fc2ブログ

RSS|archives|admin
HOME  ◇ IT ◇ LIFE ◇ 雑記 ◇ 創作関連 ◇ 掌編小説 ◇ 小説目次 ◇ Twitterログ

1.そんなに見つめられたら、貴女を好きになってしまいます。

2011.12.04 Sun [Edit]
いい人生だった、などと言うつもりは毛頭ない。
気が付けば80年、独り身で生きてきた。
さみしくないのなどと、親切ごかして言ってくる輩も、最後の方は何もいわなんだ。
いや、言ってくる連中ににじむのは、優越感と、そして自らもすでに忘れ去られた老人であるというさみしさだろうか。

まぁ、人のことなんぞ、知ったことじゃない。

末は独居老人の孤独死か、見つけてくれる人間に当てがない以上腐敗がひどくならねばいいが、などと思っていたのだが、ありがたいことにどうやら病院で死ねるらしい。
大丈夫ですよ、頑張ってくださいなどと言ってくる看護師に、死ぬ人間に何を言うか、誰が今更頑張らねばならんと返せば、どうやら扱いにくい患者と認識されたらしく、必要最低限になったのはある意味幸いだった。

次第に意識が遠くなる。すでに痛み止めの薬をぎりぎりまで使っている現状、もともと朦朧とした意識であったが、最後に多少思考できたのはありがたい。


いい人生だった、などと言うつもりはない。

女一人、生きてきた人生の終わりなど、こんなものであろう。


そう。

終わりのはずで、あったのだが。




気が付けば、白い空間に存在していた。
死んだはずだ、と、しばし思考にとらわれるが、やがて呼ぶ声が聞こえた。
生前の名前、そう、それに間違いない呼び声に、顔を上げる。

白い空間に白い幽霊がいた。怪しすぎる。何かの呪いか、マジックか。大がかりな設定で騙す気だろうと、訝しぐ睨んでいれば、目の前の幽霊がもじもじと揺らいだ。妙に気持ち悪い動きだったために、思わず後ずさる。いかん、たいていのことには動揺せぬようになったとおもっていたが、悶える幽霊はさすがに気持ち悪い。

ぐらり、と、体が揺らげば、幽霊がにょろりとのびてきて、抱き留めてくれた。抱き留めてくれたのはいいのだが、その動きが何やら怪しい。気持ち悪くなって、強く振り払えば、すすすっと再び元の位置に戻っていく。
なんだ、この幽霊は変態か、思わず思考すれば、ふるふると幽霊が揺れる。

「違いますよ、転んだら危ないと思って支えていたんです」

支えるのにうごめく必要があるのか、と、その言い分を無視していたならば、ごまかす様にふるんふるんと二度震えた。


「お願いがあるのです」

幽霊が告げる。

「断る」

「そこを何とか」

「断……る」

くらり、と思考がぶれる。なんだこれは。意識の中に何かが存在しているような、かき回されているような――よわされているような、そんな感覚が襲ってくる。ぐるぐる回る脳内を喝をいれて落ち着かせる。なんだこれは、まるで洗脳のようだ、と、そこまで考えた時だった。

「洗脳なんてとんでもない……ただの催眠です。」

よし、どうやら目の前にいる幽霊は、果てしない変態らしい。思考を読むなどと、変態の所業に違いない。激しく蔑んだ視線を向けていれば、それすらも無視して、とうとうと幽霊は語り始めた。

「あなたには、ある世界へ転生していただきます。なにせ、80年間清らかな乙女であった魂など、いまどきなかなかありません。さいきんの若い娘たちはどうにも、そのあたりが緩やかでして。いえ、愛の形はどうであろうとかまわないのですけれどね、聖女や巫女として召喚するのに、なかなかそのあたりが難しくて。だから、どうしても若い娘さんを召喚することになるんですが、そうなると、今度は転生や召喚された後に、周囲のだれかとくっついてしまうんですよねぇ。それじゃ聖女や巫女として送り出す意味がない。ゆえに! このたび、あなたのような清らかな女性の魂を選び出し、厳選して転生させることに決まったのです。というわけで、向こうの世界をどうかよろしくお願いしますね。とりあえず、そこそこの年齢の成長した体に転生していただきますのでー。あ、そうですね、16くらいでいかがでしょう。では、どうぞ、いい異世界ライフ並びに、いいお仕事をお願いいたしますー」

こちらの視線をもろともせずに、一息だった。ひとの拒否すらも聞かず押し付ける変態か。死ねばいいのに、と、蔑みを一層強くすれば、再びもじもじと幽霊が悶え始める。

「そんなに見つめられたら、貴女を好きになってしまいます。」

あほらしい。

半眼になってしまったのに気づいたか、幽霊は気を取り直したように? まっすぐになると、次第に光り始めた。

「それでは、異世界にいってらっしゃいませー。あとはよろしくお願いしますねー」

次第に強くなる光に視界を奪われながら、思わず目を閉じるとふわりと体の浮く感覚がし始める。

だんだんとそれに伴い、薄れていく意識の端で、幽霊が挨拶するように揺れるのが見えた。

「あ、そうそう、多少人より好かれやすい体質になりますのでお気をつけてー」

いらんがな。

というか、いつの間に行くことになっとるんだ。

そんな思いなど、どこ吹く風。

こうして、私は、死と共に今まで生きた世界へ別れを告げ、わけのわからぬ幽霊のいうがままに、知らぬ世界へと旅立つのだった。


「……いやぁ、男性の30代超えて魔法使いとかその上の大賢者っていうのは割といるんですけどねぇ。この場合、なんと呼べばいいのやら」

白い空間にぽつんと残された幽霊の、思案するような声だけがあたりに響いていた。



-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--

サイト名:確かに恋だった
管理人:ノラ
URL:http://have-a.chew.jp/
携帯:http://85.xmbs.jp/utis/

3種のお題を混ぜてみました。

web拍手 by FC2 ブログランキング・にほんブログ村へ このエントリーをはてなブックマークに追加 





スポンサードリンク

Theme:オリジナル小説 | Genre:小説・文学 |
Category:掌編小説 | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |
<<12/05 更新内容 | HOME | 12/04 更新内容>>
name
title
mail
url

[     ]
Trackback URL
http://angelgardens.blog47.fc2.com/tb.php/508-ebc52ed2


Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...