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2.怖がるきみの手を握った、僕の下心をきみは知らない。

2011.12.17 Sat [Edit]
「しゅにーん、これ、どうぞー」

にゅ、と目の前に差し出された二枚のチケットに、驚きつつも目を上げれば、どこかしんなりした顔の部下がいた。なんだこれは、と目を戻しそれを手に取れば、映画のチケットである。一体これはなんだ? と視線を向ければ、情けなくまゆを下げて部下は嘆く。

「この前の合コンで良い感じだった子がいたんですけど、デートする予定だったんすけど、振られましたー! 年収が負けてたそうですー。てなわけで、余っちまったので、これ、どうぞー」

「ふむ。なぜ、俺?」

不思議に思って問いかければ、しんなり顔が一気にニンマリ顔になる。

「だってしゅにん、最近、良い感じの相手いるっぽいじゃないですかーっ。ぜひぜひ、この映画でも一緒に見て、頑張ってくださいっ。クリスマスは目前ですよっ」

ぐっ、と親指を突き出されたので、それを逆向きに曲げてみる。ぎゃぁぁと大仰に居たがる部下を横目に、ひらりとチケットを揺らす。

まぁ、もらえるもんはありがたくもらっておこう。

さて、次会う日が楽しみだ。





「……どぉぉぉしてホラーなんですかぁぁぁっ!! 私がホラー苦手って知ってるでしょうっっ」

映画館の前、すでに涙目の彼女が、いつもより少しだけ小声で憤慨する。

「……もらいもんだから?」

「いや、そうですけど、そうですけどっ。もおぉぉ、この映画、見るんですか?」

フルフルと震えながらポスターを指さすのに、首を傾げる。

「やめとく?」

ポスターはSFチックな雰囲気でありながら、間違いなくこれはSFホラー系だということを表すかのように、エイリアンらしき生き物が描かれている。彼女は割りとSF好きだったはずだから、これもいけるかとおもったんだが。だめだろうか、と、見つめていれば、がっくりと項垂れつつ、彼女がつぶやいた。

「見ます。見ますよ、せっかくですもん。みますとも! 苦手だけど嫌いじゃないし! SFだし! きっと大丈夫、きっと平気、頑張れ私っ、負けるな私ーっ」

ぐぐっと拳を握りこんでそうつぶやく彼女をみながら、しみじみ思う。これ、持ち帰っちゃダメかなぁ。まだむりかなぁ、もうちょっとかなぁ。つくづくと可愛い生き物だと思うのだけれど、それは俺だけなのだろうか。俺だけだといい。

映画館は割りと空いていた。それはそう、クリスマス前のカップルとなると、ムードを盛り上げるために恋愛映画か話題の映画となるだろう。この映画は悪くないが、そこまで話題にはなっていない。……しかしあの部下は、なぜこの映画を選んだのか。もしかしてそのせいで振られたんじゃないのかとか、ふと思い至る。まぁ、今は彼女を堪能する方が大事だ、と、並んで座った彼女をみやれば、すでにふるふる震えていた。……早くないかちょっと。

暗くなり、予告編が始まる。話題の映画が幾つか流れるのを見つつ、次に連れてくるのはもっとベタな恋愛物でもいいかもしれない、と思う。あれはれで、面白い。自分とは違う感情の流れを見せる男女を眺めるのも悪くない。うむ、と、考えていれば、本編が始まった。なるほど、話題の映画とまではいかないが、なかなかのSFX技術であり、見てて飽きない。怖がっていた彼女も、引き込まれるように画面をみている。おお、光が反射して目がきらきらしてる。画面と彼女と、半々で眺めながら、ストーリーが進んだ時、それは起こった。

「ひっ」

突然現れたエイリアンに、彼女が悲鳴を上げる。内容としてはB級な展開なのだが、どうやらダメらしい、必死で声を抑えつつ、画面をみている。見なければよさそうなものだが、どうやら目を離すのも怖いらしい。小さく体をこわばらせ縮こまりながらも画面を見つめる彼女に、ふ、と、思いついて手を伸ばす。

「っっっ!」

手を握れば、驚いたように椅子の上で跳ね上がった。……おもしろいなぁ、などと、ひどい事を考えつつ、こちらを涙目で見る彼女の耳元にそっと唇を寄せて、声を潜めて囁く。

「手。つないでたら、安心でしょ」

その前につなぐ瞬間にびっくりしましたよぅぅとか、何やらブツブツいっていたようだが、再び画面が緊張感あふれるシーンになると、握る手にぎゅっと力がこもる。プルプルふるえるさまが可愛らしい。さっき向けられた涙目もたまらない。このチケットをくれた部下の顔を思い出し、いい仕事をしたと内心で褒めてやる。なるほど、これを狙っていたか。あざといと言うか、通常であればいまいちな手だが、今回はグッジョブとしかいいようがない。

つながる手が、温かい。ふるえる彼女が、愛おしい。ここが映画館でなければ、後ろから抱きしめながら見るのも悪くはない。そしてそのまま――いやいや、落ち着け俺。美味しくいただくのは、もう少し先だ。ふるふると震え、時折ぴきゃ、とばかりに飛び上がる彼女と、どこかコメディの要素すら見せ始めた映画を眺めながら、そっと下心を押し隠した。今はまだ、早い、と。


「あー……怖かったぁ……」

映画館を出て、しみじみという彼女に首を傾げる。いや、確かにホラー要素はあったが、SF要素とコメディ要素のほうが強かった気がしないでもない。

「そう?」

首を傾げれば、強くうなづかれる。

「そうです! 私、ほんっとダメなんですよ。リアルに想像しちゃうから。あー、今夜寝れるかなぁ私」

しょんぼりとうなだれる彼女と、実はまだ手をつないだまま。映画館を出るときに、手を引いてそのままで。彼女は、気づいてないのか気にしていないのか、その手をぶんぶんと振った。

「ね、先輩、ご飯いきましょ、ご飯。今日はラーメンな気分です!」

先ほどまでのしょんぼりはどこに行ったのか、という風情で笑いかける彼女に、ほほ笑み返す。

「ん。しお?」

「今日はばりっと豚骨で! 唐そばいきましょ、唐そば!!」

かなりがっつり豚骨気分らしく、濃厚な店をあげる彼女に頷いて、連れ立って歩き出す。

さて、次はどんな手でいこうか。
カウントダウンは、もう始まっている。


-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--

サイト名:確かに恋だった
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「きみと手をつなぐ5題」より

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