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[掌編]本と私と、彼の戸惑い

2013.02.18 Mon [Edit]

Helping me with my digital library paper
Helping me with my digital library paper / Cloned Milkmen



私は図書館が好きだ。
本がびっしりと詰まって、あちこちに並んだ書架がいっぱいの、あの雰囲気が好きだ。
古い図書館の、少し風変わりな匂いも、新しい図書館の、新鮮な匂いも、どちらも好きだ。
許されることならば、ずっと図書館に住んでいたい。許されるならば、ここで生活したい。
そんなレベルで大好きな図書館で働くために、将来は大学で、図書館司書の資格を取りたいものだと、そう考えている。

もし、図書館に就職できなければ、次点で書店だな、と、思いながら、私はまた、本に意識を戻す。

朝から、晩まで。
暑い夏は涼しく、寒い冬は暖かい図書館は、本当にオアシスだと、そう思う。





私には友達がいない。
ちょっと語弊があるが、友だちらしきお付き合いはするが、休み時間と放課後を学校の図書室で、放課後と休みの日のすべてを図書館で過ごす私に、付き合ってくれる奇特な友達はいない、というべきだろうか。
それなりにクラスで話さないわけではないし、いじめなどないいい学校だけれども、浮いてることは否定しない。


「ねえ、ちょっといいかな」

だから、そう声を掛けられた時、一瞬自分に向けてではないと、思った。

「ねえ、って」

再度聞こえた声に、一度またたいて、ゆっくりと顔をあげる。
長い黒髪が、前にかかってうっとおしい。一回バッサリ切るかなぁと、そう思って声の主をみると、少しばかり怯えた表情の、同じ年くらいだろう少年がひとり、目の前にいた。

「何かようかな、少年」

うっとおしい髪を払って、そう問いかければ、目の前の少年は顔をひきつらせる。

「少年、って……」

「不快なら悪かった。名前を知らないからな」

そう告げれば、驚いたように目を見張るのに、こちらの方が驚く。

「……クラスメイトなんだけど」

話したことがなければ、覚えない私としては、そういわれても、という所なのだが、向こうはそうではないらしい。

「すまない。わからない」

そう告げれば、戸惑うように視線を彷徨わせて、それから仕方なさそうにため息をついた。

「いや、いいよ。で、こえかけた理由だけど」

そうだ、何故に声をかけたのだろう。首を僅かにかしげて、続きを待てば、少年は一瞬、気まずそうに視線を逸らしてから、再びこちらに視線を向けてきた。

「クラスで、ずっと見かけてたけど、本ばっか読んでるみたいだしさ。――本、好きなんだ?」

よくわからない。そんな理由で声をかけてくるものなんだろうか。
しかし、問われたからには答えなければならないだろう。

「本が好きか、と言われると、まぁ、好きだろうな、というのが答えになる」

少年は、僅かに戸惑うように眉を寄せる。

「どういう意味? 本好きで本読んでるんじゃないのか?」

「本は好きだ。しかし、本を好きで本を読んでるのではなく、そこに書かれている文字が好きで本を読んでいるのだ」

「え、ちょっとまって、何その理屈。なんとなくわかる気もするけれど意味がわからない」

混乱のままの少年に、私は小さく笑う。

「まぁ、本を”読む”のが好きなんだと思ってくれれば、間違いはないだろう。悩むな少年」

だから少年じゃないって、という声が聞こえる気がするが、こちらとて時間は貴重である、再び本に視線を落とせば、周りから音は消える。

もう会話も終わりだろう、と、私は、迷うことなく物語の世界へと、沈んでいったのだった。


だから。

そろそろ閉館、という時間になり、静かに管内にチャイムがなる。
もうそんな時間か、と、本から視線を上げれば、目の前の席には、先ほどの少年がうたた寝していた。

思わず、瞬く。

未だ帰ってなかったのか。
しかし、本を持っているふうでもないのに、ここに座っているとは奇特なことである。

まあ、そのうち、司書の人が起こしに来るだろうと、本を書架に戻すと、少年をそのままに、私は家路についた。
頭の中は、帰宅してから読むべく待機中の、家にあるほんのことで、いっぱいだった。


後日。
クラスで少年に「なんで放置して帰るんだ!」と突っかかられて真剣に「よく寝てたから」と応えた。がっくりと崩れる彼のことがわからずに、また本を読み続けたのは、よくある風景。

数年後、なぜか学部は違うが同じ大学に進んだ少年から、「気になってアプローチしてんのに、全く気づかないどころか本しか見てなくて、俺どうすりゃいいんだー!! って感じだったんだよ!」と混乱する戸惑いの日々を打ち明けられることになったのだった。

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