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[掌編]伝えそこねた「I LOVE YOU」

2012.11.19 Mon [Edit]


i Love You / Jeff Kubina



さようなら、と、告げた声は、風に溶けて消える。

愛してる、と、呟いたあの日のあなたは、何を思っていたのだろう。

一滴、頬を伝う涙に気づきながらも、まっすぐに空を見上げた。

青く晴れ渡る空は、ただ、ただ、どこまでも美しく遠く、僕の頭上に広がるばかりだった。


――愛してる。

その一言を、告げていたら、何かが変わっていたのだろうか。






彼女との出会いは、もう、覚えていないほど昔のことになる。

小さな頃に、近所の公園で出会ったのが最初だったか。

それとも、母に連れられていった地区のセンターでの子どもの集まりが最初だったのか。

どちらにしろ、記憶に残っているのは、真っ黒な髪をおかっぱにした、人形のような彼女の姿だった。

幼い僕には、なぜか彼女の存在が恐ろしいもののように思えて、けれど、母たちが意気投合したことで、一緒にセットにされることによって、それなりに一緒に過ごすようになった。

僕と、彼女と。

――そして、彼と。

気がつけば三人一緒で、気が付けば三人セットで、同じ幼稚園に通い、小学校に通い、中学へと通った。

ずっと一緒で、けれど、途中から、きっと、僕らの関係は微妙にギリギリの瀬戸際にたつようなものになっていたようにも思う。

最初は、小学校の低学年から中学年にあがる頃。高学年の頃、そして、中学時代、と、時折、互いに微妙に距離を取ることもあった。けれど、男二人に女ひとりの関係は、性別の差もあって、時々ぎこちなく、けれど、途切れることなく続いていた。

あとで知ったことだけれど、高学年になった頃や、中学時代、彼女は周囲から浮いていたらしい。

和風で武士のような佇まいの、彼と、自分で言うのもなんだが、三枚目路線だけれど明るく周囲の受けがいい自分が、周囲に対してそれなりに対応していたにもかかわらず、彼女に対してだけは特別な対応をしているように見える、ということで、何やら他の女子の反感を買っていたらしい。

互いの両親、特に母親なんかは「ドリカム状態」だの「タッチだわ」だの、微笑ましそうに笑いながら言っていたように思うが、男である僕と彼とは、その頃の彼女がどんな気持ちでいたのか、どう感じていたのかを、慮ることはできない。

――いや。

いま思えば、彼は気づいていたのかもしれない。

彼女がどういう状態にあって、何を考えているのか。

そして、軽いノリの裏でひっそりと彼女に恋をしていた、僕の気持ちすらも。

高校進学となったとき、彼は別の高校に進んだ。成績の差があったこともあったけれど、今思うと、彼はこの膠着状態から抜けだそうとしていたのだろう。

それにどこかさみしげな彼女の様子に、自分の恋心にすら気づいてなかった僕は、胸の奥が傷んでいるように感じながらも、それでも、黙って別のところへ進む彼に、水臭い、と、寂しいじゃないか、と、憤慨してみせた。

けれど、彼は何も言わず、ただ微笑むばかりで。気がつけば、僕と彼女は同じ高校へ。彼は別の高校へと進学していった。

――それでも、家は近所だったし、関係は変わらない、と、思っていた、のに。

高校で、一緒にいることの多い僕と彼女は、自然、セットのように扱われ、付き合っている、もしくはその寸前だと周囲に認識された。
笑って否定はしていたけれど、それを信じる人はだれもいなくて。
まいったね、なんて彼女に笑いかけながらも、どこかで、それを嬉しく思っている自分もいて。

