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5.恥ずかしいのは俺だけかよ

2011.12.26 Mon [Edit]
「えーと……久しぶり?」

他にどう言えばいいのかわからなくて、出てきた言葉がそれだった。

「あー、20年近くぶり?」

相手は、変わっていたけど変わってなかった。年をとった分だけ、その風貌は変化していたけれど、でも、彼は彼で、そのまんま、だった。

まさか、だ。中学でも同じクラスにあのあとなることもなく、高校大学と、縁がないまま合うこともなく、すれ違うこともなかった相手に、だ。こんな所で合うなんて。

大学時代から住んでる、小さなアパートの玄関で、こんな風に彼と対面するなんて。

まじまじと見つめれば、少し不機嫌そうに、だけど、少しだけ懐かしそうに、彼は笑った。

「あー、とりあえず。隣に引っ越してきましたんで、挨拶にきました。これつまらんもんですが」

「あ、ご丁寧にどうも」

ぺこり、と、お互いに頭を下げ合い、差し出されたものを受け取る。うむ、定番の指定ごみ袋。これ、地味に嬉しいんだよねぇ、と、思いつつ、顔を上げれば、彼と目があって。

なんだか、お互いに、大人ぶって会話していることが、無性におかしくなって、どちらともなく笑い声が漏れた。


久しぶりに、彼とあった日の事。




それから、まぁとりあえずお茶でもと彼に声をかけ、渋るのを今更だと家に招待して、まぁ、お茶を出しつつ昔話と、今までどうしてたか、なんて話をなんとなくしたり、同級生の今を語り合ったり。
記憶にあるのは、お互い中学生の姿だけ。卒業式に彼の姿を見かけたけれど、声をかけることなんてできるわけなくって、ぼんやり眺めていた。あの時の淡い思いが恋だったのかどうか、なんてわからないけれど、でも、ドキドキしていたあの頃の感情は、今では持ち得ないもので。恥ずかしいなぁと思う反面、懐かしいなぁと思えるのは、年をとった性だろうか。

こちらも、近くの女子高に進学し、それから付属の短大に進むときに親が転勤になって、このアパートを借りて暮らすことになって。それから就職して三十路超えの今まで、それこそお一人様を満喫してきたわけで、いや、彼氏がいなかったわけじゃないけれども、気がつくと一人が楽になってたわけで。どこかでいわゆる女子力を枯渇させてたのかもしれないなぁと、彼を部屋に招いて平然としている現状に、我ながら驚いてしまう。あの、中学時代のきゃっきゃうふふな私どこにいった。いや、女30歳ちょっと、そんなにきゃっきゃしてらんないけどねぇ、と、しみじみしてたら、彼がこちらをじーっとみていた。

「ん? なに?」:

「あー……いや、さぁ」

「なんなのよ。はっきりいいなって」

「おま……変わったなぁ」

しみじみと言われてまゆがよる。なんですかそれは、と睨みつければ、不機嫌そうな顔、ううん、今ならわかる、照れ隠しみたいにまゆをぎゅっと寄せる彼の姿があった。

「変わるわよ、女一人、この世知辛い世の中いきてんですから」

「お前ひとりなのか」

「どういう意味よ。おひとりさまで何か悪いか。リア充爆発しろ」

「いや、俺もおひとりさまだけど、っていうかそうじゃなくって!」

なんなのよ、と、見つめれば、彼は視線を彷徨わせて、あーとか、うーとか、いってたけれど、やがて深く深くため息を漏らして、ボソリつぶやいた。

「なんだよ、恥ずかしいのは俺だけかよ」

目をまたたいてしまう。恥ずかしい、恥ずかしいとな。この状況が? 久しぶりにあったことが? 不思議に思って見つめれば、ああもう、と、彼は頭をがりがりかいて、窓の外を見ると他人事のようにつぶやき始める。

