[物語]01. 見上げれば足元不用心
2012.01.17 Tue [Edit]
走る。走る。駅の改札をぶつかるように通りぬけ、駅前を通りすぎて、大通りへ。
途中、ちらりとみえた駅の大時計は、すでに約束の時間まであと5分を切っていた。
ああ、神様。
なんで今日に限って、私は寝坊なんてしちゃったんでしょう……!

Clock for the railway at Whipsnade Zoo / Martin Pettitt
ずっと働きたかったお店があって。なかなか求人を出さないそこで、どうしても働きたくって求人がいつ出るか訪ねたり知り合いを伝って求人があったら教えて貰うように手配したり。できる限りに頑張って頑張って、やっと今日、面接にこぎつけたっていうのに。
――まさかの寝坊とか。私、いったい、どれだけおばかなの……!
それでも、まだぎりぎり、走れば間に合う。きっと間に合う! そう自分に言い聞かせて、ひたすらに走る。走る走る走る。――こんな時、つくづくスカートじゃなくてよかったって思う。いや、そんなこと考えてる場合じゃないんだ! とひたすらに走り抜けて、走って走って、ああ、お店がみえた! と、思った時。
「っっひゃあっ!」
どしん、と、ぶつかった。硬い何か。
そのまま、跳ね返されて、私は尻餅をついたのだった。
……ほんっとついてない。
「だ、大丈夫ですか?」
かけられた声にハッと我に返る。
「あ、だ、ダイジョブです。」
急いで立ちあがり見上げると…‥顔見えないし。もうちょい上か、と、更に顔を上げれば、どこか情けなさそうにこちらを見下ろす男の人。どうやら、この人のおしりにぶつかったっぽい。
「怪我とかないですか」
心配そうにこちらを見るのを必死で見あげるけど――首痛い。この人、ちょっと身長高い。180超えてる? それってば、145しかない、ちびな私に対する喧嘩かしら。10cmくらいよこせ。と、思うのは内心だけ。表ではにっこり笑顔、笑顔で。
「大丈夫ですから。すみません急いでますので――って、ほんとにやばいっ」
ちらりと店のほうを見やると、その近くにあった電光掲示板の時刻が、かちりと約束の時間になるところだった。
ぺこりと頭を下げて、走りだそうとしたところを、手を掴んで引き止められる。
え、なに、マジで間に合わないんだけど!
急いで振り返って見あげれば、足がもつれた。……くっそぅ、だから身長高い奴って嫌いなんだ! 倒れそうに鳴るのを必死でこらえようと体をよじったら、胸の下あたりに温かい感触。……て、え!?
――気がつけば抱えられてました。って、お兄さん、セクハラじゃないっすかこれ。
「あのー……」
「あ、ああ、す、すみません、転びそうだったからつい!」
慌てて下ろしてくれたお兄さんに、いえ、と、言いつつ。内心お前さんが引き止めなきゃ転ばなかったんだよ! とさり気に暴言。あくまで内心。外見は私、これでも小さい身長と相まって子供扱いされるくらいですから、にっこりにこにこ邪気がないふり。……あ、子供扱いとか自分でいってちょっとずきっときた。じゃなくて。
「助けてくださってありがとうございます。あの、面接に遅刻しそうで急いでるんですっ。何か御用でしょうか」
首をかしげて問いかければ、一瞬ぽっと頬を染めた彼は、そのままゆるりと微笑んだ。
「こんにちは、ええと多分、今日あなたが面接を受けに来るお店の、店長です」
「……」
「……」
「し、失礼しましたっ。遅くなって申し訳ありません」
そのまま直角に頭を下げたら、しばらく沈黙。ああ、私ったら私ったら、なんて思ってたら、上から笑う声。恐る恐る視線を上げれば、口に手を当てて、笑いをこらえる店長さんと名乗る人の姿。
「いえ、こちらこそ、ぶつかったりしてすみません。では面接しましょうか」
そういって、差し伸べた先には、さっきから見えていた、私の大好きなお店。
見れば確かに、彼はその店のエプロンをしていた。
――私と彼が出会った日のこと。
身長差40cmの彼と、知り合った日の、出来事でした。
-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--
恋したくなるお題 様より
http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/
途中、ちらりとみえた駅の大時計は、すでに約束の時間まであと5分を切っていた。
ああ、神様。
なんで今日に限って、私は寝坊なんてしちゃったんでしょう……!

