[掌編]恋心のゆくえ
2013.10.24 Thu [Edit]

Rain / Tree / diongillard
「彼と、付き合えそう、なんだ」
そう、彼女はつぶやいた。
秋の雨が静かに、校庭に降り注ぐ。教室の窓越しに、それを見つめていた僕は、一瞬、どう答えればいいかわからなくて、少しだけ、会話に間が開いてしまう。
「……そっか」
良かったな、と、続けるべきだ、って、わかってはいた。
わかっていたけれど、その言葉が、僕の唇からこぼれることはなくて。
窓の外、雨に濡れる、色づき始めた木々の葉を眺めて、僕が絞り出せたのはたった、その一言で。
「……うん」
ガラスに映る、彼女の黒髪が、さらりと揺れて。
僕を見ているらしい、その、目が、どこか、悲しそうに揺らいで見えたのは、きっと。
僕の、願望がそう感じさせたに違いない。