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[掌編]ある一人の聖女のお話。

2012.10.07 Sun [Edit]

princess
princess / craigCloutier



もしも、助けてと、声に出すことができたなら。
疎ましいと言われたとしても、誰かに助けてと、泣きつくことができたなら。

私はきっと、この道を選ぶことはなかったでしょう。

ああ、神よ。

選んだのは私。道をたがえたのも、私。

それでも。

この国を、この世界を、そして、私をここに送り届けた神を、心の底から呪います。

聖女と呼ばれた、この身のもつ、力のすべてをかけて。

私は、ごく普通の、どこにでもいる、働く女性でした。特に何かに秀でてるわけでもない、どちらかといえば、どこか垢抜けない、のんびりとした性格で、家の中で一人過ごすことが何よりの幸せだ、と、いってしまうくらいの、地味な娘でした。

それが、あの日。

突然、起こった事故により失われた私の命は、私の望む望まぬにもかかわらず、かの世界の神を手により、異なる世界の、この見知らぬ国に落とされました。

一瞬、何が起こったのか、わかりませんでした。

見知らぬ人たちち、説明のないまま、ただ「おくりこまれた」ことだけはわかっている状況で、言葉も通じず、私に何ができたのでしょう。

ただ、怯え、うろたえるだけの私に、私の周囲を囲んでいた人たちは、おそらく確かに、優しかったのでしょう。そう、彼らにとってはのぞみ得られたたからものような存在。そして、何がなんでも、手元になければならない存在だったのですから。

怯える私の前に、美しい男の人が立ち、そっと声をかけてきました。

言葉はわからないけれど、心配されているようだということくらいはわかります。そっと差し出された手に、ためらわなかったわけではありません。

けれど、その、手が。

何もかも、すべてから救ってくれるよすがのように思えて。

そっと握り返したときには、おそらく、私の運命は決していたのでしょう。

長く暗い、聖女としての、生きる道を。


優しいなどと、なぜ思ったのか。

手をひかれて、そのまま寄せられた私に、その男は不意にくちづけをしました。それは、とても深く、いままでにそう何度も味わったことのない、そんなキスでした。
突然の出来事に混乱する私に、いたわるようにこえを かけてくる彼。その言葉が、理解できるようになっていることに、まず、驚きました。

体液を交わすことにより、言葉が通じるようになるのだ、と、そう説明され、なるほどこれは、人工呼吸器のようなもので、緊急避難措置だったのか、と、納得したのもつかの間。

この国の王子をなのる彼は、そのまま、聖女と私をよび、そして。

経験のなかった私には、それはとても、とても辛い行為でした。

愛を交わす行為ではなかったのか。子をなすための行為ではなかったのか。

この行為がそれを意味するのならば、かの王子は私を愛してるとでもいうのだろうか。


いま思えば、召喚だかトリップだかの衝撃もさらぬまの行為に、混乱していたのだと、わかります。

突然のこの身に与えられた恥辱に、このままでは耐えられないと判断した私を心は、壊れることよりも防御を選んだのでしょう。

彼を、王子を、自分も愛しているのだと、そう、心をすり替えました。

自分を、騙すことにしました。

それしか、道をないと、思ったのです。


そして。

私は第二王子だった彼の後宮へ入り、また、神殿で祈りをささげる日々となりました。彼の後宮にはすでに数名の姫がおり、そしてまた、私はその中のひとりにすぎなかったのです。

それも、聖女という役割があるからこそ、必要とされる、それ以外では寵愛など微塵もない存在、と、して。

ありがとう、と、あざ笑うようにかの姫は言いました。

王子の正妃となることの決まった姫でした。

王子は第二王子として、本来ならば、大公になるはずでした。

けれど。

彼は、私を得たことで、王太子となり、やがて王となることの約束されたのだそうです。


聖女を得たものが、国を安定させ、国をつぐ。そう、いつの時代からか決められて位た不文律があり、本来ならば私は、第一王子の元へと送られるはずだったのです。

けれど、そこに介入した第二王子だった彼が、まんまと混乱した私は連れ出し、自らのものにしてしまった。

第一王子は、辺境に追放となった、といいます。

そして、かの王子は、やがて、王となり、私は、聖女であり側妃でもあるという、寵愛されることもない立場で、アンバランスにいきていくことになったのです。

それでも、穏やかな生活の間は、このままでかまわない、と、そう思ってもいました。

けれど、ああ、あの人に出会い、恋というものを、愛という感情をしってしまってからは、ここがひどく窮屈な鳥かごにしかおもえず、けれど、側妃であり、それにすぎない私は、彼に声を書けることも許される立場ではなく。

ただとおく、見つめているだけでした。



それなのに。
みつめていられれば、満足、だったのに。

気がつけば、彼の傍には、別の側妃がならぶようになりました。

なぜ、と、思う間もなく、その妃は、彼の元へと下賜されてゆきました。

なぜ。どうして。

問う言葉へもどってきたのは、聖女だからという返事。


聖女だから、王族と共にあらねばならない。
聖女ならば、王族以外をあいしてはならないのだ、と。


ひとり、部屋で。
笑いました。笑いました。笑うしか、ありませんでした。

誰かに聖女などになりたいといったか。
誰がこの世界をきたいなどと、いったのか。
誰が、この身の身勝手に奪い、省みることのない男などを、愛することができるというのか。

笑いが枯れたとき、頬は涙に濡れれいました。

あのとき。
仕方がなかったとはいえ、選んだのは、確かに私かもしれません。

何も知らなかったから、と、目の前の手にすがった私が、愚かだったのでしょう。

けれど。

ああ、けれど。


呪いましょう。この国を。
呪いましょう、この世界を。
呪いましょう、かの神を。

なにひとつ、望んでないのに与えられたすべてを、心の底から憎む気持ちのまま 、私は、全身からほとばしる力を、止めることもせずに、言葉を紡ぎました。

呪いましょう。

すべてを。

聖女として。身のうちにあった聖なる力のすべてを、呪いへと変えて。

次々とからだから放たれる力をみつめるうちに、たっていることもままならなくなり、やがて膝をつき、そのまま、床に付してしまっても、私は力を止めようとはおもいませんでした。

そう、このまま、たとえ命が尽きようとも。


最後の、とき。

まるですべての意識がリンクするように、私の中に情報がながれこんできました。

それは、聖女の記憶。神の記憶の断片。そして、愚かな人間が、つごうのいいように解釈した、聖女の存在条件。

ああ。

本来ならば、あの人と結ばれる可能性も、確かにあったはずなのです。

聖女とは、そういうものだったのです。

けれど。

捻じ曲げられた託宣が、私の運命はすべてを、捻じ曲げた。


呪いましょう、このときを。
私の思いにリンクするかのように、つぎつぎと、同じようにさまざまな形でこの世界に連れてこられ、そして、きえていった巫女たちの祈りが、響きます。



この国は、呪われ続けるでしょう。

そして、やがて、ゆがむでしょう。

命は尽きる瞬間、私の心をよぎったのは、ほの暗い愉悦の感情。

すべてきえてしまえ、と、願いながら、私の人生は終わりを告げたのでした。


呪いをかけた魂は、天にかえらずきえず、地の呪縛として残ります。


永遠に。
呪い続けることでしょう。

この国と、

世界と

この神を


世界と終わる、そのときまで。


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