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4.心配しないで下さい、貴女に黙って消えたりはしません。

2011.12.07 Wed [Edit]
人間というものは、慣れる生き物である。言葉が通じなくとも文化や習慣が異なっていようとも、意外となんとかなるものなのだ。現に、日がたつにつれて世話をする娘たちも世話することに慣れたようであり、言葉が通じなくともある程度は融通が利くようになってきた。人間というものは図太いものである。どんな状況であろうともなじむものなのだ。いやおそらく、神経が図太いからという理由ではないと思いたいところである。

この世界に飛ばされて、ひと月がたった。その間、言葉が通じないなりに娘らに世話をされ、騎士らしきものどもに警護され、王らしきものやその側近らしきものどもと食事をし、神職らしきものに何やら話しかけられるが一切何もわからないのでスルーし、夜は何やら怪しげな様子ではあるけれどもそれらを退け、異世界にいるにも関わらず平和に、さらに言えば聖女といわれながらも何をしていいやらわからぬまま、説明がないのであれば知ったことではないと、太平楽に生活を送っていた。これでいいのか、と言われると多少困るが、しかしながらこちらが好きでここに来たわけでなし、説明させようにもあの怪しげな自称神はあれから姿を現すこともなく、首位の人間とは多少身振りで意思疎通はできるようになったが言語に関しては全く聞き取れないがゆえに覚えることもできず、手っ取り早く体液を交換しようと図ってくる輩どもは、自称神がよこしたのか何やら怪しげな力で撃退しつつ、過ごしてきた。

平和なのはよいことのはずなのだが、そろそろなんというか、尻のすわりが悪い。働かざる者食うべからずで生きてきたせいもあるであろうが、正直に言ってしまうならば飽きてきた、というのが本音であろう。
そう感じるまでにひと月ほどかかっているあたりどうなのかと思わないこともないではないが、平和であると感じているのは恐らく自分だけ、周囲はどうもそうではないらしい。人とかかわらないで生きてきた、とはいえ、人の感情の機微を感じ取れぬわけではない。それらを無視して生きてきた部分もあるが、感じ取れねば身は守れぬ。この世界へきてひと月、どうやら、この国の上層部らしき男たちの間に、焦りと苛立ちがたまり始めているように見て取れた。

やれやれ、面倒事は嫌いなのだがね。




嫌いだといったところで面倒事の方が避けてくれるわけなぞあるわけもなく、理由が解れば避けようもあろうが、言葉が通じなければ細かなところまではわかることもできず、まぁ、おおよそは体液の交換ができていないあたりに要因がありそうなのだが、それがこの身をどうにかしたいという理由だけには思えず、言葉を通じさせたいだけにしては苛立ち具合が強いようであり、とどのつまり全くどうしようもない状態で、なるようになれと過ごしていた。

そして、その時はきた。来るであろうな、とは思っていたが、どのような形であるかはさすがにわからず、想像はしたもののそれだけはなかろうと思っていた手段で、きた。

目覚めて朝食のために呼ばれた席で、騎士に囲まれた。ついでに、なぜか傍付きの娘たちも、騎士に囲まれ剣を向けられている。目の前には王、その側近、神職らしき男たちが、どこか得意げに、満足げな顔をしてこちらをみている。どうやら、この娘たちは人質らしい。私一人であれば取り押さえられぬが、娘たちを抑えればよかろうとでもおもったか。深くため息が漏れる。やれやれ、こういう方向もあろうと思ってはいたが、まさか本当にこの手段をとってくるとは、なんともはや、だ。
そんなこちらの様子に、主導権をとれたと思ったか、男たちがジワリと輪を狭める。さて、どうしたものか。娘たちなどしらぬと放置するもたやすいのだが、いい加減わけのわからぬ状況にあるのも飽きてきている。何をなすべきなのかどうしたいのか、そのあたりが解らぬままではどうしようもない。
思案することしばし、やがて男どもの中から王らしき男が、目の前にたつ。なんだその脂下がった顔は。眉間に深く皺が寄る。全く、おそらく美形と言われる顔なのであろうが、あいにく西洋人風の顔の区別は全くつかぬ。きらきらしい髪色にきらきらしい目の色であるな、という程度なのだ。目の前で男は脂下がった顔のまま、鼻息荒く何事かを宣言している。だからわからんというに。
周囲が見つめる中、王らしき人は手を伸ばし、こちらを抱き込んでくる。ぞわぞわと嫌悪が背筋を走る。振り払おうと力を込めるが、なぜか振り払えぬ。今までは振り払えていたはずではないか、と、焦るが、その焦りすらどこか楽しむ風情の男は、満足げにこちらの頬を撫でると、何事かをもじょもじょとつぶやいて、顔を寄せてくるではないか
なんということだ。このままでは危険すぎる、と、とっさに足を振り上げる。

