家で、そこそこ料理上手な母だったせいか、小学校にあがるまで、加奈子は焼き飯を食べたことがなかった。

なんのきっかけだったか、どこかのお店で、メニューを見てその料理に一目惚れ、さらには、食べてさらに惚れ込んだ加奈子は、はじめて、うっすらと笑顔をみせた。

それ以来、加奈子は、焼き飯を食べると、表情が緩む。その緩み具合も、年をとるに従って、段々と強くなってるから不思議なものだ。

将来の夢は? と聞かれて、真顔で「焼き飯がうまい旦那さんと結婚すること」といったのは、いくつのことだったか定かではない。

つまり、加奈子にとって、焼き飯とはそれほど大好きなもので、唯一、あまり動かない表情を激しく揺さぶる最高の一品なのだ。

あちこちの焼き飯を食べあるき、残念なものに当たるとへたりとまゆを下げるものだから、その評定満たさに姉も兄も、あちこちに連れ歩いては、幸せそうな笑顔と、切なそうな表情とを堪能している、という、ある意味なんとも言えないことをずっと繰り返してきた。

焼き飯はごま油がいい、と、加奈子は思う。
それもたっぷりではなく、ほどほどに。
そして、しっかり炒めた具材は、ちょっと焦がし気味、焦げる寸前くらいが、加奈子の好みだ。
ついでに、たまごとしっかりと絡んでて、パラパラだと最高。ネギもいい。

とにかく、加奈子は、焼き飯が好きで、三食それでもいい、と、本気で思っている。

もし、一人暮らしを出来たら、きっと、本気で朝は焼き飯おにぎり、昼は焼き飯弁当、晩は焼き飯、稀にあんかけ焼き飯、なんてことにしかねないくらい、焼き飯好きだ。

そんな加奈子に、目の前の男、同じ会社に努める、上司である男は、にっこりと焼き飯を差し出したのだ。
加奈子好みの、加奈子がうっとりするような、焼き飯を。

会社でも、加奈子は無表情で、お局様、だとか、氷の女、だとか、なんのひねりもない、そんなアダ名で呼ばれてる。
仕事場であるからして、加奈子もそれでいいや、と、割りきって、できるだけそのままでいようと、基本、会社で焼き飯を食べることなく、ゆえに表情を全く緩めることなく、仕事を続けてきた。経理の加奈子は、それでも十分仕事が回ったし、このままでいいや、と、思ってた。

けれど、ある時、同僚のミスが、なぜか加奈子のミスになって、叱られた。謝ってるのだけれど、加奈子の表情が変わらないから、余計、叱られた。
凹んでいるんだけど誰にも凹んでると理解して貰えないから、ふてぶてしい、なんて言われて、さすがにどん底まで落ち込んだ。

我慢できなくて、加奈子は、社食で焼き飯を頼んだ。シンプルな、焼き飯は、そこそこ美味しくて、加奈子はゆるりと口元を緩めたまま、ぽろぽろと涙をこぼした。
涙すら、焼き飯経由じゃないと出ないのか、と、自分にちょっとツッコミながら。

それを見てたのが、件の上司で。

何を思ったか、彼はそれから、あれやこれやとアプローチしてくるようになり、飲み会にお食事に、と、タイミングを見計らっては誘って行く。
遅くなると家まで送ってくれるので、当然のように、兄と姉とも面識ができる。

それがよかったのか、悪かったのか。

目の前で、いい年して頬を染めてこちらをみる上司に、内心首をかしげなからも、加奈子はそっと、焼き飯にスプーンを入れる。
油断すると、ほろほろとどこまでも崩れて行ってしまうから、最新の注意を払って、ゆっくりと救い上げると、ぱくり、と、一口食べる。

ほろっと解けるように、けれど絶妙な歯ごたえを返してくれる焼き飯に、頬はゆるゆると緩みっぱなしだ。

ああ、焼き飯、好きだなぁと、しみじみしていたら、がし! と、スプーンを持つ手を両手で握りしめられた。

え? と、思うまもなく。

「一生焼き飯を作るから、結婚してくれ!」

「……作ったの、課長ですか」

「ああ、俺の唯一の得意料理だ」

「ていうか、誰に聞いたんですか?」

「お前のお姉さんとお兄さんが……」

そっと視線をそらす課長に、小さくため息を付く。

どうやら、あれこれ、心配をかけたらしい、と思うと、小さく笑う。

焼き飯効果は、未だ切れてない。

ふむ、と、加奈子は考える。
この焼き飯は美味しい。で、これをこの課長様は作れるらしい。課長様は、嫌いじゃない。ならば?

「分かりました。よろしくお願いします」

結論づけて、そう告げると、感極まってさらに強くなりかけたその両手を振り払い、再び焼き飯にスプーンを入れる。

ふわり、と、香る風味に頬を緩めて、加奈子は幸せな気分で、焼き飯に向きあうのだった。


「……焼き飯のおかげだが、解せぬ」

その、笑顔に見とれながらも、課長は、がっくりと肩を落とすのだった。


そして、加奈子は、課長と婚約した。

そのときに、1つだけ、加奈子は約束させられることとなる。

「外で、課長以外といるときに、焼き飯を食べないこと」

首をかしげながらも、頷いた彼女に、満足げに課長様は頷いたとさ。

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