3.からかって楽しんでないか?
2011.12.24 Sat [Edit]
エアコンから吐き出される温風が、じわりと部屋の中を温めてくれる。けれど濡れた服は冷たく張り付いていて、さすがに気持ち悪くって、でも、ちょっとだけ躊躇して部屋の扉の方をみて、でも、このままじゃ風邪ひいちゃうかもしれない、と、慌ててまずは頭を拭う。それから、服から出てる部分をざっと拭って、急いで濡れた服を脱いだ。なんとも言えない気分で、誰も見てないのに顔が赤くなってそうだったけど、いろいろ考えないことにして、ゴシゴシ体を拭き上げてから、おばさまから渡されたらしき着替えを見る。と。
「あ。あうー……」
服の間に、ひっそりと、新品らしい下着まであって、こんどこそ顔が赤くなる。確かに全部濡れてたから助かるんだけど、助かるんだけど! と、内心で一人悶えながら、とにかく手早く着替えて、下着を内側にして濡れた服をまとめて、ビニールに見えないように突っ込んで、口をしめて、そこまでしてやっと、ほっと息をつけた。
彼に声をかけなきゃ、ともおもったけど、顔が真っ赤でどきどきしてたから、とにかく深呼吸したくて、ぺたり、と、床におしりをつける。部屋の中は、彼が少し温度高めにしてくれてたみたいで、すでに温かい。芯の方はまだどこか冷たい感じだけど、さっぱりとした服に着替えて暖かい部屋にいることで、こわばってた体が少しだけほぐれた。あのまま走って帰ってたら、ひどく濡れてもっとひどい事なってたかもしれない。そう考えると、ありがたいなぁ、と、思いつつ、いいのかな、迷惑じゃないのかな、と、ぐるぐる頭の中で考えてしまう。
彼の部屋。ふう、と息をついて視線を思わず巡らせる。特に、何かを見つけよう、とか、見ようとか思ったわけじゃないけど、いけないことかもだけど、好奇心がちらりと顔を出した。良くないくせ、だとは思うんだけど、人の部屋とか、本棚って、その人の個性が出てる気がして、見るのがすきだったり、する。子供の頃は無邪気にみてたけど、今は流石にそれがあまりマナー的に良くない、ってなんとなくわかってきたから、控えていたのだけれど、温かい部屋で少し気が緩んだせいか、ついつい、悪い癖が出てしまう。もちろん、見るだけ、見るだけだけど、と、視線を巡らせてると、なぜかベッドの下からはみ出てる本がみえた。なんだろう? と首をかしげつつ目を凝らす。何やら写真の載った本みたいな感じで、雑誌なのかな。ベッドの下からちょっとだけ見えてる感じが気になって、じぃぃっと見てると、部屋の扉が開いた。
「おい、着替え終わったんなら声かけろ……ってお前、なにみてんだよ!!」
不機嫌そうに入ってきた彼は、じっと見ている私に気づいてその視線を追ったのか、その視線の先にあるものに気づいて、ものすごく慌てたように走ってきて、そのままぐい、っとベッドの下にその雑誌を押し込んだ。
「え、ちょ、いいの? ベッドの下にあんまりモノ置かないほうがいいんじゃない?」
「っば! おま、なにいってんだよ、関係無いだろ!」
「関係ないけど、っていうか! 着替え終わってたから良かったけど、まだだったらどうするのよ、えっち!」
いきなり怒鳴るように返されて、つい、こちらも同じように勢いで返してしまう。顔が赤くなる。うう、迷惑かもしれないとか思ってたのに、何言ってるんだろー私、と、思いつつも、今更引っ込められなくて睨むように見つめれば、彼は、目を丸くし、真っ赤な顔で口を数回パクパクとしたあと、勢い良くしゃがみ込んだ。
「ちょ、どうしたの?」
「おま……からかって楽しんでないか?」
恨みがましげにしゃがんだ格好で上目遣いに見ながらそう言われて、戸惑う。いや、からかうって、そんなつもりはないけど。ベッドの下の雑誌が気になっただけで。本をそんな風に扱うなんて、って思ったんだけど……と、そこまで考えた時、ふいに友達の言ってた言葉を思い出せた。
――男の子ってベッドの下にえっちぃ雑誌隠すらしいよ。
