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[掌編]ノックを三回

2013.01.24 Thu [Edit]

The Thysdrus Cat
The Thysdrus Cat / DeCyner



ノックを三回。

しばらく間を空けたら、さらにノックを二回。

そして、もう一度、ノックを三回。

すると、扉からじわり、と淡い光があふれ始めて、シャン、と、鈴の音が響く。

これが、合図。

扉を開けると、そこは、別の世界。

私は、子供の頃から、いつしか、こうして知らない世界へ行くすべを、身に着けていた。



最初は、読んだ本の真似だったような気がする。

クローゼットを開けてみたり。引き出しを開けてみたり。

きっとそうしたら、そこには知らない世界が広がってるはずだ、と、根拠もなく信じ込んでいたあの頃。

今となっては、なぜそこまで思い込めていたのか、不思議だったけれど、あの頃の私にとっては、開くまでの一瞬は、いつもはちきれんばかりの期待感でいっぱいで、けれど、開いて何もなくてがっかり、ということを繰り返していた。

そのうち、なんの拍子だったか、扉をノックした。最初は二回、そして三回。次に四回。
もちろん、何もおこるはずがない。けれど、何がどう作用したのか、ある時、何の気なしに、ノックを三回、そして二回、さらに三回、と、少し楽しくなりながら繰り返していた時、扉がふわりとひかり、鈴の音がして、そして、扉の向こうには知らない世界が広がっていた。

広い広い草原。どこまでも広がる草原。

そして、一つの太陽と、そのとなりに寄り添うようにうかぶ、青い惑星。

その光景に、唖然と立ち尽くして、それから、混乱して、すぐにもとの部屋の戻ったのは、なんとなく今でも覚えている。

ノックせずに開けば、普通に部屋の中。

ノックをすると、別の世界へ。


その場所が、どんな場所なのか、わからない。

ただ広い草原と、青い空に、太陽と惑星。

扉から出て、振り返れば、そこはあまり大きくない、開拓小屋のようなたてもので。

無意識に扉を閉めてしまって焦ったのも、いい思い出だ。

そのまま開いたら、開拓小屋の中につながって、ノックをすると、元の世界へ。

この仕組みがどうなってるのかはわからなかったけれど、最初はおっかなびっくり周囲を探索していた私も、数度こちらに来るうちに、周囲に民家がないこと、周囲の人影も危なそうな獣も居ないことに気づくと、時々、いろんなものを持ち込んでは、週末、ここで過ごすようになった。


それから、はや数年。

受験期は、こちらに勉強道具を持ち込んで勉強する始末で、それでいいのか、と、自分でも思いながらも、色々と調べたり色んな物を持ち込んだりして、こっそりひっそり、なんちゃってスローライフを週末だけ送ってみたりして。


楽しいけれど、これは誰にも言えない秘密だなぁと、のほほんとしつつも、さていつまで続けられることか、と、思っていた。


ずっとこっちに生活するには、情報が足りない。それに、文明世界で生まれ育った自分が、この世界で生きていけるとも思えない。

ならば、いいとこ取りでなんちゃって生活、が、一番だなぁ、と、ずっと、そう、ずっと、思っていたのに。


「――水を、いっぱい、いただけないだろうか」


ばたん、と、突然開いた扉に、焦って振り返れば、息を切らせボロボロに成った男の人が、ひとり。

この世界ではじめてみた人間、しかも男、さらに腰に剣をはいたその姿に、怯えないわけなんか、なくって。


――泣いた。
超泣いた。

でも、彼は焦ってオロオロしてたから、とりあえず、泣きながら、カバンからペットボトルの水を取り出して、キャップを外してテーブルに置いて、そして、急いで奥の部屋につながる扉をノックして、逃げた。

何か後ろで、男が叫んでいたような気がするけれど、知らない。きいてない。


怖くなって、しばらく、あちらには行かなかった。怖くていけなかった。


半年ほどたって、やっと決意がついて、また、ノックを三回。


開いた扉の向こう。

驚いたような男の人の顔が、やがて、じわりと嬉しそうに変わるのをみて、慌てて扉を閉じようとするけれど、無理だった。


――どうしよう? どうしたらいい?

パニックになってまた泣きだした私に、男の人がおろおろあわあわしつづけるまであと5秒。

いつの間にか住み着いたこの男によって、周囲が見事な農場と牧場と化してることを知るまで、あと半日。


さてはて、これからどうなることやら。

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