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[掌編]4.言葉なき来訪者

2012.09.05 Wed [Edit]
朧月
朧月 / Skyriser / Lix


光が見えた。
うっすらとおぼろに霧に包まれた道の向こう、ほんのりと光るその光は、私にとてまるで何かの救いのようだった。

ふらり、ふらりと、その光に誘われるように、惹き寄せられる。

それが命取りになる可能性が高い、と、心のどこかでわかっていながら。




逃げるように村をでて、既にどれくらいの日数がたっただろう。
唯一持っていた、ボロボロだった靴は既に擦り切れて、履いている意味がなくなったのでどこかで脱ぎ捨てた。
洋服も、着の身着のまま、元の色など分からない。きっと異臭が漂っているだろうとわかってはいても、自分ではわからない。
そんなことよりも、激しい空腹感が襲って、胃が酷く痛む。なんとか水だけは、川辺があったからとることができたのが幸いだろうか。

それでも、もう、限界が近い。
歩くというよりは引きずるように前に進み、とにかく村から離れる。

――村に戻りたくなど、なかった。

よくある話だ。
結婚の約束をした相手が、他の男に目移りして、破局した。
どこでもある話だ。
本来ならば女性の不道徳を問われるべき部分が多くあるにも関わらず、相手が村長の娘だったのが運のつきか、気が付けば見に覚えのない様々なことを言い挙げられ、まるで犯罪者の様に扱われた。
裏切られたのはこちらなのに、と、絶望の思いで見つめる先、彼女はただ、嘲るように笑っていた。

――村に戻れるわけなど、なかった。

逃げるように飛び出して、ひたすらに村から離れた。

何も、考える余裕など、なかった。

先のことなど、何も考えていなかった。


走って走って走り続けて、力尽きて川辺で意識を失うように眠った。目覚めてからもただひたすら、頭には村から離れることしかなかった。それしか考えられなくて、ただひたすらに、前に、前に、前にと進む。

――彼女の笑顔が浮かんだ。

やがてそれは、歪んだ嘲笑に変わる。

――村人の笑い声が聞こえた。

やがてそれは、罵り嘲り笑う声へと変わる。

――慈しんでくれた両親の顔が浮かんだ。

失望の色を強くうつし、視線を合わせない顔へと変わった。


ただ、それらから逃れるように。
ただひたすらに。

それしか、考えられなかった。


三日目の夜、遠くから人馬の声が聞こえた。
木に隠れて伺えば、追手だとしれた。

――何の罪も、犯していないというのに。

どうやら、相手は私を生かしておく気すらないらしい。

隠れて、逃れて、ひたすらに前に進む。どこに向かっているのかすら分からぬまま、やがて泥水すらもすすりながら、ただひたすらに逃れる。

――行く先など、分からぬまま。

ただひたすらに歩み続けた、先。

もうこれ以上歩けぬ、と、崩折れ膝をついたそこで、私は光をみた。

いつの間にか周囲は霧に覆われていた。それにすら気づかなかった自分に驚きながらも、視線をその光から話すことが出来なかった。

薄暗い夕闇のなか、おぼろに霞む視界の中で、ほのかに、そう、まるで幻のように、その光は穏やかに目の前にあった。

思えば、気味の悪い風景であったようにも思う。どこか重い霧と、その時の自分には穏やかと思えたそれは、どこか禍々しさすら漂わせていたのだから。

それでも。

あの村での、わけの分からぬ、急に手のひらを返したような、すべてがひっくり返されたような出来事に比べれば、その眼の前のひかりは、どこまでも暖かく、まるで私を誘っているように感じられた。


いっぽ。

またいっぽ。

ふらり、ふらりと、惹き寄せられるように、否、惹き寄せられるままに、光へと近づく。

近づくに連れてひかりは揺れ、瞬き、やがて私を包み込む。


――そうして理解する。


すべては、こうなるために起こったものなのだ、と。


光が何であるのか、そして、その光がいったい何をしたのか、詳細はわからない。

けれど、それは確かに、私を得ることを目的として、そして、そこにあったのだ。


――それから。

私は、意識だけの姿として、白い世界にひとり、ある。

ほの白く光るその世界は、かの光の気配に溢れて入るけれど、あの時のように目の前に明確な形で現れることはない。

それでも。



今、ここにあることを幸せと思う自分がいて。

そして、その光の気配も、自分があることを喜んでいるという事だけはハッキリと理解できた。



失ったものは、多い。

けれど。

真白の世界で、私は、ひとり朧な夢をみる。

誰にも裏切られぬ、誰にも傷つけられぬ、寂しくも穏やかな、夢を。


――遠くで一滴、涙の落ちる、音が、した。



お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/
「ダーク系5題」より 「4.言葉なき来訪者」

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Theme:オリジナル小説 | Genre:小説・文学 |
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