1.誰にでもスキだらけ
2011.11.29 Tue [Edit]
真っ直ぐに向けられる感情が、嬉しくなかったわけじゃない。
愛しくて、恋しくて。誰よりも大切だからこそ。
簡単に言葉になんて、できるわけがなかった。
「おにいちゃん、だいすき!」
はじけるような笑顔で、告げられるたび、誇らしくてうれしくて照れくさくて。
ただただ無邪気でいられたのは、幼いころだけ。
思春期になれば、感情は複雑に揺らいで。愛しいけれど、大切だけれど――真っ直ぐな感情が、どこか煩わしくて。
どこかつっけんどんな対応になっていたその時代ですら、彼女はまっすぐに、ただひたすらに、こちらを見ていてくれた。
それが恋なのか、ただの家族愛なのか、なんて。
きっと答えは、まだわからない。
中学、高校、大学、と。
別に彼女がいなかったわけではなかった。それなりの付き合いもしたし、それなりの相手もいた。
ずっと、彼女を見ていたわけじゃない。ずっと、彼女を思っていたわけじゃない。
けれど。
気がつけば、まっすぐに向けられるその視線を、探していた。
――腹をくくるまでに、時間がかかったのは、自分だけの秘密。
大学時代に、運よく賞を受賞できて、卒業するころにはありがたいことに作家一本で食べていけるようになっていて。実家とは別に部屋を借り、そこで作業することが増えて。
時折帰宅した実家以外で、彼女に会うことが少なくなったとき、ちょうど彼女が受験だと知った。
高校受験。年の差を如実に実感して、苦く笑ったそんな思い出。
――そして。
「おばさんに、許可貰ったんだ!」
幼いころと変わらない、まっすぐな思慕を浮かべ、はじける笑顔の少女が、目の前に、いる。
仕事場のマンション。ある意味一人暮らしの男の部屋へ。
幼いころと変わらぬ笑顔でありながら、その姿はすでに羽化を遂げたかのようで。そう。たとえるならば、花開く寸前のつぼみ。みずみずしさと若々しさをたたえながらも、どこかしっとりと艶を帯びる。
――いつのまにか、成長していた彼女の姿に、戸惑う。
仕事に集中しなければ、と、画面には向かうものの、わかっているのか甘えてくる彼女に、心か、体が揺らぐ。
学校帰りなのか、ブレザーの制服姿のまま、短いスカートを揺らして無邪気に構ってくれと甘える彼女。
――それに不埒な思いを抱かない男がいることに、気づかない、なんて。
苛立ちが、起こる。
そんな風に、他の男にも甘えるのだろうか。そんな短いスカートで、学校へ通っているというのか。
その笑顔を、周りの誰にでも見せているのだろうか。――そんなにすきだらけ、なのだろうか。
――このまま、押し倒すことだって、できるというのに。
浮かぶのは不埒な思いばかり。軽く頭を振っていれば、彼女が、その言葉を口にした。
「……好き」
まっすぐに彼女を見つめる。
これ以上は、耐えられない。これ以上は、無理に決まっている。
「恋愛ごっこなら余所でやりなさい」
深いため息と共に、そう告げれば、凍りついたように顔をこわばらせる彼女。
ああ。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
けれど、このままだと、彼女を傷つけてしまいかねない。
「……だって」
「でももだってもありません。私は、締切前なんです。忙しいんです。遊びに付き合ってる暇はありません」
さっさと帰りなさい、と、そう短く告げて。意識を彼女から引きはがす様に画面に向かう。
「あ……の……」
かけられる声にこたえたくなるけれど、答えられない。ぎりぎりと引き絞った理性の糸は、はじけ飛ばんばかりに張りつめているのだから。
しばらく、じっと見つめる視線を感じていたけれど、やがて諦めたように部屋を出ていく彼女。
ぱたん、と、玄関のしまる音が聞こえて、体からやっと力が抜ける。
――あんなこと、言いたくはなかった。
抱きしめて、囁いて、口づけて。とろけるほどに、愛したかった。
――けれど、彼女は、まだ幼いのだ。
15歳。もうすぐ16だろうか。
歳の差はいくつになるだろう。――ロリコン、と、呼ばれないぎりぎりラインだろうか。
花開く寸前の彼女の色香に、惑わされている自分に、呆れてしまう。
もし、その思いのままにぶつかれば、彼女はきっと今以上に傷つくに違いない。
ならば。
――待つしか、ないのだ。
あと、少し。せめて高校を卒業するまで。
彼女が、本当の意味で花開く日まで。
「これは、かなりきついですね……」
漏れるのは、ただ深いため息ばかりだった。
真っ直ぐに向けられる感情が、嬉しくなかったわけじゃない。
愛しくて、恋しくて。誰よりも大切だからこそ。
――身動き取れない、時もあるのだ。
-------8×-------- 8× -------- キリトリセン --------8×-------- 8×--
サイト名:確かに恋だった
管理人:ノラ
URL:http://have-a.chew.jp/
携帯:http://85.xmbs.jp/utis/
