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[掌編]別れを決めたその理由

2013.04.19 Fri [Edit]

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DSC_0533_1 / ChefMattRock



別れよう、と、思ったのには、そんなに深い理由はなかったように想う。
そう、彼の浮気が原因でも、彼の優柔不断が原因でも、多分ないのだ。
それらはきっと、遠因の一つではあるのだろうけれど、それでも、私はそれをわかっていて彼のそばにいることを選択したのだから、直接の原因には成り得ないだろう。

それは本当に、ふいに訪れたのだ。

「ねえ、別れよっか」

窓から見える空は、清々しいほどに青く、吹き込む風が心地よい、春の頃のことだった。






「わかれたよ」

その言葉を告げた瞬間の、我が友の顔は、なかなかに見ものだった。
なるほど、鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのは、こういう表情をいうのかもしれないと、しみじみ観察する。

しばらく、口を開いたまま、ぱくぱくと数度何かを言いたげに口を動かしていたけれど、やがて口をピタリと閉じ、それから深く深く、彼女はため息を付いた。

あまりに深い溜息だったから、不思議に思って首をかしげる。

途端、睨まれた。

「あんた、ねぇ……っ!」

一瞬、大きくなりかけた声は、ここがどこかを思い出したらしく、瞬時にひそめられる。
最初の第一声でこちらに向いた店内の視線は、すぐに興味を失ったように、よそへと流れていく。
カフェの店内なんて場所で大声ださなくてよかったねぇ、と、思っていると、また深々と溜息をつかれる。

「どした?」

問いかけたら、ぺし、とデコをはたかれた。ちょっと痛い。

「どした、じゃないでしょうも。散々、アレだけ、あいつが問題起こしたときに別れろ、別れろっていっても、わかれなかったくせに! よっぽどあいつのことをいしてるんだろうなこの趣味が悪い女め、とか、思ってたのに、なんで、また」

散々、この店に来てからも彼のことを別れろ別れろといっていた彼女とは思えない言葉に、思わず瞬く。

イマイチどういうことかわからなくて少しばかり困ってしまって、ごまかすようにカフェオレをすする。

ちょっとずずって音がした。いけない、行儀が悪すぎる。

ちらり、と、上目で伺えば、呆れたような彼女の視線が、ゆるりと緩んだ。

「――まあ、なんにせよ、わかれたんならいいわよ」

「ん。心配かけてごめんよ」

彼女が、私のことをどれだけ心配してくれていたのか、は、よくわかってる。
だから、万感の思いを込めて、そう告げた。

ふふ、と、彼女は笑う。

「気にするな。さて、次を探しに合コンいくぞー!」

そのバイタリティに付き合うのは、ちょっと厳しいな、と、笑ってごまかした。


彼は優しい人だった。
彼は、真面目なひとだった。
けれど、ほんの少しだけ、考え方や感覚が、ずれていたように想う。
優しいし、真面目だったけれど、浮気を浮気と思わず、平気でするようなひとだった。
付き合い始めて、やがて同棲をして、一緒に暮らしていても、彼の携帯には女友だちからのメールがたくさん来ていた。
それはまあ、友達ならばしかたがないか、と、人当たりのいい彼でもあることだし、特にそこまで気にしてなかった。

この段階で、友は、ちょっとおかしくないか? といっていたけれど、私はそこまでないんじゃない? と、思ってた。

やがて、そのメールの頻度が増えて、ちょっとシモネタが増えてきたようだった。
みるつもりなくても、目に入る瞬間はある。最初に見た時、一瞬ドキッとしたけれど、見えたなんていえないから、気づかないふりをした。
もともと、そういうネタで周囲を笑わせる傾向も無きにしもアラずで、おばさま方に愛される人だったから、普段通りのメールだろう、と、自分をごまかした。

相手が、若い子だったことに気づいていたけれど、それでも、気づかないふりをした。

結婚しようか、と話が出て、私の両親に話を通して、じゃあ、相手のご両親にも、となったとき、彼はなかなか、動き出そうとしなかった。
もうちょっとまってくれ、を繰り返し、ぐだぐだとされて、さすがに私は、結婚したくないのかな? と、そのことを申し出た。
けれど、別れるのは嫌で、でも、両親に話すのは緊張するからまってくれ、と、のびのびになってかなり時間がかかって。
やっとご両親にあうことができたとき、それまでのことから私は、よほど何か問題のあるご両親なのかと、身構えてしまったのだけれど、ご両親は全くごく普通の方々で、むしろ、同棲までしていた私の両親に、挨拶が遅くなってしまったと、筋を通そうとしてくださるような方だった。

