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3.僕のために恥ずかしがる貴女が、とても愛しく思えるんです。

2011.12.06 Tue [Edit]
丁寧に案内された部屋は、思わずたじろいでしまいかねないほどの豪華さで、今まで六畳2間のアパートにおいて人生の大半を過ごしてきた身としては一瞬足が止まった。いやいや、貧乏性というなかれ、女一人、一生働いたところで老後もらえる年金なんぞすずめの涙。貯金は当然しっかりしてはいたが、それでも無駄遣いなどできるものではなかった。老後に豪遊生活何ぞ夢また夢、悠々自適ではあったが質素な生活を送っていたのだ。

しかしながら、こちらが躊躇する様を見せたところで何が変わるでもない。言葉が通じない故に、不思議そうにこちらを伺うばかりで事態が何か進むでもない。それならば時間を無駄にするよりもさっさと行動するに限ると部屋に足を踏み入れた。

促されるままにソファへ腰を下ろし、紹介するかのように綺麗な揃いの身なりの娘たちを紹介される。促されるままにこちらに向かいもごもごと何事かを言っては頭を下げ、を交互に繰り返していくのが3人、どうやらこの者たちが世話係らしい。世話係など、多少体の自由が利かなくなった人生の最後の頃に世話になったヘルパーさんたちしか記憶にない。一生を通して大病することなくほどほどで生きてこられたが故の僥倖ともいえるであろうが、そのヘルパーさんらが入るまでにも苦労をした。まず、最初に来たケアマネージャーなるものがえらく若く、若いだけならばよいのだが人をぼけ老人扱いしおる。最初からその対応だったが故に、きっちりとその総括のところに連絡を入れれば変えてもらえたが、その後のヘルパーも数名、こちらの性格がねじ曲がってるからか、努められないと変わっていった。はてさてこの娘たちはどれほどの根性があるものか、と、目を向ければ、ぽっと恥じらうように頬を染める娘たち。

……なにごとぞ。




もしや、男だけではないのか、と、すでに諦念を含んだ想いでため息を漏らせば、ここまで案内してきた男がどこか名残惜しそうに退室し、娘たちが動き始めた。一人はお茶の用意をはじめ、一人は隣の部屋へと向かう。残りの一人が隣に控えていれば、やがて何ともよい香りが漂い始めた。お茶はどうやら紅茶の類らしい。嫌いではないが、贅沢をいうならば緑茶が欲しかった。さすがにこの世界にあるのかどうかは知らんが、そのうちあの幽霊、ではなかった、自称神とかいう存在が本当に神ならば、用意させるのもやぶさかではなかろう。用意されたお茶を横目で見つつ、娘たちを観察していれば、恥じらいつつも要領よく動くさまが目に留まる。なるほど、有能な娘たちらしいと、茶をいただいていれば、隣に向かったらしい娘が、ドレスと鏡、くしなどを手に戻ってきた。というかよくそれだけ持てるものだ、と、感心していれば、何やらいじりたいらしい。よかろう、と、寛容な気分になって、頷けば、髪をくしけずられ結われ、化粧をしようともされたがそれは断固として断った。

さて、と、鏡を渡されて、うむうむと覗き見て、驚いた。

誰だこれは。

いや、確かに若いころの顔形によく似てはいるが、色が違う。黒髪茶色の眼、普通の日本人の色彩であったはずの容姿が、金色に薄紅がかった髪色に深い空色の瞳に変わっているではないか。若いころはこれでも美人であったのだよ。だからこそ、寄ってくる男どもにうんざりして徹底的に男性拒否するようになってしまったのだがな。茫然と眺めていれば、心配したかのように声がかかる。いやいかん、これくらいのことで動揺するとは修業が足りぬ、と、さすがにあとから考えれば動揺せぬ方がおかしいとわかるようなことを無理やり考えて、頷く。

勧められるままに、健康であるのに介助を受けながら湯を使い、着替え、髪を結えば、感嘆の声が上がった。いや、なんというか。飾る必要などないだろうに、と、深く眉間にしわを寄せれば、困ったようにおろおろ彷徨う娘たち。何ともやりづらい。とりあえず大仰に髪に飾られた花をはずし、いくらか地味に変える。ドレスは、まだまだ納得はいかないが一番地味なものを選んだのだから致し方あるまい。

こうして、着替えを終えたのち、食事らしい様子で別の部屋に案内される。……なんとめんどくさい事よ。しかし多少は融通するのもよかろう。我を通すのは状況が見えてから、今はまだ少しばかりおとなしくしておいて損はなかろう。案内されるままに向かったのは食堂らしき部屋、すでに席には先だっての王らしき男とその側近らしきおとこ、神職のような男が座っており、周囲には人が控えている。こんな人の多い中で飯を食えというのか、と、不快を顔にあらわにしつつも、進められてしぶしぶと席に着く。

「××……×××……?」

わからんというとるに。

とにかく食事だ、と、手を合わせ小さくいただきますとそれだけはきちんと告げると、3又のフォークのようなものを使い、切り分けられた料理をいただいていく。正直脂っこい、というか、味が無駄に濃い。年よりの常で塩気の多いものを好んではきたが、これはあんまりだ。眉を寄せていくらか食べられそうなものをつまんで食事を終えれば、じっと向けられる多くの眼があった。

