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[掌編]変わらぬ日々

2013.01.28 Mon [Edit]

Keihin Industrial Zone
Keihin Industrial Zone / Ys [waiz]



日が昇り、日が沈む。
一日、何気なく過ごして、気がつけば夜が来る。
何事も無く寝て、また朝が来る。

代わり映えのない一日。
それがとても大事なんだ、なんて、あちこちで見かける言葉だけれど、でも、私はもう少し、代わり映えが欲しい、と、思う。

もう少し。
何かちょっとだけ。
刺激がほしい、と、思ってしまうのは、私が幸せな証拠なんだろうか。

オフィスの机に向かい、いつものように仕事をしながら、ふと見上げた窓の外の空に、そんなことを思った。




18時。
定時は17時はんだけど、すぐに席をたつのは、ちょっとばかり協調性がない気がするから、30分だけ仕事を済ませて、席を立つ。
これっていかにも日本人的なしこうなんだろうか、と、らちもないことを考えながらも、笑顔でそっと周囲に挨拶をしたら、ロッカーへ向かいコートを羽織りそのまま会社を出る。

さむい。
外は超寒い。
マフラーは、ちょっと合わないから、せめてスカーフかショールを用意しようかなぁと、今度の休日に買い物にいく計画を頭の中でたてて。
それから、晩御飯どうしようかなぁと、冷蔵庫の中身を考えながら、のろのろと駅へ向かう。

満員に程近い電車は、おそらく大都会ほどではないんだろうけれど、それでも座れない程度には混んでいる。
なんとか隅っこの、手すりのちかくに場所をキープして、窓の外を眺めながらふう、と、息をついた。

同じリズムを刻む、電車の音。揺れるリズムも、心地よくて、既にこの季節、真っ暗な窓の外に、工業地帯のまるでSF小説に出てきそうな鉄骨やパイプがライトアップされて浮かび上がって、幻想的な風景をみせてくれる。

――たとえば、あそこで、誰かが戦ってたりするのかしら。

ぽん、と浮かんだのは、幼い頃によんだSF冒険小説の一場面。

――そういえば、このへんって、テーマパークも含めて、妙にSFよりっていうか。

近くの工場ではロボットを作っていたような気がする、と、思い出して、小さく笑った。


駅について、大きく伸びをする。

廃れた駅。副都心のはずなのに、駅周辺が見事にシャッター商店街になっちゃってて、ため息が出てしまう。
ゆっくりと、階段を降りて、家へと向かう。
裏路地に入ると、一気に風俗店がふえるのは、なぜなんだろう。

とりあえず、大通りを通り抜けて、ふらりふらり、と、家へ向かう。
大通りは、いつまでもライトアップされてて明るいから、のんびりのんびりと、駅前の通りを抜ける。

そして、少し行くと、住んでいるマンションにつく。
駅から徒歩10分弱。近いのか遠いのか、微妙な所。近いのかもしれない。バスもあるし。

ああ、結局帰ってきちゃったなぁと、ゆっくりゆっくり、階段を登る。

安い理由は、5階建てだから。階段しかないから。古いマンションなんて、こんなもの。

がちゃりと鍵を開けて、冷えきった部屋へと入る。

一番上の五階。電気も付けずに、そのまま真っすぐ一番奥の窓辺に歩み寄って、カーテンを一気に開く。

遠く。
街のビルの向こう側。

さっき、電車で通った、工場地帯がぼんやりと、浮かび上がって見える。

夜景。とても綺麗、とまでは行かないけど、そこそこみられるこれは、私の心の癒しかもしれない。

そのまま、ぼんやりと、みるともなく、外を見つめ続けた。


何かが起こればいいな、と、思っていた。
同じ事の繰り返しの毎日の中で、何か変わったことが起こればいいな、と、心の何処かで願ってた。

でも、それはありえないって、解っていて。
その当たり前の毎日が繰り返されることが、何よりも一番だって、ちゃんとわかってて。

それでも、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、何かが起こって欲しくて、私はこの部屋を選んだ。

遠く遠く、光に浮かび上がる、まるでSF小説の舞台のような、あの工場がみえる、この部屋を。

暗がりのなか、冷蔵庫からビールを取り出す。
暖房も入れず、コートもきたまま。カバンは机の上にそのままに。

ガラス窓に持たれるようにしながら、ぷし、と、缶ビールを開ける。
街の光と。遠く、工場の光と。

それらに負けながらも、ほのかに光る空の星を眺めながら、私はひとり、ビールを飲んだ。


日が昇り、日が沈む。
一日、何気なく過ごして、気がつけば夜が来る。
何事も無く寝て、また朝が来る。

代わり映えのない一日。
それがとても大事なんだ、なんて、あちこちで見かける言葉だけれど、でも、私はもう少し、代わり映えが欲しい、と、思う。

――それでも。
たとえ代わり映えはしなくても。
窓からこの景色を眺めながら、ビールを飲む一瞬だとか。
帰り道、電車の中から眺める、あの風景だとか。

代わり映えがないからこそ、そこにある風景が、愛しいのは間違いないことで。

そっと目を伏せて、静かに笑う。

もし、私は、変わってしまったらきっと、混乱してしまうに違いないのに。

ダイニングへ戻ると、テーブルにビールを置いて、電気を付ける。
そのまま、コートを抜き、帰宅後のルーチン的身仕舞いを、一気に済ませる。

そしてそのまま、再びダイニングに戻ると、机の上においたままだったはがきを、そっと手にとった。

同窓会のお知らせ、と、書かれたそれを、しみじみと眺める。


――代わり映えは、欲しいけれど。

変わってしまうきっかけになりそうな、はがきを前に、苦く笑う。

もう少し。
何かちょっとだけ。
刺激がほしい、と、思ってしまうのは、私が幸せな証拠なのだろう。

ちょっとだけ、の刺激になりそうなその葉書に、丸をつける。

それでも、日は沈み、日は昇る。


私に、あの工場がSF小説のようだと、教えてくれた人の面影を思い出して、私はひとり、静かに笑う。


――変わらぬ日々に、小さな変化が起こる。

けれど。そう。

それでも、日は沈み、日は昇る。

毎日は、結局、変わらず過ぎていくのかもしれない、と、そっとはがきにキスをした。

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