3.あなたの気持ちはよくわかりました
2011.11.25 Fri [Edit]
それから。
不思議なもので、会おうとしなければ、私と彼はこれっぽっちも接点がなかった。
ちょうど仕事が詰まっていたのか、実家へ戻ってくることが少ない彼と、日中は学校の私。
今までなら、会いたくて会いたくて、できるだけ口実を設けて隣に行ったり届け物をしたりと、していたけれど。
それをしなくなった途端、彼と会うことはほとんど、全くと言っていいほど、なくなった。
ちらり、と見かけることがないわけじゃなかったけれど、忙しそうな彼に私から声をかけるなんて、できるわけがなかった。
1週間、2週間。時間が過ぎていく。
会いたいな、という気持ちが湧き上がる反面、彼の冷たい言葉や迷惑かもしれないという思いがストップをかける。
不自然に遅く帰るのをやめたにもかかわらず、これほどまでに彼に会わないということは、彼が会いたくないと思ってる証拠のようにすら思えて。そうしたら、余計身動きできなくなった。
「馬鹿だねぇ」
公園で、友達と二人。目の前でカフェオレを音を立てて飲んだ彼女は、ちらりとこちらをみる。
「馬鹿だってわかってるよ」
「いいやわかってないね」
手の中のパックをのむ気に慣れずに、右に左にと手遊びしつつうつむけば、彼女のため息。
「ってかさ、いい加減ほかの男にも目を向けなって」
「……そうはいっても、ねぇ」
「あんた、ガード固いんだよ。気になってるやつ、いないわけじゃないんだ。もっと気楽にいきなよ」
ぶらぶらとベンチから降ろした足を揺らす彼女の、短いスカートが翻る。
少しだけ奔放な彼女。だけど、その言動や外見に比べて、彼女こそガードが堅いのを私は知ってる。
その彼女に、こうもいわれるとは。……少し考えたほうがいいんだろうか。
「んー……考えてみるよ。なんか、うん」
「そうしな」
軽く返して、彼女が笑う。美人だと思う。派手目の美人。だけど、笑うとかわいらしい。
……彼女みたいに大人っぽい外見だったら、もう少し彼は、私を見てくれただろうか。
そんな埒もないことを考えて、また、ため息を漏らした。
「ただいまー……」
扉を開ければ、ふわりといいにおいが漂っていた。
ぐう、と、現金なおなかがなる。思わずぺちりと一度おなかをたたいてから、ダイニングへと向かう。
「あら、お帰りなさい」
ぱたぱたと台所で料理をしていたらしき母が、振り返って笑う。
「ただいまー。あー、おなかすいた―。ねぇ、ごはんすぐ?」
鍋を覗き込みながら言えば、呆れたようにぺちりと頭をたたかれて。
「ええ、すぐできるから着替えてらっしゃい。ちゃんと手も洗うのよ」
まるで小さな子供に言うように、くすくすと笑いを含めていう母に、はーい、と、わざと幼い返事を返して。
ダイニングを出ると、二階の部屋へ。制服を脱ぎながら、ふと窓の外をみれば、隣の家がみえる。庭と、家。そして、あの、見えそうでみえないぎりぎりの場所にある窓が、彼の、お兄ちゃんの部屋。
カーテンが閉まったままの様子に、相変わらず忙しいんだろうな、と、思って苦笑する。
結局、彼のことを考えてしまうらしい。
本気で、新しい恋を探したほうがいいのかな、なんて。そんな風に思った。
「あ、いいところに。これ、お隣にもっていって」
着替え終えて下に行けば、鍋と回覧板を用意した母がにっこり笑う。
「えー……おなかすいたのに」
「さっさと行く。早く戻ってらっしゃいよ」
「はーい」
しぶしぶと、それらを持って家を出る。
窓もしまってたし、カーテンもしまってたから不在のはず。おばさんに渡してさっさと帰ろう、と、隣の家のチャイムを押せば。
「はーい」
「おばさーん、回覧板とおすそ分け持って来たー」
「はいはい、ちょっとまってねー」
インターホンから明るい声。つられるように笑顔になる。
しばし待てば、足音。……おばさんにしては焦ったような? 少し首をかしげていれば、ばたん! と大きな音がして、玄関があいた。
「あ……」