「無防備なきみに恋をする5題 」より
愛しくて、恋しくて。誰よりも大切だからこそ。
簡単に言葉になんて、できるわけがなかった。
「おにいちゃん、だいすき!」
はじけるような笑顔で、告げられるたび、誇らしくてうれしくて照れくさくて。
ただただ無邪気でいられたのは、幼いころだけ。
思春期になれば、感情は複雑に揺らいで。愛しいけれど、大切だけれど――真っ直ぐな感情が、どこか煩わしくて。
どこかつっけんどんな対応になっていたその時代ですら、彼女はまっすぐに、ただひたすらに、こちらを見ていてくれた。
それが恋なのか、ただの家族愛なのか、なんて。
きっと答えは、まだわからない。
中学、高校、大学、と。
別に彼女がいなかったわけではなかった。それなりの付き合いもしたし、それなりの相手もいた。
ずっと、彼女を見ていたわけじゃない。ずっと、彼女を思っていたわけじゃない。
けれど。
気がつけば、まっすぐに向けられるその視線を、探していた。
――腹をくくるまでに、時間がかかったのは、自分だけの秘密。
大学時代に、運よく賞を受賞できて、卒業するころにはありがたいことに作家一本で食べていけるようになっていて。実家とは別に部屋を借り、そこで作業することが増えて。
時折帰宅した実家以外で、彼女に会うことが少なくなったとき、ちょうど彼女が受験だと知った。
高校受験。年の差を如実に実感して、苦く笑ったそんな思い出。
――そして。
「おばさんに、許可貰ったんだ!」
幼いころと変わらない、まっすぐな思慕を浮かべ、はじける笑顔の少女が、目の前に、いる。
仕事場のマンション。ある意味一人暮らしの男の部屋へ。
幼いころと変わらぬ笑顔でありながら、その姿はすでに羽化を遂げたかのようで。そう。たとえるならば、花開く寸前のつぼみ。みずみずしさと若々しさをたたえながらも、どこかしっとりと艶を帯びる。
――いつのまにか、成長していた彼女の姿に、戸惑う。
仕事に集中しなければ、と、画面には向かうものの、わかっているのか甘えてくる彼女に、心か、体が揺らぐ。
学校帰りなのか、ブレザーの制服姿のまま、短いスカートを揺らして無邪気に構ってくれと甘える彼女。
――それに不埒な思いを抱かない男がいることに、気づかない、なんて。
苛立ちが、起こる。
そんな風に、他の男にも甘えるのだろうか。そんな短いスカートで、学校へ通っているというのか。
その笑顔を、周りの誰にでも見せているのだろうか。――そんなにすきだらけ、なのだろうか。
――このまま、押し倒すことだって、できるというのに。
浮かぶのは不埒な思いばかり。軽く頭を振っていれば、彼女が、その言葉を口にした。
「……好き」
まっすぐに彼女を見つめる。
これ以上は、耐えられない。これ以上は、無理に決まっている。
「恋愛ごっこなら余所でやりなさい」
深いため息と共に、そう告げれば、凍りついたように顔をこわばらせる彼女。
ああ。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
けれど、このままだと、彼女を傷つけてしまいかねない。
「……だって」
「でももだってもありません。私は、締切前なんです。忙しいんです。遊びに付き合ってる暇はありません」
さっさと帰りなさい、と、そう短く告げて。意識を彼女から引きはがす様に画面に向かう。
「あ……の……」
かけられる声にこたえたくなるけれど、答えられない。ぎりぎりと引き絞った理性の糸は、はじけ飛ばんばかりに張りつめているのだから。
しばらく、じっと見つめる視線を感じていたけれど、やがて諦めたように部屋を出ていく彼女。
ぱたん、と、玄関のしまる音が聞こえて、体からやっと力が抜ける。
――あんなこと、言いたくはなかった。
抱きしめて、囁いて、口づけて。とろけるほどに、愛したかった。
――けれど、彼女は、まだ幼いのだ。
15歳。もうすぐ16だろうか。
歳の差はいくつになるだろう。――ロリコン、と、呼ばれないぎりぎりラインだろうか。
花開く寸前の彼女の色香に、惑わされている自分に、呆れてしまう。
もし、その思いのままにぶつかれば、彼女はきっと今以上に傷つくに違いない。
ならば。
――待つしか、ないのだ。
あと、少し。せめて高校を卒業するまで。
彼女が、本当の意味で花開く日まで。
「これは、かなりきついですね……」
漏れるのは、ただ深いため息ばかりだった。
真っ直ぐに向けられる感情が、嬉しくなかったわけじゃない。
愛しくて、恋しくて。誰よりも大切だからこそ。
――身動き取れない、時もあるのだ。
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URL:http://have-a.chew.jp/
携帯:http://85.xmbs.jp/utis/
「無防備なきみに恋をする5題 」より
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