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[掌編]いつの日か

2013.05.07 Tue [Edit]

Cats
Cats / cuatrok77



変わりたい

願うだけではどうにもならない、と、わかっている。

それでも。

心の底から、変わりたい、と、叫ぶ気持ちは、苦しいほどに強くて。

泣いてもどうしようもないのだ、と、理解しながらも、それでも。

流れる涙を止めるすべを、私は、持っていなかった。

変わりたい。

同じ過ちを、同じ失敗を繰り返す私から、変わりたい。

もう、こんな思いは嫌だ、と、涙をひたすらに流し続けた、春の夜。

失恋は、もうこりごり、だった。




そこでどうして恋愛はこりごりにいかないんだ、と、不思議そうに首を傾げる相手に、薄く笑う。

苦しくても悲しくても、私は恋をすること自体は、好きだ。
失った恋も、新しい恋も、自分の感情を揺り動かしてくれるそれらを、私はこの上なく好んでいる。

だって、生きてる、って気がするもの。

たとえ、涙を流すほどに悲しくても。

変わりたいと思うほどに、今の自分を否定されて打ちのめされたとしても。

それでも、私は、恋をすることをやめないだろうと思う。

本物の恋じゃないんじゃない? と、言われたこともあるけれど。
恋に本物も偽物もないんじゃないか、って思う。
恋してる、と、そう思えば、それは恋。
恋じゃない、と、思えば、それは恋じゃない。

恋なんて、人間の主観で、ついでに言えばたぶん、勘違いで。
でも、だからこそ、感情が動かされて、切なくて苦しくて、幸せなものなんだから。

変わりたいんだ、という私に、目の前の椅子に座る相手、幼馴染の彼女は笑う。

変わるのが何よりも苦手な貴女が? と。

変わることは怖い。
私が私でなくなるような、今の、微妙に楽で心地よい状態から抜け出して苦しい道に踏み入れることになるような、不安と恐れと、少しの期待。
努力しないで変わることができれば、それはそれで最高なんだけど、そんな夢のようなことは、現実にはありえないから。

変わりたい、と思うならば、変わるように努力しなくちゃ、いけない。

私は変わることを嫌う。変化を嫌う。
洋服も、持ち物も、食べ物も、友達でさえ、変化を嫌って、ゆえに好きなものも厳選して少ない。

そんな私を知ってるから、目の前の彼女は、笑うのだろう。

できるの? と。 どうかわりたいの? と。

私は、苦く笑い返す。
彼女は知っている。偏狭な世界に生きる私は、依存傾向が強いのだ、ということを。

私が、ある意味で彼女に依存しているのだ、ということを。

変化を嫌う私が、唯一変化を好むのが、恋愛に絡む感情についてで、そしてそれも、恋愛相手に依存する傾向が強い、ということも。

そう。
今までの恋、すべてが、重い、という言葉や、君には付き合いきれない、という言葉で終わっていた。

彼だけを盲目的に見つめているように思われるらしい私の言動や、メールに、彼らは付き合い切れなくなるらしい。

実際はそこまで盲目ではないけれど、しかし、依存傾向は言動やメールに如実にあらわれるみたいで、いつもそんな風に別れを告げられる。

今回別れた、私を振った相手は、きっぱりとしっかりと、そこを突っ込んできた。
私の依存対象になる気はないということ。
恋愛は多少は相互依存だろうけれど、そこまで依存されて支えられるとは思えないということ。
もっといろいろ言われたけれど、そのすべてが、怒鳴ったり呆れたりというよりも、淡々と言い聞かせるような言葉だったから、本当にこたえた。

変わるのが嫌いな私が、変わろう、と、思えるほどに。

そう告げれば、彼女は、目をゆるりと細める。

悪い事じゃないわよね、と、彼女はいって、コーヒーを飲む。

そうだね、と、私も笑って、ゆるりとカップを揺らす。

いつもならば、そこには紅茶が揺れているのだけれど、今日は彼女と同じ褐色のコーヒーが揺れる。

私は、コーヒーも紅茶も好きなのだけれど、なんとなく紅茶を選ぶようになり、それを変えることができなかった。

こんなことから、と、思いながらも、少し楽しくなって、ゆっくりとコーヒーの香りを楽しみながら、一口。

苦いそれは、じわりとしみこむようで、私はまた、小さく笑う。

現実の苦さ、なんて、そんなことを思い浮かべてしまう自分に、ただ、小さく笑った。


変わりたい、と、そう思った。
恋する感情の変化だけを好んで、ほかの変化を好まないこの性格を、変えたいと思った。
世の中は、さまざまな刺激に溢れていて、それらを受け入れれば、多少なりとも変わることもできた。

変わることは怖い、と、思っていた。
けれど、あの涙した日。
別れた彼は、今までのほかの誰とも違い、私を見下したり罵ったり、気味悪がったりしなかった。

ただ、淡々と。
けれど、どこか心配しているのだという雰囲気を感じさせる口調で、ひたすらに私に、言い聞かせてくれた。

彼の気持ちが、どういうものだったのか、なんて、それは私にはわからない。

けれど、淡々と告げられたからこそ、静かに言い聞かされたからこそ、それらは私の中に深く響いて、涙になった。

彼の前では涙を流さなかったのは、意地と礼儀だったのかもしれない。

あふれ出た涙を、彼に見られるのは、申し訳ないような気がしていたのだから。

さらり、と、肩にかかる髪を払う。

真っ黒で、まっすぐで、いつも同じ長さのこの髪を、明日、短く切ってみようか。

そして、明るい色に染めるのも、いいかもしれない。


不安がないわけじゃない。
怖くないわけじゃない。

だけど。

少しだけ、少しずつ、変わっていきたいと、私は思うから。

見上げた窓の外の空の色は、青く、木々の緑はまぶしくて。

変化は怖いけれど、それでも。

小さな期待に、胸が弾む自分を、私は、否定できなかった。


いつか。
変わることができたならば。

ありがとう、と、あなたに、伝えてもいいですか?

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