「………!」

衝撃に悶絶し、力が緩んだすきに体を離す。どうやら見事に当たったようだ。狙うは急所、これは基本である。何とかのがれて、周囲が騒然とするうちに距離を取る。しかし、こんな時こそ、あの自称神は姿を現すべきであろうに、ひとつき、姿を現さぬままでもあることから、何事かあったのだろうか、それとも、神はやはり自称にすぎず幽霊であったのではないだろうか。幽霊であるからには、消えてしまった可能性もある。なんともはや、この状態で放置して消えるとは、とんでもないやつだ。

「心配しないで下さい、貴女に黙って消えたりはしません。」

気が付けば、後ろから包むように抱き込まれていた。振り払おうとして、今の状況に思い当りとりあえず耐える。しかし、心配していた覚えはない。幽霊ならば消えたのではなかろうかと考えただけである。むしろキエロ、と、思えば、こちらの顔を覗き込みながら自称神が微笑む。

「相変わらずの天邪鬼ですね。ツンデレ、っていうんでしたっけ? 奥が深いですね」

天邪鬼になった覚えもなければ、そんな奇天烈な生き物になった覚えもない。それでも、それでも、助けられたことに一応の感謝を覚えなくもないので、そのままで耐える。

「あなたに求められるまで、と思ったら、本当に思い出してくださらないんですから。いけずな人ですね」

言われてみれば、このひと月、この時までまともに思い出しもしなかったことに思い当る。思い出す必要もそこまでなかったとおもわれる。

「まぁいいでしょう、こうして思い出してくださったのですから。――さて、お仕置きの時間ですね」

そういうと自称神の気配が、一気に変わる。殺気、に近いだろうか、けれどもっと澄んでいる。いうなれば、荘厳なる神社の気配がもっと研ぎ澄まされ突き刺さるほどになったような感覚と言えば近いかもしれない。今までとは違う意味でぞくりと背筋を震わせれば、目の前の騎士たちがばたばたと倒れていく。地面に押しつぶされるように這いつくばる男たちの中、最後までたっているのは王・側近・神職らしき男の3人だった。その3人も青ざめながら、体をがたがたと震わせ、必死の形相である。

「ご存知ですか。この者たちは、あなたの乙女の証を手に入れればこの国が救われると思い込んでいたのですよ」

自称神がすっと手を伸ばせた、耐えきれなかったように男たちが崩れ落ちる。それでも膝立ちで耐える男たちに、自称神は低く笑って、面白そうに眼を眇めた。

「あなたを愛するあまりと、伝承の間違い、それが相まってのことでしょうが……愚かですね」

ひとつ突っ込んでもいいだろうか。それは、そもそも、事情神、いや、お前さんが、訂正を入れるかもしくはその、何やらあふれたらしき愛なるものを溢れさせなければよかったのではないのだろうか? そもそも、それがなければ問題なかったのではないのだろうか。溢れるのが仕方がなかったのならば、こうして顕現できるのであれば伝承が間違っている旨を伝えればよかったのではなかろうか。なぜ、それをしなかったというのか。

自称神は、男どもに向けていた目をこちらに向けると、それまで鋭かった目をとろりととろけさせ、ゆるりと笑みを浮かべた。

「いやですね、そんなこと。理由ですか? その方が面白いからです」

……結局諸悪の根源はお前ではないか。

半眼で睨めば、自称神は頬を染め身悶える。なんだそれは、もう決められた行動なのか、と、諦めたように深いため息を漏らせば、自称神の手がするするとこちらの体を撫でさする。その動きの気持ち悪さにさすがに振り払い身を引けば、うっとりとその撫でていた手を見つめる姿があって、ぞぞぞ、と体が震えた。

「すみません、人類の造形美に思いをはせていたところです」

きもち悪い以外に何を言えばいいのかもう分らぬ。

相変わらずのこちらの蔑視の視線に堪えることもなく、自称神は輝かしい笑みをこちらに向け、そして、宣言した。

「さあ、そろそろはっきりさせましょうか。――お遊びが過ぎました」

部屋の中には、床に這いつくばる騎士たち、倒れ伏し気を失った娘たち、膝立ちで必死に苦痛に耐える王たちの姿と、その中で優雅に立っている自称神の姿、微かに聞こえるうめき声以外は何もないその部屋に、その声は低く、響き渡ったのだった。


-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--

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