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4.きみの心に触れさせて

2011.12.02 Fri [Edit]
どうすればいいのか、なんて、答えがわかっていれば間違うことはなかった。
わからないからこそ、間違ってしまう。それが、人間というものなのだろう。

物語の中で、自分が綴ってきた人物たちのことを思う。

何もかもをわかって綴っていた、自分は、もしかしたらいつのまにか、現実ですら心の中を見透かせるような気がしていたのだろうか。
そんな愚かな自分を笑ったところで、何が変わるわけでもないのだ。

会いたい。会いたい。けれど、会って何を言えばいいのだろう。
どういえばいい。どう説明すればいい。そもそも、何を伝えるというのだ。

好きだと。好きなのだと、今の自分に伝えられるだろうか。それが許されるだろうか。

――ぐるぐると堂々巡りの中、仕事は容赦なく襲ってくる。

締切がこんな時に重なるなんて、と、多少の苛立ちに紛れて、ひたすらに文章を書くことに没頭した。

不意に襲ってくる、切なさとあの笑顔の面影を、振り払うように。


会わなければ薄れる思いなら、それだけのことなのだと、痛感させられる。
集中が途切れた瞬間、彼女の泣き顔と言葉が、浮かんでは消えていく。

少し前ならば、会いたいと思う間もなく、彼女はそばにいた。
少し放っておいてくれないか、と、言ってしまいそうなくらいに、傍にいた。




今は、いない。
会うことも、ない。

――恋愛ごっこならよそでやりなさい。

自分の言った言葉が、自分に跳ね返ってくる。
決めつけてそう告げた言葉は、確かに苦肉の策から出たものであったけれど、それは言ってはならない言葉だった。彼女の想いを、気持ちを、勝手に決めつけてはねのけてしまった、言葉だった。

ふいに、不安がよぎる。

――新しい恋でもしたらって。がんばってみようかなーっておもうんだ!

もう、遅いのか。今頃、こうして必死で仕事をしている間にも、彼女はすでに新しい恋を見つけてしまっているのかもしれない。もう、自分のことなど、忘れてしまっているのかもしれない。

それでいい、と、思っていたはずだった。
自分に一直線に向かい続ける思いだけではなく、いろんな感情を知り、いろんな出会いをしていってほしい、と、そう願っていたはずだった。つい先日までは、それでいいと、耐えられる、と、思っていた。

しかし、今のこのざまは何だろう。
想像するだけで、身を焼かれるようで、自分の中にこれほどの激情が眠っていたのか、と、不思議にすら思える。
独占欲。嫉妬。どろどろと醜くも人らしい感情に、苦く笑いが漏れた。


どんなにあせろうが気になろうが、仕事は待ってはくれない。
締切が片付くまでのひと月。丸々とひと月とちょっと。仕事場から外に出ることもかなわず、ほぼ缶詰状態となってしまった。よほど切羽詰まっていたのか、鬼気迫る形相と、その思いの丈を昇華しぶつけられて生まれた作品が、予想外に編集に好評価だったのは、思いがけない幸運だった。

やっと解放された、日曜の昼間。
一度、隣家に訪ねていったものの、彼女は出かけていた。ニヤニヤと隣のおばさんが告げた言葉に、嫌な予感がするものの、そのまま実家に帰る気にもならず、ふらり、と、街へと足を向けた。
だからといって、何か用事があるわけでもない。ふらりふらりと人間を眺めながら、本屋でも向かうか、と、思っていた時だった。

「……おや」

叫びださなかったのは、年のたまものだと思いたい。

視線の先、同年代の少年と二人、並んで歩く彼女がいた。どこか初々しい雰囲気の二人は、そう、はたから見ればどこまでもお似合いで――じりり、と胸の奥が焼け付く。
こちらに気づいて、驚いたように目を見張る彼女に、ゆっくりと歩み寄る。わざと不思議そうな表情をして、自然になるようにと心がけながら近づいて、やっと隣にいる少年に気づいたそぶりを見せる。
どこかと惑うように頭を下げる少年に、こちらも礼を返しながらこっそりと観察をする。若い。当たり前だけれど、若く、そして、頭も悪くない。こちらをどこか訝しく見つめる視線は、すでにこちらをライバルだと見極めているようだった。