何ぞ文句でもあるのか、と睨み付ければ、伝わったのか首を振る。

食事の途中で席を立つのはあまり行儀のよろしい行為ではなかろうが、これ以上は不要であったゆえに、そこで再び手を合わせ席を立つ。なにやらほにゃほにゃと言っていたが、引き止めているような気配ではあったが、知ったことか。微妙に注がれる視線に熱がこもってるのに気づかないとでも思うたか。そんな視線の中に長くいる筋合も趣味もない。さっさと部屋へと引き上げるに限るのだ。

部屋に戻ったら、再び湯あみし薄物の夜着に着替え、娘たちはてきぱきと働いて寝室へ案内すると一礼して扉を閉め去って行った。

はてさて。

思わず扉を睨む。いやな予感しかせぬのはなぜだろうね。周囲を見渡せば、動かせそうな家具がいくつかあったため、サイドボードのようなものと、椅子、その他もろもろを扉の前へ移動し、封鎖する。これでよかろう、と、安心してベッドに向かう。やれやれ、天蓋つきの寝台など、若い娘の夢物語だけの話だとおもっていたのだが。妙にふかふかとして柔らかすぎる寝台へと身を横たえつつ、腰を痛めねばいいがと、そんなことを考えながら眠りについた。


目が覚めると、朝方だった。

「おはようございます」

何故に居る。

目の前でにこやかに微笑む自称神を半眼で睨みつつ、礼儀として薄物しかつけてない身をシーツにくるむ。
とたんに脂下がる自称神。この変態が。

「いえ、僕のために恥ずかしがる貴女が、とても愛しく思えるんです。」

恥ずかしがった覚えなぞ微塵もないのだが、どうやら相変わらず脳内お花畑満載のようだ。

「しかしながら、夜を無事に超えられたようで、さすが聖女と見込んだ方だ。夜中にあちら様もだいぶ頑張ったようですが、突破はならなかったようで」

言われてみれば、扉の前に積んでた家具がいくつか動いている。どうやら力づくで突破しようとした様子であるが、それだけのことをしたのならば、大きなお供しただろうに、そんな記憶はとんとない。

「それはもちろん、ぐっすり休めるように、調整させていただきましたから」

語尾にハートマークが付きそうな勢いで言われる。もうかえれ、貴様。

「酷いな、こんなに愛しているのに」

ぞぞぞと、背筋に悪寒が走る。外の男どもよりこいつの方が危険なのじゃないのか、と、身を引けば、輝かんばかりの笑顔で、自称神が微笑む。

「いやだな、この感情は、もともとはあなたのものですよ。あなたが長い人生の間で捨ててきた愛する気持ちと恋する感情のすべてを、私が受け取ったのです。貴方が捨てた物の再利用、つまりエコなんですよ。……まぁ、少々受け取りきれずにあふれて、この世界の人々に影響を与えまくってしまってるようですけれど」

最後の方はかなり不穏だった気がするのだが、と、眉間にしわを寄せれば、そっと近寄るように、まるでどこぞのジゴロか女衒のような甘ったるい仕草で自称神が指を触れる。即振り払う。きもち悪いというに。

しかしながら、なんということだ。今までの人生ほぼ80年、そのうち70年少しの間、まともに間の恋だのと縁がない生活をしてきたのだが、その弊害がこんな形で来るとは。ありえん、と思う気持ちと、自業自得かと思う気持ちのはざまで揺れ動く中、現実逃避するかのように、そういえばなぜこの自称神とやらは、神の癖にやたら人間臭い、しかも変態くさい行動をとるのであろうか、という疑問がぽん、と浮かぶ。もしや、人間観察でもして練習しおったか、それともそういう変態神なのだろうか。

「いえ、いつの間にか習得していたんですよ。」

今更のように言うのもなんだが、人の思考を読んで返事をするのは、楽と言えば楽だが変態以外の何物でもないと思うのだが。それに習得とは、もっとましなものを習得できなかったのだろうか。
頭痛を覚えて額を抑えれば、なだめるように髪をささっと触れて、男の手が離れていく。振り払われると学習したからか、かなり素早い。やるではないか。睨みあげれば、うっとりと見つめ返された。

「つまり、そういう理由で、聖女たる貴方へ皆様愛を注ぐわけです。どうぞ、今まで足りなかった分を受け取りつつ、清らかなまま頑張ってください」

さりげなくハードルを上げられた気がするのは、気のせいであろうか。

というか、この世界で聖女として何をすればいいというのか。いまだ説明がないままなのだが、と、思って見つめれば、にっこりとほほ笑んだ自称神が、扉に手のひらを向ける。とたん、積み重なっていた家具が撤去され、扉が開く。

「そろそろ侍女たちが来る時間でしょう。またしばらくしたら伺いますね」

「またんか、この変態」

「引き止めてくださるのはうれしいですが、それはまた次の機会に」

そういうと自称神こと変態は、再び淡く光の中に消えていった。

さてはて、どうしたものやら。
なにやらとんでもない状況下におかれているらしいわが身を思いつつ、遠くからもにょもにょとこちらを呼んでいるらしき声を聴きながら、頭を抱えるのだった。


-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--

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