おかしいなぁ、と、思いながらも、それでも、彼の普段の優しさや会話の楽しさを考えると、それらもちょっとした欠点かな? と、飲み込んで、結婚式の準備に入った。
あまりお金はかけられないから、と、あれこれ調べて楽しく準備していたのだけれど、そのときに事件は起こる。

彼の浮気相手? からメールが届いたのだ。
別れろというメールに、驚いて彼にそれを見せたら、土下座をされた。もうしない、二度としないから許してくれ、と。
職場で付き合っていたらしく、実は上司にその現場を見られて、危うく首になる所だったらしい。
彼の方はなんとか首がつながったものの、相手の女性は普段の行動などもあって、クビになったのだとか。
ゆえに、私に別れろと言ってきたのか、と、納得し、必死にもう二度としないという彼に、約束をしっかり取り付けて、そのままわかれなかった。

結婚式まで、1年。

準備の間に、彼の浮気らしきものは数度あったけれど、それでも、彼はそういう癖のある人間なんだなぁと、そんなふうに思って、そのまま受け止めていた。

そんな事件のたびに、すべてを周りの人間に話すわけにも行かず、ひっそりと相談したのが、友である彼女だった。
彼女は、そのたびに憤慨し、別れろ、と、憤ったものだけれど、私が、その気にならないので、呆れながらもプンスカと認めてくれていた。
幼馴染というべき存在の彼女がいたから、1人で悩まずに済んで、受け入れられたのかもしれないけれど、事実はわからない。

そんな中で、着々と結婚式の準備をしていたのだけれど、彼が寸前になってお金がないと言い出し、結局入籍だけですませようか、と、キャンセル料が高くなるギリギリ寸前で変更になった。

それでも、私は、仕方がないな、と、受け止めた。

キャンセル料はそこまで高くなかったから、まあいいか、と、その時は思っていた。

入籍まであと数日、という日々の中、もう既に夫婦のようにアパートで暮らす毎日だった。
その日も、ごく普通の、代わり映えのない日で、冗談を言い合って、言葉を交わし合っていたような、そんな日だった。

窓の外の空は、青く清々しく、外から吹き込む風は、この上なく心地よくて。

ふわりとまうカーテンと青空のコントラストに、思わず目を細めた、その日。

私は、別れよう、と、そう思った。

多分、理由は、大したことじゃない。
折角空が青いのに、折角風が心地よいのに、結婚することないんじゃないか、とか、なんだかそういうふうに思ったんだと想う。

浮気のせいか、結婚式をしないせいか、と、あれこれと理由を上げては必死で引き止める彼に、ごめんね、と、言葉を返した。

仕事の時間で出かけて行く彼が、帰ってから話しあおう、というのを笑って送り出し、その日そのまま有給をとって、即日可の引越し屋さんを頼んで荷物を移動した。

とりあえず、実家に電話をして、今から帰るね、と、告げれば、両親は慌てたようだけれど、気をつけて帰って来い、とだけ、言われた。

細かなことは報告してなかったんだけれど、どうやら、いくらかは相談してた幼馴染な彼女から、私の両親に筒抜けだったらしい。

実家に帰った私に、彼は一度だけ、会いに来た。

けれど、門の所で私の顔を見てすがりつこうとした彼は、その行動を見とがめた私の母の、普段の穏やかさをかなぐり捨てた激しい怒りっぷりに恐れをなして、怯えるように逃げ帰り、そのまま二度と、実家には来なかった。

その代わり、私の携帯には、驚くほど甘い言葉が並んだ謝罪メールが届くようになったのだけれど、とりあえずそのまま放置しておいた。

彼のご両親にだけは、一旦電話で事情をお伝えして、そして、謝罪に伺おうと思っていたけれど、大変だろうからいいと逆に謝られてしまった。

彼からは、メールが届くけれど、電話がかかることはない。彼が会いに来ることはない。

別れようと思ったのは正解だったのかもしれないなぁ、と、思いながら、私は、1人静かに笑った。

彼のことを嫌いになったわけじゃない。
彼の様々なあれこれに、愛想を尽かしたわけじゃない。

それらは、もしかすると、遠因ではあるかもしれないけれど、きっと、直接の原因ではないのだ。

ただ、そう。
もう無理だな、と、そう思ったのだ。

ただそれだけだったのだ。


あの日によく似た青空を見上げて、静かに笑う。

別れを決めたその理由、なんて、結局のところ、どんな場合でも、本人にしかよくわからない理由なのかもしれない、と。

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