「むかしむかし、青かった俺は、好きな相手にどういう態度とったらいいかわからんくて、本に載ってた誕生日の日付変わった瞬間にプレゼント、とか、雨の日に彼女に優しく、とか、色々、試したわけですよ。ええ、うぶでしたから、これでも、これでもね。で、数回やったら今度はやった自分が恥ずかしすぎて、その子に話しかけられなくなって、そのうち中学も卒業、高校大学と、それなりに進学して、彼女もいなかったわけじゃ、ないんだけれども、だ。なんというか、初恋ではないけれども、だ。忘れられない感じの存在だった子に、だ。まさかまさか、引っ越した先のアパートで、しかも隣の部屋にいるとかで遭遇するって、なあ、俺どうしたらいいんだ?」

「……えーと。わかんない」

「おま……ってか、顔赤いぞ」

うるさい。そんな事言われて、動揺しない女がいるものか。照れ隠しのようにまゆをぎゅっと寄せて、不機嫌そうな顔を作ってみせる。そんな私をみて、彼は面白そうに笑う。

「あれだな、昔は俺が、照れ隠しに不機嫌そうになってたってのに、今はお前がそうなるのか。――なあ、今ひとりなんだろ? また、アプローチさせてもらうぜ」

「っ、は、あ? いや、ちょっと!」

「まぁまぁ、まずは再びお友達から。よろしくな、お隣さん」

そう言って笑う彼は、実に楽しげで。うん、昔の面影も確かにあるけど、だけど、今思えば可愛げにあふれていたあの慣れていない彼は、一体どこにいったの? といった雰囲気で。ぱくぱくと口を開閉させていれば、ぶはっ、と彼は笑って。それから、その目が愛しいと言わんばかりに、柔らかくほころんで。

「ああ、真っ赤になってぱくぱくしてるとことか、昔のまんま。相変わらず、かわいいのな」

「う、うるさーいっ、三十路女に可愛いとかいうなっ」

手近にあったクッションを、勢いで掴んで投げれば、笑いながらそれを難なくキャッチして、怖い怖い、なんていいながら、彼は立ち上がる。

「まあ、今日のところはこれで撤退するけども。これからよろしくな」

にやり、と笑うその顔は、慣れてない感じだったあの頃の彼じゃなくって、間違いなく成長した男の顔で。うひぃい、と、思いながらも、昔とは違った感じで、だけど昔感じたような、あのドキドキが、襲ってきて。

うろたえる私に笑いかけると、じゃーなー、なんていいながら、にこやかに玄関へ向かい、扉をひらく。

あ、帰るんだ、なんて思って見てれば、扉の前で、彼は一度振り返って。

「お前な、誰でも男を家に簡単にあげるんじゃねぇよ。ばーか」

「なっ、誰でもあげるわけじゃないしっ!」

「ん、そーかそーか。じゃ、俺だけな。よし、鍵かけろよー」

うれしそうに笑った彼はそういうと、ひらりと一度手を振って、ぱたんと扉を閉めた。

呆然とその扉を見ていると、どんどん、とノックの音。

「ほら、鍵!」

「う、はいっ」

思わず条件反射で立ち上がって、急いで鍵をかけると、満足したようなうむ、という声が聞こえて、それから足音、そして隣の部屋の扉が開いてしまっていく音が聞こえて。

その場にずるずると、座り込みながら。

なんだか無性におかしくなって、私は一人笑った。なに、何がおこったの、っていうか、うん。

うろたえてしまったけど、色々びっくりだけど、だけど、嬉しいと思ってる自分もいる。久しぶりに会えたこと、忘れられなかったって言われたこと、それもだけれど。

私だってずっと、心の奥に彼がいたんだ、ってこと。

すぐにどうこう、関係がはじまるわけじゃないし、それもなんだかつまんない、けれど。

これから、彼と隣同士。
少しずつ始めていくのも、悪くないような気がして。

一人、くふくふと、笑い続けるのだった。



――淡い初恋が、リスタートをした日の物語。


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「慣れてない彼のセリフ5題」より

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