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[掌編]あなたに朝の挨拶を

2012.05.09 Wed [Edit]
住宅街を通り抜けて、交差点を渡れば、商店街の入口へとたどり着く。
その、住宅街と商店街の境目の角に、ひっそりと、小さなパン屋がある。

小洒落た外観をしているけれど、建物はそれほど大きくなく、大きく表に掲げられた「ベーカリー」の文字が、そこはかとなく郷愁を誘うような、昔からそこにあるんだろうと思わせる、どこか古びた、けれどどこか暖かい空気の、店だった。

Bakery
Bakery / Estify



地方の大学に進学し、一人暮らしを始めて、数ヶ月。ちょうど大学への通り道にあるこの店は、いつしか、僕にとって、馴染みの店となりつつあった。

そして、そこを毎朝通るたびに、僕の目はつい何かを探すようにあたりを見回してしまう。

「おはようございますっ」

ちょうどこの時間、朝の掃除に出ている彼女の、朗らかな声がかけられた。

軽やかなその声に、戸惑いながら頭を下げていた最初の頃。

次第に、おはようと、返せるようになった、5月五月晴れの朝。

一人暮らしの寂しさもなにもかも、その一言で飛んでいくような気がする、毎朝の恒例行事だった。






今年の五月は、いつもより気温が高い気がする。
元々住んでた地域との差もあって、夏物を出すのに少しばたついた5月のGW明け。
大学生のGWなど、教授によっては間の平日すら休みになってしまうわけで、ちょうど僕がとっていた講義もその例にもれず。
心配性の母親からの連絡で、地元に帰り、友人たちと遊んで過ごし、帰ってきた。

休み明けの通学は、どことなく億劫で、アクビを噛み殺しながら、今朝はあのパン屋で昼ごはんを調達してから行こうか、と、まだ少し肌寒い朝の空気の中、のんびりと住宅街を歩いていた。

交差点にさしかかり、信号の向こう、店をみる。今日も空いている。
朝早くから開けてくれているあの店は、本当に助かる。そうだ、朝食も食べそこねたから、それも購入しよう、と、考えながら視線を向けて、違和感を感じた。

あれ。
彼女がいない。

信号が変わって、横断歩道を渡れば、店はすぐそこにある。

普段なら、店の外に出て掃除をしている彼女の姿は、今日はどこにもない。
思わずきょろきょろと視線を彷徨わせていると、店の中から箒をもった店主のおじさんが、のっそりと出てきた。

「あ、え、あ、おはよう、ございます」

妙に焦って、どもりながら挨拶すると、おじさんは強面なその顔を僅かに緩めて、ああ、おはようと返してくれる。

「いまから学校か。パン、買ってくか?」

そう問われて頷けば、手に持った掃除道具を端に立てかけてから、店の扉を開けてくれる。
恐縮しながら店内にはいり、またつい、視線を彷徨わせる。

いない。
どうしたんだろう、と、思いながらも、トレーとトングをとって、パンを選び始める。

その間も、気になって、もしかして店の奥にいるんじゃないか、とか、遅刻してるんだろうか、とか、休みだろうか、とか、視線を右往左往させてしまう。しかし、今まで休日以外に彼女が休みだったことはほとんどなく、たいてい店で見かけることが多かったから、大方この店の店主の身内だろうとあたりをつけていたし、こうしてあえない日はなかったから、どうにも調子がでない。

幾つかのパンを選んで、レジに向かえば、おじさんが丁寧に袋に入れてくれる。

会計を済ませて、我慢できなくて、僕は口を開いた。

「あ、あの。彼女は、今日はどうかしたんですか?」

袋を手渡してくれていたおじさんは、唐突な質問に、お? と目を丸くして、そしてそれから、少し心配そうな表情になって、うなづいた。

「ああ、あの子か。このところの気温差で、風邪ひいちまったみたいでな。休みだ。まぁ、すぐに復活してくるさ。しかし――」

糸のように目を細めて笑いながら、うれしそうにうなづいた。

その表情に、照れくさくて気まずくなって視線をそらす。
おじさんは、くくっと笑うと、ちょうどレジの脇にあったクッキーをひとつ、手に取ると、ぽん、と僕に渡してくれた。

「あ、え? い、いいんですか?」

「おうよ。まぁ、あの子も親元離れてここに出てきて、知り合いもあまりいないっつーはなしだからな。まぁ、気にかけてやってくれ」

そう告げるおじさんの顔は、強面気味だというのにとても優しくて。思わず、僕はうなづいたのだった。


そして、次の日も、また次の日も、彼女はいなくて。
連絡先をまさか、おじさん経由で聞くことも出来ず、どこか悶々として、その数日を過ごした。

気になる彼女に会えないだけで、なんだか寂しい。
あの朝の挨拶がきこえないだけで、なんだか調子がでない。

どうしたんだよ、なんて、大学でつるんでる連中に問われたところで、答えることもできなくて。

そうして、過ぎた数日間。


そして。

「おはようございますっ。おひさしぶりですっ」

軽やかな朝の挨拶が聞こえて、僕の顔は緩む。

息を吸って。はいて。

「おはようございます。体の調子は、もうだいじょうぶですか?」

そう問いかければ、彼女はきょとんと僕を見返して、それから慌てたようにわたわたと箒を振り回す。

「え、あ、おじさんが言ったんですね。うわぁぁ、すみません、ご心配をおかけしました! もう、このとおり、とっても元気デスっ」

ぶんぶんと元気さを主張するその行動が、見た目よりも幼い印象にみせて、僕はおかしくなって笑った。

は、と我に帰ったらしき彼女は、箒をぎゅっと握り締めると、照れたように笑う。

さて。
ただ心配するだけ、なんて、もう、嫌だから。

「もしもよかったら、お友達になってくれませんか?」

まるで小学生のような誘い文句で、声をかけてみた。

びっくりしたように目を丸めた彼女は、やがて楽しそうに嬉しそうに微笑んで、強くうなづいてくれた。

「はい、こちらこそ、よろこんで!」

まずは、お友達から。
すべての第一歩。

明日からは、朝一番に、「おはよう」をメールで送ろう、と、僕は心に誓うのだった。


お題:「確かに恋だった」様 http://have-a.chew.jp/
「それは甘い20題」より 「04.おはよう」

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