「……久しぶりですね」
彼、だった。どこか焦ったような様子で、扉を開けた彼。まさかいるとは思あなかったので少し焦る。
「あ、あの、これ。かーさんから。おすそ分けとあと、回覧板!」
ぐい、と、勢いのままに渡して。
「じ、じゃあ。おじゃましました!」
「あ、待ってください」
くるり、と踵を返そうとしたら、引き止められて。
余計にあせる。
「あ、あの、その。うん、今まで迷惑かけてごめんなさい。お兄ちゃん忙しいのに、なんか邪魔ばっかで。うん、だいじょうぶ、私は平気だし、うん。あ、友達にいわれたんだ、新しい恋でもしたらって。がんばってみようかなーっておもうんだ! だから、うん。いままでありがとうね、お兄ちゃん!」
焦って。言わなくていいことまで、言ったかも、って。気づいたけど。出てしまった言葉は、戻せなくて。
振り返ることもできないまま、立ち尽くしていれば。それまでずっと沈黙していた彼が、深く長い、重たいため息をひとつ、漏らして。
「あなたの気持ちは、よくわかりました。――引き止めて済みません。おばさんにお礼いっておいてくださいね」
そういうと、しばらくして、ぱたんと玄関の閉じる音。
……ああ。
そのまま、どこか茫然とした足取りで、家まで帰る。
「ただいまー……」
「おかえりな……っ、ちょっと、どうしたの!?」
リビングに入れば、母が焦ったように駆け寄ってきて。
「え、なに?」
「なに、って。……あなた、気づいてないの?」
どこか痛そうな表情で、そっとほほに触れる母の手。
あ。私、泣いてたんだ。
「……うー」
ごしごし、と、目元をぬぐえば。それ以上何も聞かずに。
「さ。ご飯にしましょ。今日はパパも遅いし、二人で食べるわよ。あったかーいのおなか一杯、食べなさい」
そう、そっと肩を押して、テーブルに促してくれた。
晩御飯は、ちょっとだけ、塩味が効きすぎてる気が、した。
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「年上の彼のセリフ(1)」より
不思議なもので、会おうとしなければ、私と彼はこれっぽっちも接点がなかった。
ちょうど仕事が詰まっていたのか、実家へ戻ってくることが少ない彼と、日中は学校の私。
今までなら、会いたくて会いたくて、できるだけ口実を設けて隣に行ったり届け物をしたりと、していたけれど。
それをしなくなった途端、彼と会うことはほとんど、全くと言っていいほど、なくなった。
ちらり、と見かけることがないわけじゃなかったけれど、忙しそうな彼に私から声をかけるなんて、できるわけがなかった。
1週間、2週間。時間が過ぎていく。
会いたいな、という気持ちが湧き上がる反面、彼の冷たい言葉や迷惑かもしれないという思いがストップをかける。
不自然に遅く帰るのをやめたにもかかわらず、これほどまでに彼に会わないということは、彼が会いたくないと思ってる証拠のようにすら思えて。そうしたら、余計身動きできなくなった。
「馬鹿だねぇ」
公園で、友達と二人。目の前でカフェオレを音を立てて飲んだ彼女は、ちらりとこちらをみる。
「馬鹿だってわかってるよ」
「いいやわかってないね」
手の中のパックをのむ気に慣れずに、右に左にと手遊びしつつうつむけば、彼女のため息。
「ってかさ、いい加減ほかの男にも目を向けなって」
「……そうはいっても、ねぇ」
「あんた、ガード固いんだよ。気になってるやつ、いないわけじゃないんだ。もっと気楽にいきなよ」
ぶらぶらとベンチから降ろした足を揺らす彼女の、短いスカートが翻る。
少しだけ奔放な彼女。だけど、その言動や外見に比べて、彼女こそガードが堅いのを私は知ってる。
その彼女に、こうもいわれるとは。……少し考えたほうがいいんだろうか。
「んー……考えてみるよ。なんか、うん」
「そうしな」
軽く返して、彼女が笑う。美人だと思う。派手目の美人。だけど、笑うとかわいらしい。
……彼女みたいに大人っぽい外見だったら、もう少し彼は、私を見てくれただろうか。
