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おまけ小話:七草のお話。

2012.01.07 Sat [Edit]
土曜日は休みだ。故に、金曜日の夜、食事で彼女を誘い出し、どこかで食べるか部屋で鍋なぞするぞと誘いかけて、彼女をお泊りさせるのが習慣化してきた今日この頃。

朝、うでの中でふにゃふにゃと眠る彼女を眺めて、うむ、これはかなり幸せな感じだ、と、一人頷く。そして、ふと時計を見て今日が何の日かを思い出したから、彼女を起こさないようにそっと布団から出ると、台所へと向かった。


「せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ」

お経のようにキッチンに座った彼女が、指でリズムを取りながら呟く。

「すずな・すずしろ。これぞ春の七草」



続けて言えば、むう、と、まゆを寄せた彼女が、こちらを身長差故に上目になる目で睨んでくる。可愛いからやめなさい。思わずゆるみそうになる表情を気合で引き締める。

「せんぱい、私、ずーっとずーっと不思議なんですけどっ」

わずかに身を乗り出した彼女に、おお、と、わずかに身を引く。

「ん。なに」

「なんで春の七草は食べられるのに、秋の七草は食べられないんですかっ?」

……思わず首を傾げれば、彼女もつられたか、首が傾く。子犬みたいでかわいいじゃないか。しかし、だ。

「さぁ」

「うう、なんか不公平だと思うんですよ。子供の頃に、春の七草知ったあと、秋もあるって聞いて、私、いったんですよ、母にっ。『おかーさん、私、秋の七草もたべたいっ』って。そしたらもう、母も父も大爆笑。ひどいですよねっ、だって、食べられると思うじゃないですか、春が食べられるんだから! 」

むう、と、頬をふくらませる彼女に、湧き上がる笑いを必死でこらえる。うん、ここで笑ったら、きっとスネる。彼女はスネる。

「そうかな」

「そーですよ! 食べられない秋の七草が悪いんですっ」

むむっ、と、目の前の七草がゆを睨みつける彼女に、苦笑が溢れる。

「七草がゆに罪はない。さめるよ」

「あうー、いただきますー」

レンゲをとりあげて、彼女が粥を食べる。ふうふう、と覚ます口元。それから、ゆっくりと唇に含まれる、れんげ。そして、ふにゃり、と緩む、表情。

「おいしいー。おかゆがおいしいとか、先輩ひどいー」

文句を言いながらも、顔は緩んだままで。

「今年も元気で。秋には秋の七草を見にいくよ」

そう告げれば、ふにゃりと緩んだ顔のまま、彼女はひとつうなづいた。


ささやかな約束が、何よりも愛しいと。
言葉にはしないけれど、しみじみと思うのだった。




余談。

「秋の七草は山上憶良が詠んだ2首の歌がその由来」

「そうなんですか?」

「と、ヤツがいってたきがする」

「……先輩ですか」

「うむ。ちなみに食おうとしたこともあるらしい」

「……恐るべし先輩」



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