[思考]衝動。
2013.04.11 Thu [Edit]
The cat who saw an angel on the roof 3 / elitatt
終わりにしよう。
不意に、そう思った。
もういいんじゃないかな、と、そう思うと、それしか考えられなかった。
月が綺麗な夜だった。
甘えてんじゃない? と、言われる。
それでも、精一杯やってるつもりだった。
つもりだったとしても、周りからそう見えなければ、なにも意味が無いのだけれど。
どっかおかしいじゃない、と、言われる。
しっかりやってるつもりだった。
つもりだったとしても、どこか何かが足りてなかったのだと、今ならわかる。
もういいんじゃないかな、と、そう思った。
ひとつひとつ、できるだけ、やってるつもりだった。
でも、それが気に障る、と、いつしか彼も、そばからいなくなった。
自業自得だ、と、誰かがいった。
そうかもしれないけれど、そこまで言われることをしただろうか。
そして、そこまでいう誰かは、それほどできた人間なのだろうか。
普通に生活していたつもりだった。
普通に生きてきたつもりだった。
それでも、きっと、その普通は普通じゃなかったのだ、と、そう気づいたら、なんだか何もかもがおかしくて、笑えて仕方がなかった。
頑張ってるよ、と、心配してくれる遠方のともに語りかける。
大丈夫だよ、と、笑ってそう答える。
でも。
もういいんじゃないかな、と、深い溜息が出た。
綺麗な綺麗な月が、目に染みるようだった。
終わりにしよう、と、そう決めた。
だから、まず、家を掃除した。
全部全部、不要なものをどんどん捨てた。あれも、これも、全部全部。
誰にも後々迷惑をかけないように。誰の手も煩わせずに済むように。
できるだけ最小限に荷物を減らして、家の中を磨きあげた。
私がいなくなっても、なにも問題がないように、退去手続きをしたあとも、問題がおこらないように。
無心になって台所を磨く。
床を磨く。
お風呂を磨く。
トイレを磨く。
途中から楽しくなって、窓を洗い網戸を洗い、天井も壁も徹底的に磨きあげた。
終わる頃には数日がたっていて、部屋の中はどこもかしこもぴかぴかしてた。
綺麗になった部屋で、コーヒーを入れた。
奥の方にしまい込まれていたコーヒーメーカーで、コンビニのだけど、ちょっと買ってきたコーヒー豆で。
綺麗になったソファに座って、ゆっくりとコーヒーを飲む。
香りがふわりと漂って、幸せな気分になった。
見渡せば、今まで雑然としていたのに、スッキリとした部屋の中。
あんなにいらないものがあったんだな、と、思うと、なんだかおかしかった。
綺麗な部屋を見渡して思う。
もうちょとだけ。
もうちょっとだけ、頑張ってみよう、と。
少なくとも、この綺麗な部屋とコーヒーの香りに、私は幸せだと感じている。
深呼吸して、目をとじる。
私は私。足りない部分もあるかもしれないけれど、それも今の私自身であることには間違いない。
だから、そう、まずは今の私をそのまま受け止めて、それから、もう一歩前へ、いい方向にいくように、変わっていけばいい。
終わりにするのは、いつでも出来る。
ならば、終わりにするまでの間に、もう少しだけ、踏ん張ってみてもいいかもしれない。
窓の外には、少しだけ痩せたおつきさまが、ぽかりと浮かんでいた。
僅かに朧に霞むその月を、ぼんやりと眺める。
湧き上がる衝動が、ないわけじゃないけれど。
それでも。
いまはまだ、このまま。
終わりにするのは、先延ばしにしよう、と、そう思うのだった。
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