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[掌編]僕が絶対言わない言葉。

2013.02.12 Tue [Edit]

Lover?
Lover? / BirdCantFly



好きよ、と、君が笑う。
好きだよ、と、僕も笑う。

二人で部屋の中、クスクスと笑いあうひとときは、寒い冬だけに余計、暖かく感じられて居心地がいい。

でも。

愛してるわ、と、君が笑う。
僕はそっと、彼女の頬に口付ける。

困ったように、少しだけ不安そうに瞳を揺らす君に、僕はただ、静かに笑いかける。

僕は、その言葉だけは、口にできない。
だから、ただ、ごまかすように笑うのだった。




言葉がないと不安なものよ、とは、何番目の彼女のセリフだっただろうか。
ごく普通に生活するごく普通の人間である僕は、ごく普通に彼女を得て、それなりにお付き合いをしてきた。
三十路半ば過ぎ、四十の声も遠くないこの年であれば、それもまた人生経験としておかしなことではないだろう。
多いわけではないお付き合いの中で、けれど最終的に彼女たちが僕から離れていったのは、ただひとつ、欲しい言葉を得られなかったからだろう。
もちろん、それだけではなく、様々な要因も他にあるだろうけれど、最終的にはその事実が最大の原因だ。

それでも、僕は、その言葉を告げることが出来ない。

自分でも、なぜここまで頑ななのか、と、思わなくはない。
けれど、若かりし頃から、好きだと告げることにはなんの抵抗がなかったにも関わらず、その言葉だけは、決して告げることができなかった。

たった5文字の、どこにでもありふれている言葉だというのに、僕の口からその言葉が出ることはない。
文字で書くことも無ければ、メールにすることもない。

たった5文字の、その言葉は、今ではありふれている言葉であるにも関わらず、僕の口からはでてこない。

その言葉をいうくらいならば、僕は、月が綺麗ですね、と、いう方がきざったらしくてもマシだ、と、思う。

たった5文字の、その言葉は、口に出した瞬間、まるでまやかしのように、その言葉の意味を軽くしてしまうような気がしてしまう。
そう、口に出した瞬間、その言葉が、まるで嘘のように感じられてしまうから、僕はどうしても、その言葉を告げることができないのだ。

女性というのは、すべてが全てではないだろうけれど、言葉を欲しがる。
安心するために、好きだよ、そばにいるよ、かわいいよ、と、言葉を欲しがる。
態度だけでは安心できない。それは、自分でもわかっているつもりだ。

好きだよ、と、告げても、彼女たちの不安ははれない。

そして、僕が決して口にしないその5文字を、彼女たちは欲しがる。

けれど、だ。

その5文字を口にしたら、今度はそれが本当かどうか疑ってしまう部分も、彼女たちには存在しているのだ。

すべてが全てだとは言わない。人それぞれ、それに間違いはないだろう。

けれど、言葉をほしがりながら、その言葉に不安を抱く彼女たちを、僕はいままで安心させることが出来なかった。

それは僕の努力がたりないせいか、どうなのか。

最初の彼女に5文字を告げたあと、信じられないと振られた記憶は、僕の中で予想外に重く、引きずる出来事だったようだ。

たった5文字。
この言葉は、元々日本語には存在しなかったのだという。

お慕いしております。

その5文字よりも奥ゆかしいこちらの言葉のほうが、僕としては心に響くのだけれど、そこはそれ、好みの問題なのかもしれない。

僕はだから、好きだよ、という言葉は惜しまない。
彼女のことを好きなのは間違いないことだから、少しでもそれが伝わるようにと、好きだよ、と、伝え続ける。

――言いすぎて余計不安になる、とは、どの彼女のセリフだっただろうか。

人と人との付き合いは本当に難しい。
態度で示しているつもりであっても、相手の望むとおりに全てができるわけがないのが現実で、その中で出来るだけ気持ちを伝えているつもりでも、どこかで掛け違い、すれ違う。

たったひとこと、その5文字を告げれば違ってくるのだろうか、と、思うこともあるけれど、はたして、告げた所で心のこもり切らないそれに、なんの意味があるだろう。

たった5文字。

あいしてる、のその言葉を、僕はどこか胡散臭くしか思えなくて、僕はその言葉をいうことが出来ない。

好きだ、という気持ちと、愛してる、という言葉の間にある溝のような違和感は、一体なんなのだろう。

こんなことを考えるのは僕だけかもしれないけれど、照れくさいとかではなく、どうにも胡散臭くて、そして、手痛い初めてのお付き合いの終焉を思い出すせいか余計に、どうしても、この言葉を告げることができないのだ。



だから。

不安そうに瞳を揺らす彼女の額に、そっとくちづける。
その言葉をいうことが出来ない代わりに、そっと抱きしめる。

この気持ちに名前をつけるならば、きっと愛と呼ぶのだろう。

僕は彼女が愛おしく、大切にしたい気持ちと、独り占めしたいようなそんな気持ちとを持っている。

好きだという気持ちが恋ならば、これは愛なのだろう。

言葉で5文字を伝えられない代わりに、彼女に告げる。


僕が君を思う気持ちは、愛なんだと思うよ。


これが、僕の精一杯だ。

不安に揺れる目が、一瞬きょとんとまたたいて、それからゆるりと細められるのを、僕はいとしく思う。


あいしてる、とは、いえない。

けれど、僕が君へ捧げる気持ちは、間違いなく、愛なのだと、信じてほしい。



たった5文字のその言葉の変わりに、僕は、そっと彼女の唇に、キスを落とした。

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