そんな埒もないことを考えて、また、ため息を漏らした。
「ただいまー……」
扉を開ければ、ふわりといいにおいが漂っていた。
ぐう、と、現金なおなかがなる。思わずぺちりと一度おなかをたたいてから、ダイニングへと向かう。
「あら、お帰りなさい」
ぱたぱたと台所で料理をしていたらしき母が、振り返って笑う。
「ただいまー。あー、おなかすいた―。ねぇ、ごはんすぐ?」
鍋を覗き込みながら言えば、呆れたようにぺちりと頭をたたかれて。
「ええ、すぐできるから着替えてらっしゃい。ちゃんと手も洗うのよ」
まるで小さな子供に言うように、くすくすと笑いを含めていう母に、はーい、と、わざと幼い返事を返して。
ダイニングを出ると、二階の部屋へ。制服を脱ぎながら、ふと窓の外をみれば、隣の家がみえる。庭と、家。そして、あの、見えそうでみえないぎりぎりの場所にある窓が、彼の、お兄ちゃんの部屋。
カーテンが閉まったままの様子に、相変わらず忙しいんだろうな、と、思って苦笑する。
結局、彼のことを考えてしまうらしい。
本気で、新しい恋を探したほうがいいのかな、なんて。そんな風に思った。
「あ、いいところに。これ、お隣にもっていって」
着替え終えて下に行けば、鍋と回覧板を用意した母がにっこり笑う。
「えー……おなかすいたのに」
「さっさと行く。早く戻ってらっしゃいよ」
「はーい」
しぶしぶと、それらを持って家を出る。
窓もしまってたし、カーテンもしまってたから不在のはず。おばさんに渡してさっさと帰ろう、と、隣の家のチャイムを押せば。
「はーい」
「おばさーん、回覧板とおすそ分け持って来たー」
「はいはい、ちょっとまってねー」
インターホンから明るい声。つられるように笑顔になる。
しばし待てば、足音。……おばさんにしては焦ったような? 少し首をかしげていれば、ばたん! と大きな音がして、玄関があいた。
「あ……」
「……久しぶりですね」
彼、だった。どこか焦ったような様子で、扉を開けた彼。まさかいるとは思あなかったので少し焦る。
「あ、あの、これ。かーさんから。おすそ分けとあと、回覧板!」
ぐい、と、勢いのままに渡して。
「じ、じゃあ。おじゃましました!」
「あ、待ってください」
くるり、と踵を返そうとしたら、引き止められて。
余計にあせる。
「あ、あの、その。うん、今まで迷惑かけてごめんなさい。お兄ちゃん忙しいのに、なんか邪魔ばっかで。うん、だいじょうぶ、私は平気だし、うん。あ、友達にいわれたんだ、新しい恋でもしたらって。がんばってみようかなーっておもうんだ! だから、うん。いままでありがとうね、お兄ちゃん!」
焦って。言わなくていいことまで、言ったかも、って。気づいたけど。出てしまった言葉は、戻せなくて。
振り返ることもできないまま、立ち尽くしていれば。それまでずっと沈黙していた彼が、深く長い、重たいため息をひとつ、漏らして。
「あなたの気持ちは、よくわかりました。――引き止めて済みません。おばさんにお礼いっておいてくださいね」
そういうと、しばらくして、ぱたんと玄関の閉じる音。
……ああ。
そのまま、どこか茫然とした足取りで、家まで帰る。
「ただいまー……」
「おかえりな……っ、ちょっと、どうしたの!?」
リビングに入れば、母が焦ったように駆け寄ってきて。
「え、なに?」
「なに、って。……あなた、気づいてないの?」
どこか痛そうな表情で、そっとほほに触れる母の手。
あ。私、泣いてたんだ。
「……うー」
ごしごし、と、目元をぬぐえば。それ以上何も聞かずに。
「さ。ご飯にしましょ。今日はパパも遅いし、二人で食べるわよ。あったかーいのおなか一杯、食べなさい」
そう、そっと肩を押して、テーブルに促してくれた。
晩御飯は、ちょっとだけ、塩味が効きすぎてる気が、した。
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