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1.林檎の毒に浮かされて

2011.12.10 Sat [Edit]
「ごきげんよう。これから、どうぞよろしくお願いいたします」

そういって一国の王女らしく、優雅な淑女の礼を見せる乙女を、彼は内心苦々しく、しかしながら、外側は穏やかな笑顔を浮かべながら、静かに眺めた。

「ようこそ、我が国へ。行き届かぬところがあるやもしれぬが、心安く過ごされるよう」

豪奢な謁見の間、王とその傍らに立つ王太子たる彼と、その周囲にはこの場に来ることの許された王の正妃と数多側妃の上位一部、それらに囲まれながらも、乙女はうろたえる様子もなく、嫣然と微笑んでこの場にあった。

「ありがとうございます」

その言葉を最後に、謁見は終わりをつげ、彼はゆっくりと姫に歩み寄る。向けられる数多の女の視線の、そこに含まれる毒が、どれほどのものなのか。皆が皆、自らの求めるもののために、ただ、彼を邪魔に思っていることなど、王とこの姫以外、皆が知っている。そのような場所に、知らぬとはいえ嫁がされるこの姫の、なんと不幸なことか。幸い視線に気づかぬのか、穏やかに微笑んでいるように思えるけれども、これから彼女の身も危うくなりかねない。深く深く漏れかけるため息を必死で抑え込んで、彼は姫へと笑いかける。

「ようこそ、姫」

差し出した手に重ねられた手は、小さく、そして、細かった。


……やっぱりあの時、気合で出ていくべきだっただろうか、と、彼はひっそりと心の中で嘆くのだった。




脱走しようとして、飛び出したはいいが、すぐにつかまり、息を切らせながら駆けつけてきた老臣たちに身も背もなく泣きながらすがりつかれて、諦めたのは、記憶に新しい。
この国は、とうに腐っている。いや、何とか老臣たちが老害だのなんだのと陰口をたたかれながらも踏ん張っているからこそ、持っているのではないだろうか。物心つく前から気が付けば老人たちに仕込まれ、10の歳には執務を取っていた。今思えば、父が頼りないからこその決断であり、国のためには仕方がなかったと、わかる。弟やら妹やらがわらわらいる中で、亡くなった正妃の息子であり一番最初の男子だったが故の皇太子就任であるためか、また、母を忘れられぬらしき父が正妃をめとらぬゆえか、わらわらいる側妃たちが我こそはと色めき立ち、さらにその息子たちが、あとにわらわらと控えている。皆が皆愚かであるわけではないけれども、その母は文字通り、子供たちが大事で愛しいらしく、手を変え品を変え、こちらの命を飽きもせず狙い、さらにそれを王は気づきもせず進言しても妃たちを愛しているのかなんなのか、かばうばかりで改善もなし、そんな毎日の中逃げ出したくなったところで何ら罪などないだろう。結局は逃げられなかったが。

そして今回、大国とは言えぬが、かなり由緒のある隣国より、かの国の王族の寵愛深き姫君が、王太子たる彼のもとへと嫁ぐこととなった。これは、彼の立場をさらに強めることになるであろうし、王太子たる地位を盤石とするものでもあり、後宮の女たちがざわめいているのは、すでにこちらの知るところでもあった。

かの国も、それほど寵愛している姫君であれば、何も我が国に嫁がせることなどないだろうと思わず愚痴をいいたくなる彼ではあるが、あちらの国からの申し出であり、それを断るだけのものは現在この国にはない。突っぱねる意味もなければそのメリットもないが故に、多くの貴族どもは反対もできず、逆に老臣どもはこれを機会により王太子の地位を盤石にさせたいと狙ったようである。しかし、この現状、いつわが身が狙われるかもわからず、ついでに言えば、姫の命すらも狂った女どもにかかればどうなるやもわからない。どこまで守れるか、と、こぼれそうになる吐息をこらえながら、彼女と共に謁見の間を下がる。

左右に目を走らせれば、自らの子飼いと老臣どもの手のものが、上手く配備されており、背後にはどこからかあらわれた我が側近が、さらにその隣には姫の侍女らしき女が控えていた。現状は大丈夫だろうか、と、思っていれば、目の端に見たことのない影がよぎり、思わず姫の手を引く。さっそくか、と、構えれば、その影は何か光るものを手にこちらに駆け寄ってくる。

「……ちっ」

らしくなく低い舌打ちを漏らせば、周囲の人間があわただしく動く。

と。

「……はぁ?」

その男が消えた。否、横から現れた陰に浚われるようにぶつかられて、繁みの奥へと姿が見えなくなった。繁みの向こうからはくぐもったうめき声が聞こえ、やがてそのまま、静かになる。ちらりと視線を向ければ心得た護衛が様子を見に向かう。

「わが君、大丈夫ですわよ」

ふと、聞こえた声にそちらをみれば、彼を静かに見上げる姫の顔があった。その顔にはどこか楽しげな、悪戯めいた表情が浮かんでいて、場にそぐわぬそれに、彼は戸惑う。

「ひ、め?」

やがて戻ってきた護衛の傍ら、いつかどこかでみた暗殺者が、これまた黒づくめの暗殺者のような男を引きずってやってきた。

「……お前は」

「ご無沙汰しておりますよ、王太子さん。こいつ、第5側妃んとこの子飼いですよ。あそこはどうにも、他の妃サンらと違って財布が乏しいらしく腕が悪いのしかやとえんですからねぇ」

確かに、無駄にきらきらしい王の妃たちの中にも経済状態が悪いのがまれに居ないわけではないが……いやそういうことではなく。どういうことだ、と訝しく睨み付ければ、男は大仰に肩をすくめてみせた。

「雇う金が高くて、肩入れしたい方に鞍替えするのが俺の主義でしてね。とりあえず、とある方と利害が一致したもんで、とりあえずは王太子さん派っつーことで」

男は引きずっていた男を護衛に渡すと、では、と軽い言葉を残して去って行った。

「……どうなっている」

低く側近に声をかければ、一度頭を下げて周囲の人間に耳打ちし、指示を出しているようだった。わからないまま、そういえば、と、姫をみると、こちらをどこか楽しそうに見つめる姿があって。

何やら、嫌な予感が、した。

「お待たせして申し訳ない。すぐに部屋にご案内しよう」

振り払うように一度首を振り、再び姫の手を引き歩みだす。

「おきになさらず。皆様、大事な林檎を守るのに必死なのでしょう。――そこに毒が含まれてることなど気づくことないのでしょうね」

くすくす、と、小さくこぼれる声と、言葉と。

どうやら、わが妃となる姫は、一筋縄ではいかないらしい、と、内心で再びため息をつく彼だった。


……やっぱ家出しとけばよかった。



-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--

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「恍惚の童話5題」より

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