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[掌編]夢の記憶

2012.05.24 Thu [Edit]
とろとろと、穏やかで暖かなまどろみの中、あたしは夢をみる。
甘く幸せで、この上なく暖かな、そんな夢を。

ゆるりと頭を撫でる手の感触が心地よくて、甘えるように擦り寄った。


子猫
子猫 / arakawakensuke




声が聞こえる。

伏せていた顔をゆっくりとあげれば、琥珀に輝く瞳がこちらをみていて。

口を開くと、にゃあ、と、小さな鳴き声が、こぼれた。



それが、私がもつ「あたし」の記憶。




「あたし」は、子猫だった。
小さな、子猫だった。

暖かい場所で、優しい人に囲まれて、穏やかに緩やかに、日々を暮らしていた。

「あたし」に名前はなかった。

あったのかもしれないけれど、記憶の中の言葉は、私には全く理解できないものだったから、呼びかけられているのが名前なのか違うのかすら、区別がつかなかった。

「あたし」には、両親がいなかった。両親、と、いうのかどうかもわからないけれど、少なくとも母猫は、「あたし」を産んですぐにどこかにいなくなった。
寒い冷たい場所で、ひとり泣いているところを拾われ、いろんな人の手を介して、最後に箱に入れられて連れてこられたのが、琥珀の眼の人のところだった。

その人は男性だった。
その人は、優しい男の人だった。
その人は、いまの私の感性から言えば、美形だった。
けれど。「あたし」にとっては、それらはなんの意味もなくって。
ただ、撫でてくれる、甘やかしてくれる、暖かい人でしかなかった。
ご飯をくれるのは、別のおんなの人だったけれど、それでも、そのごはんは彼のお陰で食べられるのだということは、なんとなく曖昧な意識のなかでも理解してた。

彼は忙しい人のようだったけれど、それでも、仕事をする部屋の隅に、気持ちのいい布の入ったかごを用意してくれて、「あたし」はいつもそこにおかれていた。
時折手招きされては彼の膝にのり、撫でられたりじゃれたり、話しかけられたりして、彼の膝の上でうとうとするのが日課だった。

とてもとても平和だった。

彼の目は光に透けるととても綺麗で、きらきらしていて、彼の指はとても優しくて暖かくて、「あたし」は、この上なく彼のことが大好きだった。

平和で、平穏で、穏やかな日々。

じゃれて、彼が戯れにくすぐる指先にあまがみして、また、じゃれて。

まるで砂糖菓子のような日々は、ある日突然、終わりを迎える。


むせ返るような血の香り。

大きな怒鳴り合うような声。金属がぶつかり合う音。

彼の部屋以外でお気に入りの、物置の隅っこで昼寝をしていた「あたし」は、それに気づいて飛び起きる。
背中の毛が逆立った。空気が、びりびりとしていた。
怖くて怖くて、よくわからなくて、ただまっすぐに、彼のもとにいかなくちゃ、と、それだけを思った。

人を避け隙間をぬけ、見つからないように駆け抜ける。
小さな体がすり抜けられるような場所は、いくらでもあった。

倒れた人がみえた。ごはんをくれたお姉さん。お風呂に入れてくれたおばさん。それから、扉をあけてくれたお兄さん。

見知った顔があちらに、こちらに、と、倒れていたけれど、それどころじゃなかった。

彼は。
彼は、どこ。どこにいるの。

ひたすらに駆け抜けて、辿り着いた扉の前。

いつもは閉じているはずの扉が開け放たれ、血を流し膝をついた彼の姿と、鎧甲冑姿の複数の男達の姿。
周りには、彼の傍にいつもいた人たちが倒れて、いて。

にゃあ、と、声を上げて彼に駆け寄る。

場違いな声に驚いたのか、一瞬振り向いた複数の男たちは、次の瞬間、なんだねこか、という拍子抜けしたような空気になる。

必死に彼に駆け寄ると、彼がなにかを叫ぶようにいった。くるな、とか、そういうことだったのかもしれない。

彼しか見ずに、まっすぐに、駆け抜ける。

けれど。

がつん、と、衝撃が体を襲って、次の瞬間、体中が焼け付くような痛みに襲われる。

たたきつけられるように床にぶつけられる。

彼の悲痛な声が聞こえる。男たちの笑い声が聞こえる。

ああ、早く彼のもとに行かなくちゃ。

必死で起き上がろうとするけれど、前足は虚しく床をかくばかりで。

霞む視界の向こう、悲痛に叫ぶ琥珀の眼の彼が、いて。

薄れる意識の中で、私は、小さくないた。

泣かないで。
泣かないで、と。

それが、最後の記憶。




――するりするりと、髪を撫でる手が心地よい。
その手が、いたずらに耳をたどり、頬をくすぐる。

もう。
何をするの。

私は、唇をふにふにといたずらに触れるその指に、歯を立てる。

くすくすと、笑い声。低くやわらかな笑い声。
ゆっくりと目を開ける。真っ白なシーツ。窓から差し込む朝日と、揺れる白いカーテン。

顔を動かせば、私のくろく長い髪が、さらりと流れる。

「起きた?」

その低く甘い声のもとに視線を向ける。茶色の瞳が、朝日を受けて淡く琥珀に輝くのを見て、私は、うっとりと目を細める。

「ええ。おはよう、あなた」


――どこかで、小さな子猫が、にゃあ、と、なく声が聞こえた。


お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/
「それは甘い20題」より 「19.甘噛み」

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