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5.二人は巡り合うために生まれてきた……違いますか?

2011.12.08 Thu [Edit]
「そもそも、何故あなたがこの世界に来る必要があったのか。お話はそこからですね」

いつの間に移動したのか、目の前にはテーブルがあり、椅子を引き座るように促される。ちらりと視線を走らせれば周囲はは床に伏したり膝をついて苦しげな風情の状態なのだが、それをどうこういったところで今はどうにもならぬとしか思えないため、素直に椅子に腰を下ろす。うっとりとして見つめてくるこやつは、さらりと人の髪を無断で撫でるとそのまま目の前の男たちに向き直る。

「過去、この国には複数名の聖女と呼ばれる娘たちが降臨しました。そのすべては、私が選び私が好ましいと思った清らかである娘たちでした。この国で聖なる娘として、私と世界をつなぐ架け橋となり、また、世界を愛し世界に愛される、そんな存在であるはずでした」

とうとうと語られる言葉は、静かに響き渡る。ふと苦しげな風情な男たちをみれば、意味を理解しているのかこやつの声に耳を傾けているようにもみえた。

「はず、であった娘たちは、けれど、誰一人として最後まで聖女として生を全うすることができませんでした」

ぴくり、と、男たちの方が揺れる。はじかれるように顔をあげた神職らしき男の表情が、愕然とした色を浮かべる。そんなはずはない、とでも言いたげな様子で口を開くけれども、負荷は強いらしく、言葉を発することができないようだった。

「愛し愛され、そうであった一部の娘たちは幸いでした。――たとえ聖女としての力はなくとも、愛を知ることができ幸せにいきることができたのですから。けれど、それは、ほんの、ほんの一部にすぎなかったのです」

しん、と、室内の空気が冷える。冷気が、漂う。研ぎ澄まされた空気は、行き過ぎると人には毒となってしまう。胸の奥が痛むようで、大きく息を吸う。まったく、ふざけるでない。話を聞く気はあるが、こっちに被害はご免こうむる。行儀が悪いが、足を延ばしてこやつの脛あたりを蹴り飛ばす。

「……っ、愛が痛いです」

そんなもの、どこにもないに決まっとろうに。




しかしその一撃で、いくらか空気が緩む。気を取り直したように、こやつは再び言葉を紡ぎ始める。

「どこで間違ったのか。おそらく、愛し愛された娘たちの多くが、王族に嫁したことが原因でしょうか。ある時期、この世界へ来た聖女は、いえ、言い直しましょう、聖女候補は、連続して何代も、この国の王族、主に王となるべきものと愛し合ったのです。――それが、不幸の始まりでした。それ以前には、もちろん、聖女として人生をひっそりと全うした者たちもいたのです。召喚の際に王城ではない場所にうまく落ちることにできた娘や、王城に落ちてもひっそりと生きて行けた娘も。しかし、その、何代も続いた婚姻は、ひとつの間違った認識を人々に植え付けてしまった。つまりは、聖なる乙女を妻としたものが王となる。聖なる乙女を妻とすれば国が栄える、という、認識を」

「ふむ。しかし、実際に国は栄えたのであろう?」

「ええ。ですがそれは、娘たちの持ち込んだ、異世界の知識によるもの。若い娘の知識故拙くはあれども、王宮には優秀な者たちもいます。気づきませんでしたが。この世界、文化は中世レベルであるのに、水道や下水の設備、入浴設備が整っているということに」

言われてみれば、何気なく日々使っていた生活設備は、元の世界ほどのいいものではなかったが、酷く不快であったり不便であったりするものではなかった。つまり、文化が、知識が持ち込まれていた。それ故に国が栄えたのであり、聖女であったからではないのだ、ということ。

言葉もなく青ざめる周囲の男たちの存在など知らぬげに、こやつは語り続ける。

「本来、聖女の役割は愛を受けること、そしてそれを受け流すこと。聖女を通して流れた愛は世界を巡り、世界を満たす。聖女は愛を受けても受け取ってはならないものなのです。受け取ってしまえば、世界は滞り、災害が増える。災害が増えないように、酷くなる前にとこれはと見込んだ娘たちを聖女候補として送り込んできたのですが……その、過ちのせいで、すべてが狂い始めたのです。愛し愛された娘たちならば、まだ、よかった。受け取ってしまっただけならば、よかった。けれど――無理に愛を強要された娘たちは、世界を呪い人を呪い、大地を呪った。――聖女は、失われていったのです」

「……××、×、×××?!」

掠れ振り絞るような声が、悲鳴のように上がる。神職らしき男が、何やらをいったようだ。それにこやつは強く眉を寄せると、振り払うように手を振る。

あがる悲鳴。そのまま頽れる神職らしき男を、隣にいた王が支える。

「何度も伝えようとしました。強要してはならぬ、聖女をけがしてはならぬ、と。――それを曲解し捻じ曲げてきたのは、あなたたち神に仕えると名乗る者たちの仕業ではないですか。そのくせ、これ以上に何をもとめるというのです」