彼女に惚れ込んでるくせに、まだ、おさななじみだからだと言い訳していた僕は、だから気づかなかった。

彼女の想いのベクトルの向かってる先が、どこにあるのかを。


離れていても聞こえる噂はある。
彼の噂は、時々、僕らの高校にもふわりと届いた。
曰く、もてている、だとか。
曰く、女を弄んでいる、だとか。
あまりにも彼に似つかわしくないその噂に、思わず笑ってしまったものだけれども、同じように笑いながらも、どこか切ない目をした彼女を見たくなくて、気づかないふりをして、僕はただ笑い飛ばした。

そんな風に、高校時代は過ぎていって。

大学進学、と、なった時。

彼と彼女は、同じ大学に進むことになって。

僕だけは、地元に残ることになった。

――ショックだった。

彼女に進路を尋ねた時、地元の公立大学の名前をあげ、地元から離れたくないと、そういっていたから。
少しばかり偏差値の足りない自分は、必死に勉強して、その公立大学の、自分が進みたい分野の学部に、合格した。

彼女のそばにいたい、と、既にその時には思うようになっていて。
更には、ずっと3年間、同じ高校に通い、周囲にセットで扱われたことから、無意識に「そういう関係」であるかのように、自分でも勘違いしていたのだ、と。

気づいたのは、卒業式のあと。

志望していた公立大学の合格を祝おう、と、3人集まった席での、ことだった。

同じ大学だ、と、告げる僕に、どこか気まずそうな様子の彼女は、うつむいて。

一瞬、驚いたように目を見張った彼は、それから、どこか申し訳なさそうな表情になって。

――ごめん、そこじゃないんだ、私の進学先。

――彼と同じ所に行くんだ。

そうなのか、と、笑いおどけながら答えた俺に、彼女は、何かを告げようとして、言葉にできずにうつむいて。

いやな予感を感じながら、じっと見つめる先で、彼が、そっと彼女を慰めるように肩に手をおいて。

そして。

彼女が、すがるように彼を見上げて。彼が頷いた途端に、安心したように微笑んで。

その、一連の流れを。僕はどこか、テレビか何かの画面をみているような気分で、眺めていた。

どこかで、気づいてしまった事実に、胸を刺し貫かれながら。

――俺たち、付き合ってるんだ。

聞きたくなかった、と、そう思ってしまった僕は、悪くないと思う。

そうなのか、と、あからさまに高いテンションで言葉を紡ぎ、祝福をつげ、冷やかして。

ふたりとも、僕の気持ちに気づいていただろうけれど、何も言わず、ただ、目だけが申し訳なさそうに揺れていて。

どこかで、僕はそれにすら腹を立てて、だから、いつもよりも余計に明るいテンションで、彼女らに祝福を告げて。

――彼のこと、あいしちゃってんだっ?!

そのテンションのままに、からかうように告げた言葉に、彼女はまっすぐに、僕を見つめて。

――ええ。彼のことを、愛してるの。

そう、告げた彼女は、いったい何を思っていたのだろう。


気がつけば、僕はひとり、まちを歩いていた。

肌寒い冬の街。凍るような空気が、日差しの中でもキンと周囲に張り詰めている。

愛してる、と、彼女はいった。

その言葉が、脳内でリフレインして、どうしようもなく切なくて、空を見上げる。

凍える寒さのせいか、空は透き通って青く、青く。

泣くのも悔しくて、空を見上げた。


――もっと早く気づいていたら、何かが変わっただろうか。

――愛してる、と、言葉にしていたら、何かが変わっただろうか。

けれど、既に彼女は彼のもので。
何をいったところで、事実はただひとつ。

長い僕の初恋は、長い僕の恋ごころは、終わりを告げたのだ、という事実だけ。

涙が、溢れる。

こんな往来で、と、思いながらも、一滴だけこぼれた涙をそのままに、僕は歩き続ける。

もし、出来るならば。

ひとことだけ、伝えたかった。

「愛してる」と。

――二度と伝えられない気持ちは、僕の奥底にそっと封印されて、眠りにつく。

寒い冬の、透きとおる青空の色とともに。


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