Clock for the railway at Whipsnade Zoo / Martin Pettitt
ずっと働きたかったお店があって。なかなか求人を出さないそこで、どうしても働きたくって求人がいつ出るか訪ねたり知り合いを伝って求人があったら教えて貰うように手配したり。できる限りに頑張って頑張って、やっと今日、面接にこぎつけたっていうのに。
――まさかの寝坊とか。私、いったい、どれだけおばかなの……!
それでも、まだぎりぎり、走れば間に合う。きっと間に合う! そう自分に言い聞かせて、ひたすらに走る。走る走る走る。――こんな時、つくづくスカートじゃなくてよかったって思う。いや、そんなこと考えてる場合じゃないんだ! とひたすらに走り抜けて、走って走って、ああ、お店がみえた! と、思った時。
「っっひゃあっ!」
どしん、と、ぶつかった。硬い何か。
そのまま、跳ね返されて、私は尻餅をついたのだった。
……ほんっとついてない。
「だ、大丈夫ですか?」
かけられた声にハッと我に返る。
「あ、だ、ダイジョブです。」
急いで立ちあがり見上げると…‥顔見えないし。もうちょい上か、と、更に顔を上げれば、どこか情けなさそうにこちらを見下ろす男の人。どうやら、この人のおしりにぶつかったっぽい。
「怪我とかないですか」
心配そうにこちらを見るのを必死で見あげるけど――首痛い。この人、ちょっと身長高い。180超えてる? それってば、145しかない、ちびな私に対する喧嘩かしら。10cmくらいよこせ。と、思うのは内心だけ。表ではにっこり笑顔、笑顔で。
「大丈夫ですから。すみません急いでますので――って、ほんとにやばいっ」
ちらりと店のほうを見やると、その近くにあった電光掲示板の時刻が、かちりと約束の時間になるところだった。
ぺこりと頭を下げて、走りだそうとしたところを、手を掴んで引き止められる。
え、なに、マジで間に合わないんだけど!
急いで振り返って見あげれば、足がもつれた。……くっそぅ、だから身長高い奴って嫌いなんだ! 倒れそうに鳴るのを必死でこらえようと体をよじったら、胸の下あたりに温かい感触。……て、え!?
――気がつけば抱えられてました。って、お兄さん、セクハラじゃないっすかこれ。
「あのー……」
「あ、ああ、す、すみません、転びそうだったからつい!」
慌てて下ろしてくれたお兄さんに、いえ、と、言いつつ。内心お前さんが引き止めなきゃ転ばなかったんだよ! とさり気に暴言。あくまで内心。外見は私、これでも小さい身長と相まって子供扱いされるくらいですから、にっこりにこにこ邪気がないふり。……あ、子供扱いとか自分でいってちょっとずきっときた。じゃなくて。
「助けてくださってありがとうございます。あの、面接に遅刻しそうで急いでるんですっ。何か御用でしょうか」
首をかしげて問いかければ、一瞬ぽっと頬を染めた彼は、そのままゆるりと微笑んだ。
「こんにちは、ええと多分、今日あなたが面接を受けに来るお店の、店長です」
「……」
「……」
「し、失礼しましたっ。遅くなって申し訳ありません」
そのまま直角に頭を下げたら、しばらく沈黙。ああ、私ったら私ったら、なんて思ってたら、上から笑う声。恐る恐る視線を上げれば、口に手を当てて、笑いをこらえる店長さんと名乗る人の姿。
「いえ、こちらこそ、ぶつかったりしてすみません。では面接しましょうか」
そういって、差し伸べた先には、さっきから見えていた、私の大好きなお店。
見れば確かに、彼はその店のエプロンをしていた。
――私と彼が出会った日のこと。
身長差40cmの彼と、知り合った日の、出来事でした。
-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--
恋したくなるお題 様より
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