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[掌編]5.予定された終焉の時

2012.09.08 Sat [Edit]
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DSC04446 / ume-y


かーん、かーん、と、遠く、鐘がなる。

「そろそろ、お時間でございます」

神官服を来た老人が、ゆっくりと礼をしながら重々しくそう告げる。

頷いて立ち上がる。白くゆったりとした神子の正装は、最初こそ着慣れぬ作りとその雰囲気に戸惑ったが、既に5年、さすがに好みに馴染んだ。さらり、と、切ることなく伸ばし続けた髪が、その白い服に流れる。黒髪。この世界にはほとんど居ないと言われるその髪が、私のこの世界での立ち位置を決定づけた。

――異世界の神子、と。





エスコートするように差し伸べられるのは、ここまで共に戦ってきた騎士のひとり。強面で力至上主義の彼とは、最初は色々と合わなかったけれど、旅する間にそれどこではなくなった。今では、頼りになる仲間のひとりだ。その目が似合わず潤みかけているのは、情けで気づかないふりを、した。

その手をとって、一度部屋の中をぐるりと見回す。

ここにいるのは、共に戦ってきた仲間たち。そして、世話になった神殿の人々、そして――王族の人たち。

ひとりひとり、顔を確認するように見回す。共に戦った騎士たち、魔法使いの男、そして、神官の男。どれもどこか熱に浮かされたように微笑みを浮かべる中、神官と王族たちの表情に、思わず微笑が漏れる。

さすがに年の功か、表情の変わらぬのは王と神官長や、年老いた神官たち。王子や王女、そして、若い神官たちはどこか複雑な表情でこちらをみていた。


今日は、花祭り。女神アーフェルナの祝福を祝う、日。


この5年、この世界にはびこった魔を、旅をしながら討ち滅ぼした。神子なぞ信じられぬという空気の中、ただひたすらに祈り、浄化し、訳もわからぬまま与えられた力のままに、進んできた。

次第に、空気は変る。排除する空気から、神の祝福を喜ぶ空気へと。

――それも、今日が最後となる。

仲間たちはなにもしらない。胡散臭いと疎外されていた私が、みなに受け入れられてお披露目される日だ、と、彼らは心から信じている。そう、かの神官を除いて。

王たちはすべてを知っている。胡散臭いと疎外されながらも援助を受けることができたのは、彼らがすべてを知っていたからだ。

私の役割を。
私の、本当に求められる、意味を。

「神子様」

促されて歩を進める。

ちらり、と合った視線の先、苦しげだった王と王女の表情に、少しだけ嬉しくなる。最初は、きっと、私個人になど何も感情はなかっただろう。けれど5年、短いとはいいがたい時間の中で、彼らの中に私のことを多少なりとも思ってくる気持ちが生まれたことを、何よりも嬉しく思う。

ゆっくりと、ゆっくりと、歩を進めていけば、左右に控えた神官が、バルコニーに続く扉をゆっくりと開いた。

「……覚悟は、よろしいですか?」

エスコートしていた神官に、いまさら、と小さく笑う。こちらに向けられる視線が、切なく、そして熱を帯びているのに、いつから気づいただろう。それでも、彼は、神官であることを選んだ。神の僕であることを選んだ。自分の望みと、私の存在よりも、この世界に存在する数多の命を選んだ。それでいい、と、思う。そうでなければ、とも、思う。

「だいじょうぶ。何も問題はないから」

そっとささやけば、低く小さな唸るような声。気にしなくていい。元々この世界に居なかった存在なのだから。何も気にしなくていい。
これは、最初から決められていたこと。これは、予定されていたことなのだから。

開かれた扉から、バルコニーへと進む。

どうっ、と、空気が揺れた、気がした。


バルコニーの下には、人がひしめき合っていた。歓喜の声。どの人も笑顔で、喜びであふれている。神子さま、と呼ばう声が、人々の歓喜の感情が、空気を揺らし大きな波となる。


ああ。

私は、この世界で必要とされたのだろうか。
私は、この世界の役に、立てたのだろうか。


愚かすぎる選択だと、笑うならば笑えばいい。

それでも。
私は、この世界に来たことを後悔しない。

私の背後を、神官たちが半円に囲む。
低く始まるは、浄念の祈り。

響き始めたその音を聞きながら、私は、両手を広げて空を仰ぐ。

――神子は、清浄なるもの。
――けれど、また、神子は魔を打ち砕くもの。

そして、魔は、汚れを運ぶ。


響き渡る祈りとともに、ぎし、と、体がきしみ始める。
じわりじわりと、たまり続けた汚れは、やがて神子を蝕み、そのままであれば今度は神子が魔と化してしまう。


だから。

神子は、旅がおわれば、浄化される。

浄化されて、空へと返されるのだ。


――すなわち、それは、ひとでいう死を意味するとしても。


はっ、と、息が荒くなる。目がかすみ痛みに意識が朦朧とし始める。隣に立つ神官が、唇を噛み締めているのがわかった。ああ、そんなに噛んだら傷になってしまう、と、埒もないことを思っている内に、たってることすらも辛くなる。ふらり、と、かしいだ体を、神官が支える。

背後が慌ただしくなる。ちらりと見えたそこには、こちらに駆け寄ってこようとする仲間たちの姿。みな、どこか焦燥を顔にうかべ、いらだちと怒りにあふれていた。

ああ。
ごめんなさい。何も言わずに消える私を、許してね。

引きつりそうな顔を必死で笑顔に変える。

祈りの声が次第に高まる。
ぽう、と、私の体が光っているのを、消えかける意識の端で捉えながら、私は、時が来たことを知る。

「……あなたに、あえて、よかった」

絞りだすように告げた言葉に、神官の腕のちからが強まる。


全ては決まっていたこと。

私が浄化され空に帰ることで、すべてが終わる。


――幸せだったのです。
――みなに会えて、共にいた日々が。

やがて消え行く意識の中、まるで泣き出しそうな神官の顔に、ただ、泣かないで欲しいと、祈るしか、できなかった。


――すべて予定されていた、物語の終焉。


お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/
「ダーク系5題」より 「5.予定された終焉の時」


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