「……デート、ですか」

しばし落ちた沈黙を破るように口を開けば、はじかれるように彼女が顔をあげる。見つめる先で、視線が不安そうに揺らぎ、困惑したように視線を話迷わせはじめる。
いじめるつもりではないのだから、と、さらに口を開こうとすれば、ぐい、と、彼女の体がひっぱられた。
見れば、少年がこちらを強く強く睨み付けながら、彼女を引き寄せていた。――瞬間的に引きはがしそうになるのを、必死にこらえる。

「デートです。失礼します」

ぺこり、と、再び少年は頭を下げると彼女を引っ張るようにしながら、その場を離れていく。

「あ、え、ちょ。う、おにいちゃ、またね」

振り返りながら告げる彼女の言葉を聞きながら、引き止めることもできたけれど、素直に見送る。

焼け付くような思いが、胸を焦がすけれど、それでも、もし、彼女があの少年を選ぶというのならば――幸せになれるのであれば、祝うしかないじゃないか。

引き寄せたくて伸ばしかけた掌を、強く、強く握りしめた。


――それでも、未練がましいのは、情けないが性分だろう。

ゆっくりと時間をつぶす様なペースで実家へと帰り、玄関前で立ち止まり、隣家を眺める。
あのままデートを続けたならば、まだ当分帰ってこないだろう。
初々しい雰囲気から、どうこうという関係にまでにはなってないかもしれないが――と、想像しかけてあまりの胸糞悪さに強く頭を振ってそれを追い払う。
口の中だけで、らしくなく低く悪態を漏らして、ため息をつく。

あきらめが肝心じゃないか、と、自分に言い聞かせるように呟いて、門扉に手をかける。

と。

気になって、振り返れば、遠くに人影がみえる。どこか消沈した風情で、とぼとぼと見るからにおぼつかない足取りで、ゆっくりとこちらへ向かってきている。

見間違えるはずなんか、なかった。

あわてて傍に駆け寄る。うつむいて歩いている彼女は、こちらに気づかず、目の前まできてやっと、顔をあげた。

その表情が、まるで今にも泣きだしそうで、まさかという思いから怒りがわき起こる。

「おにい、ちゃ」

「何をされたんですか?」

「え……?」

「何かされたんじゃないんですか? ――そんな、今にも泣きそうな顔して」

自然と手が伸びる。ほほをたどり、涙が零れ落ちそうな目じりをぬぐう。その指の動きにのままに閉ざされる瞳に、誘われるような気がして、そのまま唇を奪いたい衝動を、必死でこらえる。

やがて、我に返ったように、彼女が身を離す。

「べ、別に。だ、大丈夫だよ。何もないもの」

一歩。彼女の離れた距離、これが、今の彼女が感じている距離なのか。

「ちょっと、喧嘩しただけだよ。付き合ってるんだから、そんなこともあるよね」

歪んだ笑顔を浮かべ、必死で言い募る彼女は、気づいているのだろうか。


「だ、だから、大丈夫よ。もう、お兄ちゃんは心配性だなぁ。私ももう高校生だよー」

彼女の、癖。嘘をつくときは、少しだけ、瞬きが増えることを。

必死に虚勢を張りながら、どこか歪んだ笑顔を浮かべ、小さく笑いを漏らす彼女をみていると――耐えられなかった。

抱きしめていた。小さな彼女を、泣き出しそうになりながらも微笑む彼女を、そのままにしておけなかった。
彼女の香りが、伝わる。温もりが伝わる。小さな体、しかし、すでに成長した、女性であるその体を、労わるように抱きしめる。硬直していた彼女は、やがてあわてたようにそこからぬけだそうと、するから。

より一層、強く抱きしめた。



無理しなくていいから、そんな風に頑張らなくていいんだ。謝ってすむならば、いくらでもあやまるから、どうかごまかさないでくれ。どうか、隠さないでくれ。

――ありのままの、君の心を、見せてほしい。


「……背伸びをするのはやめなさい。そんな顔して。ごまかせると思うんじゃありませんよ」


ただ、それだけを願いながら、抱きしめたまま、彼女の耳にそっと囁いた。



-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--

サイト名:確かに恋だった
管理人:ノラ
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「無防備なきみに恋をする5題 」より

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