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[掌編]風の声が聞こえる

2013.04.20 Sat [Edit]

My Cat
My Cat / Shoichi Masuhara



子供の頃から、私は、どこか妄想の中にいきていたように思う。
誰かに話せばまゆをしかめられるような、そんなことを終始思っていた。

たとえば、そう。

私は風の声が聞こえるのだ、と、信じて疑っていなかった。
否、私にしてみれば、普通に聞こえていて会話しているのだと思っていた。
それが特殊だとか、もしかすると私の脳みその中だけの話だとか、そんな難しいことはなにもまだ、わからなかった。

ただ、縁側で、空を見上げて、木々の揺れる動きに合わせてキャラキャラと笑い言葉を紡ぐ、そんな子どもだった。




その行為が、周りからみればおかしいとわかるようになったのは、いつだっただろう。
小学校の中学年にあがる前くらいか、10歳前後のことだったように思う。
それまでも、おそらく変だと思われていたのだろうけれど、誰からも直接に言われたことはなかった。
けれど、その日、よく一緒に遊んでいた、親友みたいな友達だった子のまえで、私は空を見上げていつものように何かをつぶやいたんだと思う。

気持ち悪い、怖い、変だ、と。

歪んだ顔でそう告げて走り去っていった、その時の表情を、成人してだいぶたつ今でも、忘れることが出来ない。

その時、はじめて、私はそれが、人からおかしいと思われることなのだと、理解したのだ。

人に言ってはいけない。人にわかってはいけない。
それからの私は、気をつけてその行動をするようになった。
小学校から中学校へあがっても、ひっそりとその行為を隠すようになった。
中学では、中空を見つめて呟くような子がいたけれど、その子は周囲から浮いていてからかわれていたから、これでいいのだと思った。

最初その子を知った時、同じような子がいるのかと思って嬉しかったのだけれど、何やらその子は中二病といわれるものらしく、やがて受験期にはそんな素振りも見せないようになっていった。

この時、はじめて、私もその中二病というやつなのだろうか、と、考えるようになった。

それまで、全く、私は自分のその、空想ともいえる状況が、現実のことであると信じてこれっぽっちも疑っていなかったのだ。

中学を過ぎ、高校をすぎると、次第に深く、自分を疑うようになる。

前と同じように私には聞こえていたけれど、それでも、それはきっと自分の幻聴で勘違いなのだと、他のことに意識をそらすようになった。

それが正しかったのかどうか、大学に入り成人する頃には、そんな声はこれっぽっちも聞こえることなく、やはりあれは、子どもの頃にありがちな空想を現実と捉えていたのだろうか、と、そんなふうに思うようになった。

一瞬、もしかすると成人したから聞こえなくなったのかもしれない、と、思ったりもしたけれど、結局、どれが真実かなんて調べることも証明する方法もなかったから、すぐに頭のなかから消し去っていった。

それきり、私は、風の声が聞こえると信じていた自分を、忘れ去った。

いうなれば、誰にでも一つはあるであろう黒歴史の一つ、と、捉えるようになった、ともいえる。

だから、そう。

本当に聞こえていたのか、とか。
それが妄想だったのか、幻聴だったのか、それとも、本当に聞こえていたのか、とか。
もう遠い昔になりつつあるそれらを、いまさら確かめるすべなど、ないのだから。

ないはずなのだ、と、そう、思っていたのに。

どうして、と、震える唇から言葉を紡ぐ。

乳児の頃から、空を眺めて笑う子だ、と、思ってはいた。
けれど、それは、乳児によくあることだと、気にしてなかったのに。

庭を眺め、空に手を伸ばして、あっあー、と、声をあげる我が子を、後ろから眺める。
キャラキャラと笑って、そして、手を伸ばして。未だ意味を成さない喃語を繰り返し呟きながら、ご機嫌で遊ぶ我が子に、私は知らないはずの私の姿がかぶってしまう。

私も、こんなふうにしていたのだろうか。
こんなふうに、笑っていたのだろうか。

乳幼児特有の、何かかもしれない。
ただそれだけのことだ、と、思いながらも、震える体を止めることが出来ない。

そうだ。
あの時、風は、なんといってただろうか。

あふれだすように、覚えていないはずの記憶が、消したはずの記憶が蘇る。

そうだ。

風は、いつも言っていた。


――待ってるよ、と。

弾かれたように我が子に駆け寄り、抱きあげる。

きょとん、と、こちらを見つめる我が子を、ぎゅっと抱きしめれば、きゃっきゃっと笑う声がする。

声が、聞こえてたのか、それとも、私の妄想の産物なのか。

それを証明するすべは、ひとつもないけれど。

この子が、乳幼児特有の行動をとっているにすぎないのか、それを確かめるすべはないけれど。

それでも。

震える体で、庭に背を向け、奥の部屋へと小走りに足を進める。
いまはとにかく、ここにはいたくなかった。

妄想ならいい。それなら、問題ないのに。


怯える私の耳に、実に数年ぶりの、声が聞こえた。

――待ってたよ、と。



子供の頃から、私は、どこか妄想の中にいきていたように思う。
誰かに話せばまゆをしかめられるような、そんなことを終始思っていた。

たとえば、そう。

私は風の声が聞こえるのだ、と、信じて疑っていなかった。
否、私にしてみれば、普通に聞こえていて会話しているのだと思っていた。


それが現実かどうか、を、確かめるすべは、既になにもないけれど。

すべて妄想なのだと、いびつに唇を歪めながら、そっと、愛しいぬくもりを抱きしめて、深くため息を付くのだった。

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