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[掌編]恋なんていらないと思ってた

2013.04.17 Wed [Edit]

cat in tree  - VoxEfx
cat in tree - VoxEfx / Vox Efx



出会いなんて、どこにもないと思ってた。
毎日同じ事の繰り返しで、何も変わらないと、そう思ってた。

夢? 目標?
毎日をただ過ごして、貯金して、生活して、ただそれを繰り返す、それで精一杯だった。

恋なんて、してる余裕ない、なんて、そう思っていた。

毎日だけで精一杯で、けれど精一杯だなんて気づいていなかった。



恋、という言葉に、私はいいイメージがない。
それも、おそらく今まで経験した恋愛のようなものが、ロクでもなかったからだろう。
ずっとお互いに意識しあっていた相手は、付きあおうか、と秒読みになった途端、現れた別の女にかっさらわれた。
いろんな人と付き合ってはみたけれど、中途半端な執着心で、気がつけばダメになっていた。
連絡がないと嫌われたんじゃないか、なんて不安になる、そんな感情がいやで、たぶん、自分からダメにしてきた。

大学を出て、なんとか就職して、ごく普通に仕事に出かけ、休日にはダラダラと過ごす。
ごく普通のそんな生活が、私には十分で、いまさら恋をしてあんな感情にふりまわされるのはゴメンだ、なんて、思ってた。

恋はするもんじゃなく、落ちるものよ、なんて。

言われるたびに笑ってごまかしていたけれど、落ちるなんてまっぴらごめん、なんて思っていた。

仕事に行く、生活を送る、たったそれだけのことをこなすのに、実は私が精一杯だった、なんて、思ってなかったけれど、それでも、今の状況になにか新しいものを割りこませるのは、この上なく嫌だ、と、思っていた。


ずっと変わらないと思ってた。
だからしっかり貯金して、先に備えようと、そんなふうに思ってた。
1人で生きていくんだと、そう思っていた。

なのに。

「ずっと好きでした!」

キラキラと目を輝かせ、頬を紅潮させた年下の同僚が余りにも眩しくて、一瞬めまいがした。

「えーと、そんなに、缶コーヒーが好きなんだ?」

会社の自販機の前、ちょうど休憩がかぶったらしく、偶然そこで一緒になった彼は、缶コーヒーを握りしめたままだった。
うん、分かってる。たぶん、いや、間違いなくそういう意味ではない、という事くらいは。
誤魔化されてくれないかな? と、思った心を見透かされたのか、がっ、と、唐突に両手を握られる。
ちょ、場合によってはそれ、セクハラ扱いだよ? と、一歩引くけれど、彼の勢いは止まらない。

「違います。好きなんです、貴方が」

ここ、会社です。周囲に人影は少ないけれど、全く無い訳じゃないです。
ついでに、歳の差3つは確か会ったはずです。たった3つ、されど3つ、結構大きいと想うのですよ。
というか、確かに飲み会とかで、楽しい人だなぁとは思ったよ。やけに食事に誘われるなぁとも、思ったよ。
でも、なんとなく交わしてきてたんだ。勘違いだろうし、と思って。

でも、勘違いじゃなかったんだなぁ、と、遠い目をしてしまう。

「とりあえず、手、離して」

そっと手を引けば、慌てたように彼は手を離して、そんなつもりじゃ、とか、別のその、とか、あわあわしてる。

なんというか、彼は確か、夢があって独立を目指してるんじゃなかったろうか。
しかも割りと、それが不可能じゃないレベルで仕事ができる、かなりの出来る男、だった気がする。
少々、童顔なところとか、柔らかな物腰とかで、どちらかというと職場でみんなの弟的扱いを受けてはいるけれど、私とは割りと真逆なタイプだと想うのだけれど。

首をかしげてしまう。

「なんで私?」

思わずこぼれた言葉に帰ってきたのは、輝かんばかりの満面の笑顔と、もう、勘弁して、というレベルの、褒め殺しだった。
勘弁して下さい。

私は、仕事が出来る訳じゃない。要領も悪いし、物覚えも悪い。
それを自覚してるから、コツコツ出来ることをしてきた。
いい悪いとか、横においといて、お茶くみコピー、机の拭き掃除、その他もろもろ、自分の業務以外の雑務を、率先して受けてきた。
職場で、割りと便利な奴扱いだったのは、気づいてた。新人の子にすらぱしられたりして、そんなもんだとおもってた。
つまり、そんな程度の奴なのだ。

しかしながら、彼は、それをみて私を見初めたらしい。
暖かい飲み物が、そっと用意されていたり、机の上が触れて困ったという状態にならない程度に整頓されていたり、と、あれこれ細かなことで感動してくれていたんだそうな。

私は別に、夢とか野望とかもない、ごく平凡にコツコツとやってくタイプなので、ただそうしていただけなのだけれど、彼にとっては新鮮だったようだ。
周りには、彼と同じく夢や希望にもえ、それに向かって突き進むような人が多い中で、コツコツと、周囲の環境を整えることに腐心している(ようにみえる)私の存在は、この上なく素晴らしいものに感じたのだとか。

以上、彼の褒め殺しより引用しました。

でも、ねぇ。
私は今のところ、彼に恋をしていない。むしろ、だれに恋をするつもりもない。
このままコツコツと仕事をつづけて、コツコツといきていくだけだ。
恋とか愛とか、さやあてとか、そういうのに係るのはいやだな、と、感じてしまった。

だから。

「ごめんなさい」

ぺこり、と、頭を下げて、断る。
うん、ごめん。それに、多分、私は君についていけない。夢を、目標を、という勢いがない私は、きっと君と歩いていけない。

ゆっくりと深く頭を下げて、それから、顔を上げれば、彼が潤んだ目でプルプル震えていて。

え、と、想うまもなく、ぽろり、と涙がこぼれた。

え、ええええ、と、唖然とする私に、彼がぐいっ、とスーツの袖で目を拭い、そして、口を開く。

「そ、それでも、あきらめませんからぁぁぁぁ」

それだけいうと、彼は走って逃げた。

そう、走って逃げていった。

……戻る場所は、同じだというのに。

出会いなんて、どこにもないと思ってた。
毎日同じ事の繰り返しで、何も変わらないと、そう思ってた。

自分のことだけで精一杯なつもりはなかったけれど、やっぱり精一杯だった私は、その後宣言通り諦めずにアプローチを繰り返す彼に、次第に侵食されていく。
じわりじわりとにじみこむ中で、精一杯だった生活は、気がつけばじわりと、彩りを変えていく。

恋なんて、しないとおもってた。
いらない、と、思ってた。

じわりと侵食する彼に、次第に絆されたのは、いつのことだったか。

気がつけばガッツリ外堀を埋められ、愛してますと笑う彼に、私は降参と手をあげた。

恋なんていらない、と、思ってた私が、愛を手に入れたお話。

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