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[掌編]僕と君とマカロンと。

2013.03.27 Wed [Edit]

Coconut Macaroons
Coconut Macaroons / renee.hawk



「どうでもいいことなんだけど」

そう告げて、彼女は、ぱくり、と、目の前のマカロンをかじった。

教室の窓から差し込む光が暖かくて、どこかうっとりするような昼下がりのことだった。
段々と暖かくなるこの季節、陽の光の暖かさを堪能するには堪らない時期だな、と、思う。
寒くなく、暖かすぎず、そんな気候についつい居眠りしそうになる、そんな時期。
学期が始まれば受験生ともなれば、春休みでも何故か課外授業があるのは、しかたがないのかもしれない。

そんなある日の、午後、お弁当を食べ終えて、授業までの少し開いた時間、よく飯を食うメンバーが一人二人と席を外して、なんとなく一緒に飯を食う女子組の中で一人残った奴と、なにを話すでもなく、ぼんやりとお菓子をかじっていた。

彼女が、つぶやいた言葉に、ふっと、窓の外に向けていた視線を移動させる。

きらり、と、光りに反射した目が、思った以上に印象的だった。


「君のこと好きなんだけど、付き合ってくれる?」




絶句して見つめれば、彼女は気にせずにぱくり、ぱくりと色とりどりのマカロンを口に運ぶ。
ぱくり、ぱくり、と変わらぬスピードで食べ進む様子に、今のは空耳だったのだろうか、と、内心首を傾げる。

まるで、いいお天気ですね、とか。次は現国だよね? とか。そんな当たり前のことを問いかけたかのような、そんな口調で告げられた言葉は、一体どういう意味だったのだろう、と、あまりに平常運転な彼女の様子に、困惑してしまう。

けれど、じっと見つめていれば、やがて気づく。

そう、不自然に同じスピードで、不自然にぱくり、ぱくりと食べ進められるマカロンが、どんどん減っていっている事実に。

彼女は、クラスメイトで、同じ理系選択のメンバーで、多分来年も同じクラスの確立が高い、ある意味友人である。
親友を含む数名のつるむ男連中のうちのひとりが、彼女のグループのひとりと付き合っている関係で、なんとなく相互につるむようになった。
珍しく、ほぼ全員理系コースの人間だったりする、ある意味貴重なグループだ。

彼女のことを今まで意識して見たことはない。
なんとなくそこにいるクラスメイト、という感覚で、意識してない変わりに、否定も嫌悪もしていなかった。
女子の弁当は小さいな、とか、菓子をよく食べるよな、とか、そういう印象は他の奴らも含めてなんとなくいだいてはいたけれど、彼女個人の印象は果てしなく薄い。
強いて言うなら、表情が出にくいタイプだ、ということ、理系らしく(という表現もおかしいが)論理的というか合理的思考をするようだ、ということくらいだろうか。

その彼女から出たあのセリフは、彼女のわかりにくい表情から平然と繰り出されたように感じていたけれど、意外とそうでもなかったようだ。

彼女も、女子の常として甘いモノを割と好む。好むが、食べる量は、多少少なめだったように感じる。
なのに、表情が変わらない(ようにみえる)まま、ぱくりぱくりと食べ続ける量は、気のせいでなければ、彼女の許容量を超えている気がする。

そう思ってよくよく見れば、耳元がほのかに赤い。

ああ、聞き間違えじゃなかったのか、と、しみじみ思って、思案する。

付き合う。今のところ、彼女はいない。が、受験生になっていくのに、恋愛してる余裕あるのか? という疑問もある。
うつつを抜かすタイプではない、と、自分でも思うけれど、それでも、どう転ぶかは、恋することはあってもまともに恋愛したことのない自分には、わからない。
まあ、彼女がいやだ、というわけでもない。好きな相手としか付き合えない、などとロマンチストぶるつもりもない。
付き合ってみて始まるものもあるかもなー、とも、漠然と思うので、付き合うことはやぶさかではない。

志望校も確か、同じ系統だった気がするので、勉強を共にする、というのもありだろう。

うん、と、ひとつ頷く。

「ん。わかった。付きあおうか」

そういうと、ばっと顔を上げて彼女が目を丸くする。てからポロリと落ちたマカロンは、オレンジ色だった。

「え」

「うん、だから、お付き合いしましょう、よろしくお願いします?」

そう告げてみれば、じわ、と、彼女の顔に赤みがさして、うっすらと口元に笑みが浮かぶ。
黒髪にメガネの、割りと硬い感じの彼女ではあるけれど、これは、うん、悪くないどころかかわいいじゃないか、と、思っていると、その赤みのさした顔が一気に青ざめ、彼女は口元に手を当て、うなり始める。

「う……」

「ちょ、大丈夫かよ」

焦って声をかければ、うっすら涙目の彼女が、呟く。


「だいじょぶ、食べ過ぎただけ……」

思わず吹き出したのは、しかたがないことだと思う。


ただのクラスメイトで、クールでまじめに見えてた彼女の表情が、これほど変わるのも、こんなふうにちょっと愉快だということも、はじめて知った日。

そして、彼女とお付き合いなるものをする日々が始まるのだけれど、気がつけばいつしか、どっぷりとはまってしまうのは、いまは誰も知らない、マカロンだけが知ってる秘密、なのかもしれない。

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