お兄さんのいる友だちがそういっていたことを思い出した時、雑誌の存在と彼の行動と言葉が一気につながって、つまりは、そう、そういうことで、と、一気にばふん、と、ただでさえ赤かった顔が沸騰したみたいに熱くなる。あうあうあうあう、と、今度はこちらが、言葉にならずに口をぱくぱくさせてると、しゃがんだまま額に手を当てていた彼が深く深く、それはもう、ふかぁぁぁくため息を付いて、それから、よし、と、気合を入れ直すようにつぶやいてから、立ち上がった。
「まあ、かーさんよんでっから。下で茶飲んで、それから帰れよ」
そういうと、じゃ、と、それまでの赤くなったりうろたえてた様子が嘘のように部屋を出ていくから、慌てて私も荷物を手に立ち上がって、そうだ、何よりもまず伝えなきゃ、と、口を開く。
「あ、あの。ありがとうね!」
彼は一度だけちらりとこちらを見ると、手をひらひらと振って出ていった。ふう、と、ため息が漏れる。そして、つい、ちらりとベッドの下をみて、急いで頭を振ってそれを追い払うと、彼を追いかけて部屋から出た。なんだか、少しだけ、うん、少しだけ、恥ずかしいけど笑えてしまえる気分だったのは、何故だろう。
その後、おばさんが用意してくれたあったかいお茶を頂いて、傘をお借りして、少し小ぶりになった雨の中、家へと帰った。帰る前、ふ、と、彼の部屋がある窓のところを見ると、彼らしき人影が見えて、なんだか嬉しくなって、ぶんぶん、と、手を振ったならば、一瞬の間があったけれど、彼は手を振り返してくれてそれからカーテンが閉まった。
なんだか、嬉しくて、楽しくて、少しフワフワする気分で、跳ねるような足取りで家に帰って、かあさんに呆れられながら事情を話して、それでもなんだかふわふわするなぁって思いながらお風呂に入って、ふわふわしてお腹好かないなぁって思ってたら、かあさんに、呆れたように体温計を渡された。
39度5分。
おばかさんねぇ、と、呆れたように言われながらベッドに寝かしつけられ、フワフワする頭で襲ってくる眠気に逆らわずにうとうとしながら、思わずくふくふと笑った。
熱のせいかもしれないけれど、なんだか楽しくて幸せで、今だけは何でもできそうな、そんな気分で、笑っているうちに次第に意識は眠りに落ちていったのだった。
-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--
サイト名:確かに恋だった
管理人:ノラ
URL:http://have-a.chew.jp/
携帯:http://85.xmbs.jp/utis/
「慣れない彼のセリフ5題」より
「あ。あうー……」
服の間に、ひっそりと、新品らしい下着まであって、こんどこそ顔が赤くなる。確かに全部濡れてたから助かるんだけど、助かるんだけど! と、内心で一人悶えながら、とにかく手早く着替えて、下着を内側にして濡れた服をまとめて、ビニールに見えないように突っ込んで、口をしめて、そこまでしてやっと、ほっと息をつけた。
彼に声をかけなきゃ、ともおもったけど、顔が真っ赤でどきどきしてたから、とにかく深呼吸したくて、ぺたり、と、床におしりをつける。部屋の中は、彼が少し温度高めにしてくれてたみたいで、すでに温かい。芯の方はまだどこか冷たい感じだけど、さっぱりとした服に着替えて暖かい部屋にいることで、こわばってた体が少しだけほぐれた。あのまま走って帰ってたら、ひどく濡れてもっとひどい事なってたかもしれない。そう考えると、ありがたいなぁ、と、思いつつ、いいのかな、迷惑じゃないのかな、と、ぐるぐる頭の中で考えてしまう。
彼の部屋。ふう、と息をついて視線を思わず巡らせる。特に、何かを見つけよう、とか、見ようとか思ったわけじゃないけど、いけないことかもだけど、好奇心がちらりと顔を出した。良くないくせ、だとは思うんだけど、人の部屋とか、本棚って、その人の個性が出てる気がして、見るのがすきだったり、する。子供の頃は無邪気にみてたけど、今は流石にそれがあまりマナー的に良くない、ってなんとなくわかってきたから、控えていたのだけれど、温かい部屋で少し気が緩んだせいか、ついつい、悪い癖が出てしまう。もちろん、見るだけ、見るだけだけど、と、視線を巡らせてると、なぜかベッドの下からはみ出てる本がみえた。なんだろう? と首をかしげつつ目を凝らす。何やら写真の載った本みたいな感じで、雑誌なのかな。ベッドの下からちょっとだけ見えてる感じが気になって、じぃぃっと見てると、部屋の扉が開いた。
