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[掌編]だけど、私は決して泣かない。

2013.02.11 Mon [Edit]

Cry V2.0
Cry V2.0 / greencandy8888



失ったものを数えるのは、得意じゃない。
なくした恋や、消えた友情がたくさんあっても、それを振り返って浸ろうとは、さすがに思わない。
それくらいなら、すっぱり前を向いて、次に行ったほうがマシだ、なんて、私はずっと思ってきた。

実際、そうやっていきてきたし、これからもそう生きていくつもりだった。

だったけれど。

「さすがに、きっついなぁ……」

1DKのアパートで、電気も付けずに、ダイニング部分においた食卓の椅子に腰掛けて、ぽつん、と、ひとり、つぶやいた。



真っ暗な中に、昔ながらの豆電球がぽつんと光る、古びたアパートで、スーツ姿で化粧も落とさず、だらり、と座る三十路女の姿は、あまり見目のいいものではないかもしれない。けれど、いまはすぐに着替える気力もなにも、動く気力すら、なかった。

失恋した。
だけ、なら、未だここまで落ち込まなかったかもしれない。
友情を失った。
だけ、でも、ここまで落ち込むことはなかったかもしれない。
後輩に裏切られた。
だけ、でも、別段ここまでダメージはなかっただろう。

ダブルパンチを通り越して、トリプルパンチなんて、さすがに私も予想外だった。

ずっと友人として付き合ってた人と、彼氏彼女になって結婚まで視野に入れてたところで、式場も見に行き始めたところに、可愛がってた後輩が妊娠したので別れてください、ときたもんだ。
ただの失恋、だったらば、その男とも友人関係続けられただろうし、後輩ともうまく付き合えただろう。
しかし、既に結婚に向けて動き出していて、あれこれと周囲を巻き込んだ段階でのこの状況は、どうにもこうにも、私にもどうしようもない。

くしゃり、と、前髪を掴んで、うつむく。

泣きそうだ、と、思う。

どれか一つなら、良かったんだ。きっとどれか一つなら、私は一度は落ち込んでも、すぐに立ち直って、笑うことが出来た。

でも、これはない。

泣きっ面に蜂? 弱り目にたたり目? ふんだり蹴ったり?

どれにしたって、散々なのは間違いないだろう。

ずっと気の合う友人だった。それぞれ別の相手と付き合ったりもしたけれど、その間も趣味の合う、考えの近い、いい友人として付き合ってきた。
そろそろさすがに結婚、という年になって、相手を考えたときに、この人なら一生を共に出来る、と、思えた。
男を見る目がなかった、ともいえるかもしれないけれど、積み重ねてきた月日の間、友人として彼は間違いなく、良い友人だった。

良い友人、の、ままでいれば、少なくとも、こんな状況になって「友人」までも失いことはなかったのかもしれない。

素直で真っ直ぐな後輩だった。今時の女子な感覚はすごく強かったけど、それでも、多少時間がかかってもすべきことはするし、そんなに悪い子じゃなかった。いい加減な部分がないわけじゃないけれど、それでも素直に「せんぱい、せんぱい」と慕ってくれるのは可愛くて、相当にかわいがっていた。

真っ赤な目で、涙をこぼしながら、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返していた後輩と、そのとなりで、じっと頭を下げていた彼の姿が思い浮かんで、切なくなる。

どうして、こんなことになったのか。

あの後輩のように、私も素直に涙を流せたならば、こんなことにならなかったのだろうか。

――それでも。

「でも、私は、泣かない」

ぽつん、と、呟く。

泣いてたまるか、と、思う気持ちもあるけれど、そういうことだけじゃなくて、たぶん、私はなけないのだと思う。

泣くほど、自分を憐れみたくない、というプライドなのかもしれない。
愚かで小さな、そんなプライドだけれど、それでも、私は決して泣かないだろう。

失いものを数えて、悲しさに浸って生きていけるほど、やわな性格をしてなかった。
悲しさに溺れて、自分を慰められるほど、素直な性格をしてなかった。

だから、失ってしまうのかもしれないけれど、それでも、私には、泣ける場所なんかなかった。

必要ない、と、思ってた。

そう。
もしかすると、いつかは、彼のそばで生きていく中で、涙を流せるようになるじゃないか、なんて、そんなことを思ってたりもした。
彼が、私の居場所になるんじゃないか、なんて、そんな淡い期待をいだいていた。

けれど。
すべては、うたかたに消えてしまった。

深く、深くため息をつく。

素直に涙を流せれば、また違っていたのかもしれない。
素直に悲しいと思えれば、また違ったのかもしれない。

かもしれない、なんて仮定は、なんの意味もないけれど、繰り返し浮かぶ気持ちは、私らしくなくて、でも、それでも涙は一筋足りとも溢れることはなくて、気がつけばひとり、小さく笑う。

落ち込んでいたって、何も始まらない。
たとえそれが、トリプルパンチな出来事であっても、私はきっと、また、前を向いて歩き出す。

だけど。
だけどそのまえに、今日だけは。

静かに、失ったものたちを思って、過ごしたっていいんじゃないだろうか。


失ったものを数えるのは、得意じゃない。
なくした恋や、消えた友情がたくさんあっても、それを振り返って浸ろうとは、さすがに思わない。
それくらいなら、すっぱり前を向いて、次に行ったほうがマシだ、なんて、私はずっと思ってきた。

実際、そうやっていきてきたし、これからもそう生きていくつもりだった。

けれど。

たまには、少しだけ。
感傷に浸ってもいいんじゃないか、と、自分をそっと甘やかす。

次に。
また次に向かうために、ひとり、静かに夜を過ごす。

薄らぼんやりとした明かりの中で、私は、そっと、失ったものたちへの黙祷を捧げるのだった。


――決して流れることのない、涙の変わりに。

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