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[掌編]ある姫の物語

2012.05.25 Fri [Edit]
見つめ合って手をつないで。
抱きしめられて微笑んで。
愛してるよってつぶやいて、愛してるよってささやいて。


Endless Love
Endless Love / Sabrina Campagna



でも。

――足りないの。

奥から何かが、足りない、足りないと叫び声をあげる。

何が足りない? 何を求める?

愚かな私は、その答えを知らぬまま。

今はただ、この、自分を包む温もりにすがるばかり。




遠い遠い、昔のお話。

有る所に、一人の姫君がいました。
裕福な国の一人娘として生まれた姫君は、それはそれは大切に傅かれ、幸せに暮らしていました。
欲しいものはなんでも手に入りました。いやなことはなにもありませんでした。
欲しがらなくても、いつでもなんでも手に入りました。
彼女が微笑めば、みながほほ笑みました。
彼女が悲しめば、みなが共に悲しみました。

彼女は幸せでした。
ひとりの娘として両親の愛を一身に受けて、周囲には大切にされ、とても幸せでした。

それが変わり始めたのは、弟であり王太子となる子供が生まれたときでした。

この国には、女性にも王位継承権はありましたが、そこまで重要視されていませんでした。
彼女が王位に付く可能性は、かなり低く、むしろ、王族の血を引く他の継承権を持つ男性を夫に迎え、その人が王位につく可能性がとても高かったのです。

王太子が生まれたことで、彼女の相手となるはずであった人との婚約は、差し障りがあるということで、自動的に解除となりました。
それが国のためだと、婚約者も姫も、理解しており周囲も問題なく、無事婚約は解消されました。

――変わったのは、本当に少しのことでした。

いつでもなんでも、姫君を一番に考えていてくれた両親は、姫君が話しかけても弟が声を上げればそちらに心が向かいます。
姫君付きの侍女たちも、可愛らしい若君有望な継承者と、まだ赤子の弟を、姫君の前でもてはやします。
周囲の貴族たちも、若君、王子とそちらばかり噂していて、姫君は戸惑いました。

いままでならば、手を伸ばさなくとも手に入ったものが、声を挙げなければ届かないということに。
欲しいと思わなくとも与えられたものが、欲しいと願い声にしなければ、届かないということに。

それでも、姫は、ちゃんと伝えるようにしようと考えました。
ほしいものを言葉にして、周囲に伝えるようにしました。
そうすればいいのだ、と、そう考えたからです。

しかし、今まで欲しいと行ったことのなかった姫が、急にあれこれと求める姿に、周囲の人たちは次第に眉をひそめ始めました。

やがて、苦言を呈するという形で、幾度か申し入れがされましたが、姫は頷きはするものの、何故そう言われるのかの根本が分からぬまま、今まで与えられていたものと同じだけのものが手に入るように、否、それまで与えられていたものが普通であったと思っているがゆえに、それが足りないのだからと、あれこれと求めたのです。

――しかし、彼女が本当に「欲しい」という気持ちをハッキリと理解したのは、ある男性との出会いでした。

ある夜会の席でのこと。

姫君も美しく着飾り参加したその夜会で、姫は最初数回声をかけられただけで、それ以降は王子の方に注目が集まり、一人静かに過ごしていました。今までであれば、周囲にあれこれと人が多くあつまっていたものですが、今ではそれほど多くありません。

――単純に、彼女の存在を愛している人もいたでしょうが、そこまで美女というほどでもない彼女の周りには、打算に満ちた人々が今までつどっていたのだということが、彼女にはまだいまいち理解できていませんでした。

それが、彼女自身の王位継承の可能性を下げていたということすら、その時の彼女は理解せぬまま、一人静かに数名の取り巻きと話している所に、目の前に光がさしたように感じて、目を上げました。

そこには、彼女のあこがれをそのまま形にしたような男性が、いました。

隣国の王子だという彼の挨拶に、言葉少なに応じながら、姫は思いました。

この人が欲しい。この人が欲しい、と。ただそれだけを。

その時は数度言葉を交わすだけで終わってしまいましたが、彼女の中の欲しいという気持ちは止まりませんでした。

「あの方が欲しいです」

ぽつり、と、いつものようにこぼした彼女のその言葉。

――それが、彼女を終焉に導くことになるとは、彼女自身も思いもしませんでした。

相手は、隣国の第二王子。何も問題ない政略結婚を出来る関係のようでありながら、そこには国の力の差というものがありました。

ただ、彼女が第二王子を恋い慕った、というだけならば、国から正式に申し入れがあったならば、違ったのでしょう。

――すでに彼女には、彼女を悪く思う人たちが、以前よりも多くなっていたのです。

侍女から侍女へ。そこから侍女たちの主へ。女性たちの情報の伝わり方は、とても早いものでした。

次々に伝わり、姫の国の上層部が気がついた時には、すでに隣国からそれとないクレームが入ってくる段階でした。

そう。
そのまま伝わったのです。

かの王子を、まるで何かもののように「ほしい」といった、その言葉がそのまま、姫の評判に尾ひれを付けて隣国に伝わったのです。

上層部は、王は、事態を重く捉えました。もし、彼の国との関係が悪くなれば、国の食料の問題にすら発展します。

王は、姫を、身分はあれども権力のない、ひとりの男性の元へと嫁がせることに決めました。

――それは、事実上の幽閉でした。

何故。
何故、と、姫は繰り返します。
彼女は何も知らぬまま。彼女はただ、あの王子を欲しただけ。
それまで欲しいと思ったものは、思わなくても手の中にあったのに。
欲しいと言わなければ手に入らないから、言葉にするようになったのに。

根本的ななにもが分からぬ姫は、ただ震えほろほろと泣くばかり。

――彼女が哀しい時は、いままでならばみなが共に悲しんでくれました。

けれど、悲しんでくれる人も、いないまま。

彼女は、その男性のもとに嫁いでいったのです。

「欲しい」を知らない姫は、「欲しい」をしって、そして、それを手に入れられぬ現実を、初めて知ったのです。

ほろほろと、涙にくれる彼女に、その夫となった男性は言いました。

私は貴方を愛しましょう。
私は何も貴方には差し上げられない。
けれど、ただ、私は貴方を愛しましょう。

王宮にいた頃とは格段に違う、優しいけれどひっそりとした生活の中で、彼女は次第に、その男性の優しさに絆されて行きました。

二人はそして、互いに愛し合うようになり、ひっそりと目立たぬように、暮らしていったということです。

――めでたしめでたし、で、終わるはずの物語は、けれど、その心のうちの真実を、隠しきれなくて。


抱きしめられる優しい腕と。
囁かれる優しい言葉と。
贅沢ではないけれど裕福で穏やかな生活と。
キャラキャラと笑う子供たちと。

暖かいものに包まれて、微笑みながら。


でも。

――足りないの。

奥から何かが、足りない、足りないと叫び声をあげる。

何が足りない? 何を求める?

愚かな私は、その答えを知らぬまま。

今はただ、この、自分を包む温もりにすがるばかり。



愚かな飢えが癒える日など、来ぬままに。


お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/
「それは甘い20題」より 「20.足りない」

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