「おい、着替え終わったんなら声かけろ……ってお前、なにみてんだよ!!」
不機嫌そうに入ってきた彼は、じっと見ている私に気づいてその視線を追ったのか、その視線の先にあるものに気づいて、ものすごく慌てたように走ってきて、そのままぐい、っとベッドの下にその雑誌を押し込んだ。
「え、ちょ、いいの? ベッドの下にあんまりモノ置かないほうがいいんじゃない?」
「っば! おま、なにいってんだよ、関係無いだろ!」
「関係ないけど、っていうか! 着替え終わってたから良かったけど、まだだったらどうするのよ、えっち!」
いきなり怒鳴るように返されて、つい、こちらも同じように勢いで返してしまう。顔が赤くなる。うう、迷惑かもしれないとか思ってたのに、何言ってるんだろー私、と、思いつつも、今更引っ込められなくて睨むように見つめれば、彼は、目を丸くし、真っ赤な顔で口を数回パクパクとしたあと、勢い良くしゃがみ込んだ。
「ちょ、どうしたの?」
「おま……からかって楽しんでないか?」
恨みがましげにしゃがんだ格好で上目遣いに見ながらそう言われて、戸惑う。いや、からかうって、そんなつもりはないけど。ベッドの下の雑誌が気になっただけで。本をそんな風に扱うなんて、って思ったんだけど……と、そこまで考えた時、ふいに友達の言ってた言葉を思い出せた。
――男の子ってベッドの下にえっちぃ雑誌隠すらしいよ。
お兄さんのいる友だちがそういっていたことを思い出した時、雑誌の存在と彼の行動と言葉が一気につながって、つまりは、そう、そういうことで、と、一気にばふん、と、ただでさえ赤かった顔が沸騰したみたいに熱くなる。あうあうあうあう、と、今度はこちらが、言葉にならずに口をぱくぱくさせてると、しゃがんだまま額に手を当てていた彼が深く深く、それはもう、ふかぁぁぁくため息を付いて、それから、よし、と、気合を入れ直すようにつぶやいてから、立ち上がった。
「まあ、かーさんよんでっから。下で茶飲んで、それから帰れよ」
そういうと、じゃ、と、それまでの赤くなったりうろたえてた様子が嘘のように部屋を出ていくから、慌てて私も荷物を手に立ち上がって、そうだ、何よりもまず伝えなきゃ、と、口を開く。
「あ、あの。ありがとうね!」
彼は一度だけちらりとこちらを見ると、手をひらひらと振って出ていった。ふう、と、ため息が漏れる。そして、つい、ちらりとベッドの下をみて、急いで頭を振ってそれを追い払うと、彼を追いかけて部屋から出た。なんだか、少しだけ、うん、少しだけ、恥ずかしいけど笑えてしまえる気分だったのは、何故だろう。
その後、おばさんが用意してくれたあったかいお茶を頂いて、傘をお借りして、少し小ぶりになった雨の中、家へと帰った。帰る前、ふ、と、彼の部屋がある窓のところを見ると、彼らしき人影が見えて、なんだか嬉しくなって、ぶんぶん、と、手を振ったならば、一瞬の間があったけれど、彼は手を振り返してくれてそれからカーテンが閉まった。
なんだか、嬉しくて、楽しくて、少しフワフワする気分で、跳ねるような足取りで家に帰って、かあさんに呆れられながら事情を話して、それでもなんだかふわふわするなぁって思いながらお風呂に入って、ふわふわしてお腹好かないなぁって思ってたら、かあさんに、呆れたように体温計を渡された。
39度5分。
おばかさんねぇ、と、呆れたように言われながらベッドに寝かしつけられ、フワフワする頭で襲ってくる眠気に逆らわずにうとうとしながら、思わずくふくふと笑った。
熱のせいかもしれないけれど、なんだか楽しくて幸せで、今だけは何でもできそうな、そんな気分で、笑っているうちに次第に意識は眠りに落ちていったのだった。
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「慣れない彼のセリフ5題」より
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