ふう、と、妙に人間臭く息をついた男は、どこからか取り出した椅子へとゆったりと腰を下ろす。

「聖女候補だった娘たちが発した穢れは、大地を世界を――そして、私をむしばみました。おかげで少々、神としてはよろしくない方向に変化を遂げてしまいましてね。実は、今回失敗すると堕天確定なのですよ」

やれやれと告げる男の言葉に、呆れる。なるほどあの変態っぷりはその影響か、しかし酷い影響もあったものだ、としみじみ思っていれば、自称神が輝かんばかりの笑顔をこちらに向けた。

「いやですよ、変態だなんて。少し特殊なだけで輝かしい個性なんです」

そんな個性認めるつもりは毛頭ない。むしろそれを個性だと言い張るならば個性に頭を下げて謝るがいい。

「まぁ、そんなわけで。今回、あなたをこの世界に送り込んだのは、この世界で愛をひたすらに受け取りひたすらに受け流していただきたかったからであり、あなたならば多少の強引なあれこれも見事スルーするであろうとの予測の元の行動でありましたし、確かに降臨させる前、させた後に、穢すべからずと強く強く宣託しておいたはずなのですが、これっぽっちも伝わってませんでした。なんというか、もうこのまま堕天したほうが私的には幸せなのではないかと思ったりもするのですが、いかがでしょう」

しらんがな。

にこやかな自称神に対して、周囲の青ざめっぷりは、顔色が土気色になるほどだった。そらそうだわな、神が世界を見捨てるといっているのである。落ち着けるわけもなかろう。

「見捨てるのはたやすかろうが。さて、どうしたら納得がいくかね」

このままというのも目覚めが悪い。否、放置したところで何ら関係のない世界の連中なのだが、あの世話になった娘たちが不幸になるのは見たくないように思う。基本、人のことなどどうでもいい方なのだが、あの娘たちの働きっぷりや世話は素晴らしいものだったからな、うむ。

「そうですねぇ。じゃあ、こうしましょう」

そういうと、するりと自称神、もう認めてやることにするが、神は手を揺らし、あたりにリン、と、重い鈴の音が響き渡る。ぐらりと大気が揺れて、どこか重苦しい、黒い何かが、そこからジワリと広がり目の前の男たちへ、そして周囲へ、さらには世界へと広がっていく。

……なんぞこれは、まがまがしい。

「とりあえず、世界にひとつ呪いの枷をかけました。この呪いは、あなたが聖女として全うされない限り、解けません。貴方が穢されたとき、完成します」

神の癖に呪いとは。否、神は祟るというから、おかしなことではないのか?

「お手軽便利ですよね、黒魔術。」

「ひとつ聞きたいのだが、お前すでに堕ちてないか?」

「いやですね、まだぎりぎりセーフですよ。最後の最後のラインで踏ん張っている感じです。ああ、でも、あなたと一緒なら堕ちるのもやぶさかではありません」

とろりと解ける視線を向けたまま、神が告げる。まて、こやつは、今までの聖女候補の垂れ流した呪詛を受けて堕天しかかったところに、新たな聖女候補として転生させた私が、人生をかけて受け流してきた愛の成分を受け取った、と。本来それは、今までの話からすれば浄化にむかうはずなのだが――どこかでねじまがってしまったようである。

背筋に悪寒が走る。今まで感じていた、嫌悪や軽蔑ではなく、それは、純粋なる恐怖。

とろり、と、蕩ける表情の神は、静かに言葉を紡ぐ。

「二人は巡り合うために生まれてきた……違いますか? あなたは私のために存在する。聖なる娘よ、これからも私のために愛を紡いでください。そして、世界に愛を満たしてください」

いつのまにか、重苦しい気配は取り除かれ、周囲にいた男たちは、綺麗に膝をつき頭を下げている。
向けられる視線は期待、懇願、そして――熱望。

「はぁ……生まれ変わってこんなことになるとはねぇ。どうせ、逃れられんのだろう」

返されるのは輝く笑顔。

「強固な貞操観念と、色恋に惑わされぬ精神年齢、か。なるほど、選ばれた理由も納得できた。仕方あるまい、ただ、この世界で生きればいいのであれば、生きて行ってやろうよ。それしか、せぬがな」

こうして、世界は平和を取り戻す。まわりまわる世界は、静かに歪みながらも、平衡を保ち続ける。

世界を支えるのは、一人の聖女。彼女はただ、愛を受け愛を受け流し、今日も異世界の空に生きるのだった。


「……一緒に堕天してしまえば、二人きりになれますよ」

「断るに決まっておろうが」

日々は変わりなく、いびつながらも流れゆくのだった。



fin


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